緩やかな内需主導型成長が続く。懸念材料は輸出の鈍化、素材業種の収益悪化、借入金利の上昇

6月調査「日銀短観」の結果(H18.7.3

 

【「業況判断」はバブル崩壊後最高の「良い」超で緩やかに改善】
 本日(73日)発表された6月調査「日銀短観」は、足許についても、先行きについても、内需主導の緩やかな回復が続くことを裏付けている。市場には、景気についての安心感が広がっているように見える。
 まず「業況判断」DIは、大企業の製造業・非製造業と中堅企業の非製造業では、足許、先行き共に小幅な改善となっており、その他の規模・業種では、足許改善、先行き横這いとなっている。
 既に「業況判断」DIの「良い」超幅は、バブル期の8890年には及ばないものの、バブル崩壊後の16年間では最高水準に達しているので、今後も急激な回復はあり得ないし、むしろ急激な回復(景気の過熱感)が無い方が、景気の持続性を高めることとなろう。

【素材価格の高騰を販売価格に転嫁する動き】
 やや変化が出てきたのは「価格判断」である。「仕入価格」判断DIは、素材業種を中心に大幅な「上昇」超を続けているが、ここへ来て素材業種の「販売価格」DIが「下落」超から「上昇」超に転じ、全規模全産業でみても、「下落」超幅が急速に縮んできた。
 製商品・サービスの「需給判断」DIや製商品の「在庫水準」判断DIは急速に引締まっている訳ではないが、ここへ来て原油を始めとする原料品市況の高騰を販売価格に転嫁する動きが広がっていると見られる。
 デフレ脱却を確実にする方向へ、日本経済が動いていることを示していると言えよう。

06年度の売上げ計画は輸出を中心に伸び率が鈍化する予想】
 売上計画を見ると、全規模全産業の売上げの前年比は、半期ベースでみて、05年度下期の+5.5%がピークで、06年度上期は+3.1%、下期は+1.4%と鈍化して行く予想となっている。
 このうち大企業製造業の輸出は、05年度下期に前年比+16.8%と大幅に伸びたあと、06年度上期は同+7.3%、下期は同+3.3%と大きく鈍化すると見込まれている。米国の46月期以降の成長減速を中心に、世界経済の拡大テンポが落ちると見ているためであろう。
 なお、中堅企業の売上計画は、製造業も非製造業も、05年度下期の前年比伸び率(夫々+4.8%、+2.7%)よりも、06年度上期のそれの方が高く(同+5.7%、+4.1%)、06年度全体の売上増加率(同+5.3%、+3.6%)も05年度(同+3.6%、+1.8%)より高い。06年度の内需の伸び率は、必ずしも05年度に比して鈍化しないと予想しているのであろう。

【大企業素材業種の悪化で収益率はバブル期を上回る高水準で頭打ち傾向】
 06年度の経常利益の増加率は、上期の前年比がマイナスになることから、年度全体としては、全規模全産業で+1.5%と前年(+12.3%)に比して大きく伸びが落ちる。
 これは、大企業製造業の素材業種が、原材料価格高騰のコスト・プッシュを十分に販売価格に転嫁できないことから上期を中心に減益になるためである。
 もっとも、06年度は増収率、増益率共に鈍化するため、売上高経常利益率でみると、全規模全産業で3.98%と前年の4.01%に比べてほぼ横這いであり、バブル期を上回る収益率を維持する見込みである。
 特に、中堅企業と中小企業は、全産業ベースで前年度を上回る売上高経常利益率が見込まれている。
 従って、06年度における収益率の頭打ち傾向は、国際原料品市況の高騰の影響を強く受ける大企業素材業種の収益動向によるもので、一般的な傾向とは見られない。

【大企業の06年度設備投資計画は前年を上回る伸び】
 06年度の設備投資計画(ソフトウェア投資を含み土地投資を除く)は、例年のように中小企業の投資計画が大きく上方修正されたのを主因に、3月調査に比して4.4%ポイント上昇し、前年比+7.6%(金融機関を含めると+8.2%)の増加となった。これは前年度の伸び率8.8%(同+8.7%)に比べると少し低いが、前年度の6月調査の伸び率よりは高い。
 今後経済情勢の予想外の悪化がない限り、更に上方修正され、最終的には前年度の伸び率を上回る可能性が高い。
 なお、大企業の設備投資計画は、製造業も非製造業も、既に現時点で、前年度の伸びを上回っている。


                    05年度       06年度(計画)
           製造業      +13.3%       +16.7
    大企業   非製造業     +3.5         +9.8
           全産業      +6.8          +12.2


【設備と雇用の不足感はジリジリと拡大】
 設備投資計画の背後にある「生産・営業用設備」判断DIをみると、大企業と中堅企業では足許も先行きも「不足」超となっている。また中小企業は、足許は僅かにまだ「過剰」超であるが、先行きは「不足」超に転じる。
 設備投資の増加は03年度から始まり、06年度で4年目に入るが、まだ設備過剰に陥る気配はない。
内需のもう1本の主柱である個人消費も、雇用情勢から判断すると、緩やかながら着実に増加しそうである。
 「雇用人員」判断DIは、全規模全産業で既に「不足」超に転じているが、「不足」超幅は先行き更に拡大していく(全規模全産業のDIで−10%ポイント)。
 また全規模全産業の雇用者数合計は、063月末現在、前年比+1.3%となった。
 更に06年度の新規採用計画は、同じ全規模全産業ベースでみて、前年比+10.9%(金融機関を含めると+11.5%)と、前年度(夫々+8.8%、+10.2%)を上回る伸びとなっている。

【内需主導型成長の持続予想と懸念材料の双方に注目】
 以上の6月調査「日銀短観」は、06年度の内需主導型成長の持続予想を裏付ける有力な資料と言えよう。
 先行きについて、輸出の伸び率鈍化、借入金利の上昇、素材業種の収益悪化などの懸念材料も今回の「短観」の中に出ているが、それを織込んだ上で、バブル期を上回る高収益率の持続が見込まれているのは、かなりencouragingである。
 今後、これらの懸念材料やその影響がどう出てくるかが注目されるが、取敢えず、今回景気の「いざなぎ景気」超えは、確実になったと言えよう。