2006年7月版
ゼロ金利政策終了の条件は整った
【成長持続を確認し、ゼロ金利解除が姐上に】
6月調査「日銀短観」によって民需主導型成長の持続が確認され、5月連休明けから始まった株価の調整局面も終わったようだ。デフレ脱却も一段とはっきりして来たので、市場の関心は7月中の利上げ(ゼロ金利政策の中止)の有無に向かっている。
06年度の成長率は、05年度の+3.2%には及ばないものの、潜在成長率(1.5〜2.0%)を上回る+2%台中頃になるものと見られ、需給ギャップの縮小と国際原料品市況の高止まりで、デフレは終焉局面を迎えている。実質金利の低下に伴う設備投資の行き過ぎを防ぐため、日本銀行は年度内に0.25%ずつ2回の利上げを行うのではないかという観測が広がっている。
【鉱工業生産は一高一低のうちに緩やかな上昇傾向を持続】
5月の鉱工業生産は、前月比−1.0%減と予測(+0.2%増)を下回ったが、6月の予測指数は同+2.7%増、7月は同+1.1%増と2か月連続してかなりの上昇を見込んでいる。実績は予測を下回る可能性が高いとは言え、生産の上昇傾向が崩れていないことは、図表1からも読みとれる。因みに、6月の実績が予測通りだと仮定すると、4〜6月期の前期比は+1.3%の上昇となる。
5月の生産低下と6月以降の生産再上昇の予測は、新車投入の一巡した乗用車の生産調整と秋以降の新車発表に備えた増産再開という自動車生産の振れによる面が大きい。
鉱工業全体の在庫率は3〜5月と3か月連続して低下し、5月の前年比は−1.4%の低下となっている。全体として荷もたれ感はみられないので、生産の緩やかな上昇傾向は続くと見られる。
【設備投資の堅調が目立つ】
ここへ来て設備投資の堅調が目立ち始めた。5月の一般資本財出荷は前年比+6.0%増と上昇幅を拡大した(図表2参照)。4〜5月の一般資本財出荷の平均は、1〜3月平均比+9.0%増の大幅上昇である。
GDPベースの設備投資(実質)は、1〜3月期に前期比年率+12.9%と2桁の伸びとなったが、6月調査「日銀短観」によると、大企業全産業の06年度設備投資計画は前年比+12.2%増と前年度(+6.8%増)を大幅に上回る2桁の伸びとなっている。中堅・中小企業を含めた全体(金融機関を含む)では、06年度計画は前年比+8.2%増と前年度(+8.7%増)を下回る伸びとなっているが、中小企業を中心に計画の上方修正が予想されているので、最終的には全体としても2桁の伸びになる可能性が高い(このHPの<最新コメント>“緩やかな内需主導型成長が続く。懸念材料は輸出の鈍化、素材業種の収益悪化、借入金利の上昇―6月調査「日銀短観」の結果”H18.7.3参照)。
【民間消費は不冴え、住宅投資は増加傾向】
設備投資の堅調とは裏腹に、内需のもう1本の柱である民間消費は冴えない動きをしている。
小売業販売額は、1〜3月期に前年比+0.6%増となったあと、4月は同−0.6%減、5月は同+0.1%増と2か月連続の不振である。新車登録台数(乗用車)も、1〜3月に前年比+0.5%増となったあと、4月は同−5.0%減、5月は同−6.4%減とやや大きく落込んだ(いずれも図表2参照)。
消費動向には、天候不順と株価下落が響いているようである。
消費の背後にある所得動向は、雇用・賃金の情勢から判断して、引続き緩やかな改善傾向を辿っているとみられる。図表2に示したように、雇用者数は着実に増加し、完全失業率は5月に4.0%に低下した。名目賃金も前年比上昇を続けている。
個人所得の回復傾向に加え、住宅ローン金利と住宅価格の先高予想もあって、住宅投資は増加している。新設住宅着工戸数の4〜5月平均は、年率132万戸に達し、1〜3月平均を+3.5%、前年を+11.0%上回っている(図表2参照)。
【1〜3月に減少した純輸出は4〜6月には再び増加する可能性】
最後に外需の動向をみると、GDPベースの1〜3月期純輸出(実質)は、輸出が前期比+2.7%増とまずまずの伸びを示した一方、輸入が前期マイナスの反動もあって同+3.5%増とやや高い伸びとなったため、差し引き純輸出は、成長に対して−0.1%減と4四半期振りのマイナス寄与となった(図表3参照)。
しかし、4月と5月の動向を日銀推計の実質輸出入によってみると、再び輸出の伸びが輸入の伸びを上回っており、4〜5月平均の実質貿易収支尻は、1〜3月比+2.6%増と拡大を示している(図表2参照)。
【コールレートをゼロから0.25%に引上げよ】
以上の分析から判断すると、4〜6月期は民間消費が冴えないものの、設備投資の高い伸びに牽引され、純輸出と住宅投資の支えも加わって、緩やかなプラス成長を続けたものと予想される。
図表3に明らかなように、05年1〜3月期からの成長はかなり急ピッチであり(5四半期平均して年率+3.8%成長)、GDPベースの需給ギャップは急速に縮小している。加えて、原油を始めとする国際原料品市況の高止まりが、徐々に国内最終製品に転嫁され始めている(前記HPの6月調査「日銀短観」の<最新コメント>H18.7.3参照)。
このためコアCPIの前年比は昨年11月から7か月連続してプラスを続け、5月は+0.6%の上昇となった。またGDPの国内需要デフレーターも、本年1〜3月期に8年振りの前年比プラスに転じた。
物価が上昇しているため、ゼロに張り付いた短期市場金利は、実質でみるとマイナスである。過去5四半期の平均成長率が年率+3.8%に達し、今年度の設備投資が年率2桁で伸びようとしている時、マイナスの短期金利をこれ以上放置しておいてよい筈はない。
取敢えずコールレート(無担、オーバーナイト)を0.25%という小幅で引上げ、ゼロ金利政策を終了するべきであろう。コアCPIが前年比+0.6%上昇している現状では、たとえ短期金利を0.25%に引上げても、実質ではマイナスの金利である。従って、ゼロ金利終了の市場や企業家心理に対する影響を見極めた上で、冷静に受け止められた場合には、更に0.25%幅の引上げを模索すべきであろう。