2006年2月版

当面は危なげのない成長が続き市場は企業の好業績を再確認した形

【ライブドア・ショックで一時急落した株価は再び新高値を更新】
   昨年後半から回復歩調を辿っていた日本の株価は、ライブドア・ショックをきっかけに調整局面に入り、1月16日(月)からの3日間に、日経平均で1113円(6.7%)下落した。その後25日(水)迄は小幅な騰落を繰り返していたが、26日(木)から急速に回復し始め、27日(金)以降はショック以前の水準を抜き、新高値を更新している。
   これは、17年4〜12月の主要企業の好業績が次々と発表され、投資家が景気の持続性を再確認したためである。ライブドア事件も、市場参加者のルール堅持とその監視機能の強化につながれば、むしろ将来の株式市場の健全な発展をもたらすものであり、景気や一般の企業業績とは直接何の関係もないことが、改めて確認された形である。

【生産、出荷は8月以降の着実な上昇傾向が続いており、在庫率は横這い】
   確かに景気の持続性を確信させるような統計が、この1ヶ月にも続いている。
   昨年12月の鉱工業生産の実績は、予測の前月比+4.7%増には及ばなかったものの、同+1.4%増と5ヶ月連続の上昇となった。その結果、10〜12月期平均の前期比は+2.7%と前期の−0.2%減から一転して大きく伸びた。12月の水準は、バブル期のピークを抜いた前月を更に上回っている。図表1を見れば分かるように、出荷も生産と同様に上昇傾向を示しているため、在庫率は落着いている。
   8月から始まったこのような緩やかな回復傾向は、電子部品・デバイス、一般機械、自動車などの業種がリードしている。
   世界的な在庫調整が一巡した電子部品・デバイスは、8月からの5ヶ月間に、生産が+19.0%、出荷が+18.3%と大幅に上昇した。一般機械の回復には設備投資と輸出の増加が反映されているが、一部にはIT部品の調整完了に伴う半導体製造・テスト装置の需要増加も響いている。また自動車は、国内外における日本の乗用車シェアの上昇を背景としている。

【10〜12月期の設備投資と民間消費は順調な伸び】
   10〜12月期の設備投資、民間消費、輸出の基礎統計がほぼ出揃ったが、いずれも上昇傾向を続けている。
   設備投資と、一部輸出の動向も反映する一般資本財出荷は、12月に前月比+3.0%増、前年比+5.5%増と共に伸び率を高めた。10〜12月期平均では、前期比+2.2%増となり、前年比では+5.3%増と7〜9月期の同+1.8%増に比べて増加幅を広げた(図表2参照)。
   12月の民間消費は、本格的な寒気到来とボーナスを中心とする所得の増加を背景に、家計統計、販売統計共に、確りした動きとなった。
   まず消費水準(勤労者家計)は、図表2に示したように、12月は前年比+2.8%増と伸びを高めた。10〜12月期の前年比も+2.2%増と7〜9月期の同−1.1%減とは様変わりの上昇となった。これは、10〜12月期の名目賃金が前年比+1.0%増(7〜9月は同+0.4%増)となったことに支えられた動きと見られる(図表2参照)。また小売販売額の前年比も、12月は+1.2%増と11月の+0.6%増より上昇の幅を広げた。

【10〜12月期の成長率は7〜9月期を上回り、05年はバブル崩壊後の最高暦年成長率となる可能性】
   日本銀行が推計している実質輸出入の動きを見ると、10〜12月期の実質輸出の伸びは前期比+2.8%増と実質輸入の伸び(同+0.1%増)を上回り、実質貿易収支尻は拡大した(図表2参照)。10〜12月期実質GDP統計の純輸出は、前期の寄与率ゼロ(図表3参照)とは異なり、プラスの寄与になったと見られる。「日銀短観」などで見られるように、輸出関連大企業は本年度下期の輸出回復に期待をかけているが、その走りが出ているのであろう。
   以上のように、内需の2本柱である設備投資と民間消費、ならびに外需が、10〜12月期には揃って増加するので、今月中に発表される10〜12月期の実質GDPは、7〜9月期の前期比+0.4%(年率+1.7%)を上回る幅のプラス成長となる可能性が高い(図表3参照)。
   その場合、平成17(2005)暦年の平均成長率は、ほぼ3%となり、2003年の+1.8%、2004年の+2.3%を上回り、バブル崩壊後の最高暦年成長率となる可能性もある。

【潜在失業者の労働市場復帰と自発的失業者の増加で失業率の低下は緩やか】
   このような成長率の回復を反映して、労働需給も中期的に改善しており、12月の有効求人倍率は平成4年以来、11年振りに1.00%に達した。
   労働市場では、97年をピークに7年間減り続けた労働人口が、潜在的失業者の求職活動開始に伴い増え始めており、05年第4四半期は前年比+0.4%の増加となった。
   他方、完全失業者はより良い職を求める自発的失業者の増加により、減少傾向は比較的緩やかである。
   このため、図表2に示したように、05年中の完全失業率の低下傾向は遅々としており、05年第4四半期の平均は4.5%と4〜6月期や7〜9月期の4.3%に比し僅かに上昇している。
   しかしこれは景気回復期特有の過渡的現象であり、労働力人口の増加はやがて限界に達して減り始め、他方就業者は着実に増え続けるため、本年中の失業率ははっきりした低下傾向に転じるであろう。

【消費者物価の前年比は2ヶ月連続で+0.1%となったがデフレ脱却の判断はまだ早い】
   日本経済全体の需給改善は、労働市場と並んで、物価面にも反映され始めた。
   全国消費者物価(除く生鮮食品)は、11月に前年比+0.1%と上昇に転じたあと、12月も同+0.1%とプラスを保った。個々の商品・サービスの特殊事情によって今後振れることはあっても、GDPベースの需給ギャップが改善傾向を辿っていることから考えると、大勢として、消費者物価(同)の前年比は再びマイナスに戻る可能性は低い。
   しかし、0.1%程度の前年比プラスは統計誤差の範囲内であり、はっきりデフレ脱却と言うためには、少なくともプラス幅が0.5%以上にならなければ不安が残る。量的緩和政策の圧縮はあるとしても、ゼロ金利政策の放棄は秋以降であろう。

【本年の経済の前途に横たわる三つのリスク、金利・国民負担・米国経済】
   本年の日本経済の前途には、金利問題を含め、少なくとも三つのリスクがある。
   金利については、ゼロ金利放棄の思惑から長期金利が早めに上昇し、つれて投機的円高が起きるリスクである。日本銀行は量的緩和圧縮とゼロ金利放棄の違い(このHPの<論文・講演>欄のBANCO“量的緩和とゼロ金利の区別”05年12月15日参照)を十分に説明し、ゼロ金利放棄の期待が早く出過ぎて長期金利が過度に上昇しないよう、時間軸政策の維持に細心の注意を払うべきである。
   第2のリスクは、定率減税縮小や社会保障負担の増加など国民負担の増加が、雇用者報酬の回復をどの程度相殺し、消費態度にどの程度響くかである。これには、06年度予算の内容だけではなく、来年度以降の消費税率引上げ議論の心理的影響も含む。
   第3のリスクは米国経済が減速し、日本の輸出に響くリスクである。昨年第4四半期の年率成長率は前期の+4.3%から+1.1%に大きく減速し、05暦年の成長率は前年の+4.2%から+3.5%に落ちた。個人消費と設備投資の減速によるもので、これが一時的かどうか、今後十分に見ていく必要がある。