20065月版

拡大持続とデフレ脱却に伴う金利上昇と円高に周章狼狽は無用

【金利上昇、円高、原油価格高騰の景気に対する影響は限定的
 米国の利上げ打止めと日本のゼロ金利離脱に伴う日米金利差縮小の予想などから、円相場は対米ドルで109111円とほぼ1年振りの円高水準となっている。このため5月連休明け後の株価は、相次ぐ063月期好決算の発表にも拘らず、輸出関連株を中心に冴えない調整局面となっている。また、海外では、原油や金の相場が高騰し、インフレ懸念からもドルが売られている。
 日本経済の成長持続を脅かすリスク要因の中に、金利上昇、円高、原油価格高騰の三つがあることは確かだ。しかし、当面の動きはあまり心配する程のことはないのではないか。
 金利上昇はデフレ克服に伴うゼロ金利離脱という強気見通しの反映である。円高も、それに伴う行き過ぎた円安の修正であり、実質実効為替レートでみると、最近10年間の平均に比べてまだ2割程度の円安水準にある。世界景気に対する原油価格高騰の影響もいまのところ顕在化していない。むしろ、米、EC、東アジアなど世界経済の順調な拡大を反映した原油高という面も大きい。

【生産は13月に一時的に鈍化したが上昇基調は変わらず】
 さて、足許の動きを見ると、3月の鉱工業生産は前月比+0.2%の微増にとどまり、13月期の平均は前期比+0.6%の増加と1012月期(同+2.8%)に比べて大きく鈍化した。しかし、図表1を見れば明らかなように、4月と5月の予測指数は+3.8%の大幅上昇のあと−0.5%の小反落となっており、45月平均は13月平均比+3.2%の高い水準が予想されている。
 実績はこの予測ほどの大幅上昇にはならないとしても、13月の増勢鈍化は一時的であり、46月以降、再び年率4%前後の緩やかな上昇軌道に戻ると思われる。上昇を主導している業種は、自動車、電子部品・デバイス、一般機械、情報通信機械など民間消費、設備投資、輸出の関連業種である。

【雇用情勢の緩やかな改善が進む】
 景気回復の持続を反映して、雇用情勢の緩やかな好転が続いている。3月の雇用者は、サービス業、製造業を中心に前年比+2.1%の増加となり、完全失業率は前月同様4.1%にとどまった(図表2参照)。
 このところ、家族従業者、自営業主の形をとっていた潜在的失業者が雇用者に転じてきているため、雇用者が大きく増加(3月は前年比+111万人増)する反面、雇用者と家族従業者と自営業主を合計した就業者全体の増加は、3月も前年比+48万人増にとどまり、失業率の低下のブレーキとなっている。しかしこの傾向が一巡すれば、就業者の増加は雇用者並みとなり、失業率の低下はもう少し早くなるであろう。

【民間消費と住宅投資は回復持続、設備投資の伸びは一時的に鈍化か】
 雇用の回復を背景に、民間消費も緩やかに増加している。13月の小売業販売額は前年比+0.6%増となり、乗用車新車登録台数も同+0.5%増となった(図表2参照)。
 また、新設住宅着工戸数も、20012004年の年率120万戸を下回る水準から次第に回復しており、本年13月期は127万戸、前年比+5.0%増となっている(図表2参照)。所得の回復期待、不動産価格と住宅ローン金利の先高予想を背景に、住宅投資の意欲が高まり、消費と並んで景気を引っ張る形となっている。
 他方、足許の設備投資の動きを反映する一般資本財出荷は、13月平均で前期比−4.8%減となり、前年比も+2.6%と増加幅を縮小した(図表2参照)。しかし、先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)が、前年比89%の高い伸びを続けている(図表2参照)ことや、「日銀短観」の06年度設備投資計画がしっかりしている(このHPの<最新コメント>06年度は雇用と設備の不足から内需主導型成長が続き企業収益率はピークを更新する予想―3月調査「日銀短観」が語る06年度の日本経済”H18.4.3参照)ことから判断すると、設備投資の鈍化は一時的とみられる。

【外需は引続き順調に拡大】
 最後に輸出入動向をみると、原油価格の高騰で13月の輸入額は前年比+27.3%の著増となったため、輸出額も同+17.6%と大きく伸びているものの、貿易収支の黒字額は同−34.4%の減少となった。
 しかし、実質GDPに響く実質ベースの輸出入(日本銀行推計)を見ると、13月の輸入量が前年比+6.4%の伸びであるのに対して、輸出量は同+11.8%と大幅に伸びており、実質ベースの貿易収支(実質GDPの「純輸出」に反映)は、前期比+6.4%、前年比+31.0%と著しく好転している。
 このような輸出数量の伸びは、米国、EC、アジア、中南米の経済拡大が確かりしていることと、円の実質実効為替レートが最近まで円安に振れていたためである。

3ヶ月以内のゼロ金利政策解除はありうる】
 以上の内外需の動向から判断すると、来週末に発表される13月のGDP統計では、設備投資の増勢鈍化などから成長率は1012月期の年率+5.4%(図表3参照)に比して低下するものの、引続き拡大傾向を続けるものと思われる。
 問題は、金利と円相場の動向が今後の経済成長に与える影響である。3月に量的緩和政策を解除して以降、日銀預金残高は減少を続けており、6月中にはゼロ金利離脱の条件である6兆円まで引き下げることは可能な状況にある。
 他方、全国消費者物価(除生鮮食品)の前年比は3月まで3ヶ月連続して前年比+0.5%の上昇を続けている。また日本銀行は、個人論文という形ではあるが、GDPベースのデフレ・ギャップが解消したという推計を発表した。更に今後はガソリンなど石油価格の高騰が最終製品の価格引上げに転嫁される傾向が強まるとみられる。賃金の回復を反映してサービス価格も強含みに変わってくるであろう。
 このような情勢から判断すると、デフレ脱却は一段と明確になり、向こう3ヶ月以内にゼロ金利離脱(例えばコール・レートの誘導目標の0.25%への引上げ)の政策転換が行われることは十分あり得ると考えておいた方がよい。国債の市場利回りで見て、23年物が1.0%、5年物が1.5%、10年物が2.0%程度へ上昇してくるのは、自然な姿である。

【金利上昇と円高の悪影響を過大評価すべきではない】
 しかしこの程度の金利上昇は、日本経済のデフレ脱却と2%台の実質成長率の持続(05年度は3%超の予想)を反映した当然の動きであり、この金利上昇が逆に成長を阻害すると見るのは行き過ぎである。日本銀行が0.25%ずつのコール・レート引上げを急ぎ過ぎない限り、金利面から持続的成長が崩れる恐れはない。
 米国では5月に入ってFFレートを5.0%まで引き上げたが、バーナンキ連邦準備制度議長は、情勢によっては金利引上げをこれで打ち止めにする可能性を示唆した。米国の経済成長を、潜在成長率並みの3.0%に軟着陸させるには、この金利水準で丁度よいとの判断があり得るという事であろう。
 そうなると、日米金利差は縮小に向かうことになり、当然最近のような円高・ドル安の動きが出てくる。しかし110119円という最近1年間の相場は、対ドル実質レートでみて1980年代央を上回る歴史的な円安水準である。円の実質実効為替レート(日銀試算)でみても、90年や98年の円安水準を下回り、95年や2000年の円高水準よりは3040%安い。
 従って、急激な円高が企業採算を攪乱することは避けなければならないとしても、日本企業の競争力に関する限り、今後の1020円の円高には十分に対応出来ると考えられる。
 今後の金利上昇や円高の予想で、日本の景況感を大きく下方修正する必要はない。