2006年10月版

設備投資主導、民間消費下支えの底固い動き。米国経済減速の影響は出ていない。

【内外に二つの好材料―順調な「日銀短観」と原油価格の下落】
   経済の先行きを展望する上で、最近、明るい情報が内外に一つずつ出た。
   国内では、9月調査「日銀短観」で、本年度の設備投資計画の伸びが前年度の伸びを更に上回り、また雇用不足が進んでいるため企業の雇用拡大意欲が強まっていることが確認された(このホーム・ページの「最新コメント」欄“本年度の日本経済は拡大テンポが鈍るものの設備投資と雇用に支えられて底固く推移―9月調査「日銀短観」のポイント”H18.10.2参照)。
   本年度下期に米国の成長減速の影響で日本の輸出の伸びが落ち、成長が減速することはあっても、国内の設備投資の堅調と雇用拡大に伴う民間消費の底固さに支えられて、経済の拡大は着実に続く可能性が高まっている。
   海外では、原油市況が1バーレル60ドルを割り込み、原油高騰による世界経済への悪影響が後退している。これを好感し、米国の株価(NYダウ平均)は最高値を更新している。

【生産、出荷は引続き上昇傾向、8月の在庫率は低下】
   最新の景気指標を見ると、まず8月の鉱工業生産と出荷は、前月比、それぞれ+1.9%、+2.5%と揃って上昇し、最高水準を更新した(図表1参照)。また在庫率は前月比−5.3%と大きく低下した(同)。
   生産、出荷の上昇と在庫率の低下に寄与した主な製品は、普通乗用車、半導体製造装置、電子部品・デバイスなどである。
   電子部品・デバイスの在庫に過剰の気配があったが、その懸念は、6〜8月の出荷の大幅な伸び(3か月で+9.7%増)によって、後退している。
   先行き9月と10月の生産予測指数は、9月に前月比−0.1%と微減したあと、10月は再び前月比+1.8%増となり、上記の製品を中心とする生産の上昇傾向は続く見込みとなっている。仮に実績が予測通りになったとすれば、7〜9月期は前期比+1.2%増と1〜3月期(同+0.6%増)、4〜6月期(同+0.9%増)に比して加速する。実績が予測を下回ったとしても、着実な上昇傾向は崩れないと見られる。

【8月の一般資本財出荷は6〜7月の反動で伸び率低下】
   最終需要の動きを見ると、6月と7月に大きく伸びた一般資本財出荷は、その反動から8月の前年比伸び率が低下した(図表2参照)。それでも7〜8月の平均は、4〜6月平均比+1.3%増の水準にある。
   9月調査の「日銀短観」で本年度の設備投資計画が6月調査に比して上方修正され、前年度の伸びを上回ったことから判断して、設備投資は堅調に推移しているものと思われる。

【8月の猛暑で夏物が動き小売販売額は増加】
   8月の小売販売額は、本格的な暑さの到来で夏物商品が動いたため、前年比+1.3%増と4〜6月(同−0.2%減)や7月(同−0.1%減)の減少から増加に転じた(図表2参照)。
   消費の背後にある所得動向を探るため雇用と賃金の動きを見ると、8月の雇用者数は前年比+81万人(+1.5%)の増加となった。自営業主や家族従業員の形をとっていた潜在的失業者が雇用市場に出て来ているため、自営業主と家族従業員は前年比それぞれ−9万人、−45万人の減少となり、雇用者の増加を相殺しているので、就業者全体の増加は+22万人にとどまっている。このため、8月の失業率は4.1%のままで低下していないが(図表2参照)、潜在失業者の雇用市場復帰が一巡した後は、失業率の低下傾向が表面化すると見られる。
   名目賃金の前年比は、夏物ボーナスの増加で6〜7月には増加率が高まったが、8月はその反動で前年比が−0.5%と低下した(図表2参照)。所定内給与は抑制し、ボーナスと時間外で給与を増やす企業の態度は変っていない。

【住宅投資の伸びはゼロ金利解消後次第に頭打ち】
   新設住宅着工戸数は、住宅ローン金利引上げ前の駆け込みもあって、本年4〜6月期まで前年比で大きく伸びていたが、7月のゼロ金利解消のあと、7〜8月は反動的に伸び率が落ちた(図表2参照)。GDPベースの住宅投資は期によって振れが大きいが(3四半期連続増加のあと4〜6月期は減少)、趨勢として、今後は次第に伸びが落ちるのではないか。

【米国の成長減速の影響はまだ日本の輸出に出ていない】
   日本銀行が推計した実質輸出入の動きをみると、7〜8月平均の実質輸出は、4〜6月平均比+3.4%増となっており、1〜3月期(前期比+3.4%増)、4〜6月期(同+1.4%)に比して伸び率は落ちていない。米国経済の4〜6月期成長減速の影響は、出ていないようである。
   他方、7〜8月平均の実質輸入は、4〜6月平均比−0.7%と増勢が止っている。高値原油の輸入が抑えられていることが一因とみられる。
   このため、実質貿易収支の黒字は7月、8月と拡大しており(図表2参照)、7〜8月平均の4〜6月平均比は+14.9%の増加と推計されている。

【7〜9月期は4〜6月期よりは高いマイルドな成長か】
   以上の結果、7〜9月期の日本経済は、設備投資と純輸出が成長をリードし、民間消費にも下支えられて、引続き拡大を続けたとみられる。
   9月調査「日銀短観」によると、年度下期に売上高の前年比伸び率が低下すると見込まれているが、これは実現するとしても10〜12月期以降の話であり、7〜9月期については、4〜6月期(年率+1.0%成長)よりは高いマイルドな成長となったのではないかと予測される(図表3参照)。