本年度の日本経済は拡大テンポが鈍るものの設備投資と雇用に支えられて底固く推移
―9月調査「日銀短観」の結果(H18.10.2)
【業況は現状好転、先行きやや後退。設備投資は前年を上回る伸び】
本日(10月2日)発表された9月調査「日銀短観」の注目すべき情報は、以下の通り。
全規模全産業の「業況判断」DIは、現状、先行き共に横這いで、好調を持続している。このうち、大企業と中堅企業の製造業の「業況判断」DIは、現状は6月調査に比して一段と好転しているが、先行きは「良い」超幅がやや縮小する予想となっている。
先行き不安の背景と思われる情報は二つ。一つは、「仕入価格判断」DIの「上昇」超幅が大きいこと(エネルギー・原材料のコスト・プッシュ)。もう一つは、年度下期の売上計画の伸びが、国内・輸出共に前年比で縮小する見込みであること。
このため年度下期の経常利益の前年比増加率予想は、各規模各産業で6月調査に比して縮小している。
「販売価格判断」は素材業種で「上昇」超、加工業種と非製造業で「下落」超となっており、全体として国内物価は素材を中心にマイルドに上昇する見込み。
06年度設備投資計画は、引続き上方修正されており、ソフトウェア投資を含み土地投資を除くベース(GDP統計の設備投資に対応)では、製造業・非製造業・金融機関の全規模合計で、05年度の増加率を上回るに至った。
【業況は全体として横這い。大企業製造業は現状好転、先行き後退予想】
まず「業況判断」DIの内訳を見ると、大企業製造業は鉄鋼、一般機械、電気機械、精密機械を中心に「良い」超は24となり、6月調査の現状21と先行き22を共に上回る予想以上の好転。しかし、先行きは21と6月並みに後退。後述の素材コスト・プッシュと下期売上げ鈍化が背景か。
大企業非製造業の「良い」超は現状も先行きも6月調査と同じ20で横這い。業種別には、不動産、情報サービス、対事業所サービス、対個人サービスの「良い」超幅拡大が目立つ。飲食店・宿泊では「良い」超幅が縮小。
特に中小企業非製造業は、全体として現状・先行き共「悪い」超幅がジリジリ拡大しており、企業規模別の格差が目立つ。
以上の「業況判断」を総括した全規模・全産業ベースでは、6月調査に比して、現状も先行きも横這い。
【需給基調に変化なし。素材価格は上昇、製品・サービス価格は下落】
国内の製商品・サービスの「需給判断」や製商品の「在庫水準判断」はほとんど横這いで、インフレ傾向への変化もデフレ再燃も示唆されていない。
「販売価格判断」DIでは、素材業種の「上昇」超と加工業種・非製造業の「下落」超にはっきり二分されている。
このうち素材業種の販売価格の上昇は、全業種の「仕入価格判断」DIの大幅な「上昇」超に反映されている。全般にエネルギー・原材料のコスト・プッシュが強まっていることが窺われる。これが次に述べる下期の売上鈍化予想とあいまって、下期の収益予想に影響していると見られる。
【売上計画の伸びは輸出を主因に鈍化する見通し】
06年度の売上計画は、上期も下期も6月調査に比して上方修正されたが、それでも売上高の増加率は全規模全産業合計で前年比+2.8%増と、05年度の前年比+4.8%増を下回っている。企業規模別にみると、前年の伸びを下回っているのは大企業と中小企業で、中堅企業では前年度の+2.3%増に対し、本年度は+4.2%増と逆に伸びが高まる予想。
本年度の売上高の鈍化傾向は、上期から始っており、全規模全産業合計の売上高前年比は、05年度下期+5.5%増、06年度上期+3.7%増、同下期+1.9%増となっている。
このうち、特に勢いが落ちているのは大企業製造業の輸出の伸びで、同じ期間に+16.8%増、+9.8%増、+3.9%増と急落している。米国経済の成長鈍化の影響が大きいと思われるが、今後米国の経済成長が+2.5〜3.0%程度の巡航速度に軟着陸するか、景気後退に陥るかによって、大きく左右されよう。
【増益率の鈍化から売上高経常利益率は高水準ながらやや低下】
このような売上高の鈍化傾向と、仕入価格のコスト・プッシュを反映して、本年度の経常利益の予想も、6月調査に比して上方修正されているものの、伸び率としては鈍化する予想。全規模全産業合計で、増益率は05年度の+12.3%増から06年度は+1.8%に急落し、売上高経常利益率は05年度の4.01%から06年度は3.97%へ低下する予想。
企業規模別に本年度の売上高経常利益率をみると、大企業4.88%、中堅企業3.08%、中小企業2.71%と格差が大きく、また大企業ではやや低下する本年度の予想もなおバブル期のピークを上回っているのに対し、中堅企業と中小企業は依然としてバブル期のピークには及ばない。
また業種別には、大企業製造業の素材業種だけが、06年度に−5.1%の減益予想となっている。世界的な原料品市況高騰の圧迫であろう。
【本年度の設備投資計画は上方修正され前年度を上回る伸び】
「生産・営業用設備判断」DIは、大企業と中堅企業では6月調査で既に「不足」超となっていたが、今回の調査では、遂に中小企業も先行きが「不足」超に転じた。
このような設備判断を背景に、中堅企業と中小企業の本年度設備投資計画は6月調査に比して大きく上方修正されている。
その結果、全規模の製造業・非製造業・金融機関を合計した本年度の設備投資計画(ソフトウェア投資を含み、土地投資を除く)は、前年比+9.2%増となり、前年度の同+8.7%を上回るに至った。
本年度下期の日本経済は、輸出にやや不安はあるものの、内需の大きな柱である設備投資に支えられて、底堅い成長を続けると見られる。
【雇用の不足傾向は徐々に拡大、雇用者数の伸びもジリジリと高まる】
最後に「雇用人員判断」DIは、既に6月調査の段階で全規模全産業で「不足」超に転じていたが、今回調査では、現状も先行きも「不足」超幅が拡大する判断となっている。
これを全規模全産業(除金融機関)の合計についてみると、6月調査は「不足」超5、今回調査は現状の「不足」超8、先行きの「不足」超11である。
雇用者数の実績も伸びており、全規模の製造業・非製造業・金融機関合計で、6月末現在、前年比+1.9%増となり、05年12月末同+1.2%増、06年3月末同+1.3%増に比し、伸び率が高まっている。
このような雇用の増加傾向を背景に、民間消費も今度の成長を下支えて行くことが期待される。