量的緩和とゼロ金利の区別 (『金融財政』2005.12.13号)
十月の全国消費者物価(除生鮮食品、以下同じ)が前年同月比でゼロ%となった。五月にも一時的にゼロ%になったことがあったが、六月以降は再び前年同月比がマイナスとなり、そのまま九月まで推移していた。
それが十月に再びゼロ%になったのであるが、今度の場合は五月と異なり、一時的なものではない。十一月以降もマイナスには戻らず、むしろゼロからプラスになる可能性が高い。
私はこうなる事を既に七月二十日付の『週刊東洋経済』(一〇〇〜一〇二頁)で指摘しておいた。その主旨は以下の通りである。
消費者物価の足を引っ張り、前年比をマイナスにしているのは、公共料金と農水畜産物(除生鮮食品)の下落である。公共料金では昨年十一月と本年一月の通信料金引下げが、消費者物価全体の前年比を〇・一%ずつ引き下げた。農水畜産物(同)では、昨年十月の米価値下がりが全体を〇・二%引き下げた。
この二つの効果を合わせた合計〇・四%が前年比マイナス幅から消えるのは、本年十月から明年一月の間であり、その時消費者物価の前年同月比がマイナスからプラスに転じる可能性がある。勿論、この時に景気が悪化し、需給ギャップが拡大していると、新たな下落品目が増えてきて、プラスになるとは限らない。しかし、少なくとも〇三年度(+二%)や〇四年度(+一・九%)並みの成長率であれば、需給ギャップは縮小を続け、下落品目が増えて再び前年同月比がマイナスに戻ることはないであろう。
以上が本年七月時点の私の判断であるが、七~九月期GDPが発表になった現在、本年度の成長率は二・五%を超えると推計されるので、需給ギャップ面からも前年同月比がマイナスに戻るような事態は考えにくい。
消費者物価の前年同月比プラスが続き、先行きもマイナスに戻るまいと多くの人が思い始めるのは、来年春頃であろう。ただしその場合、前年比プラス幅が〇・一〜〇・三%程度では、本当にデフレを脱却したのかどうか、心もとない。やはり、成長率と需給ギャップの見通し、海外商品市況の動向、他の物価指数の動きなど広範な情報を用いた多角的検討が必要だ。
デフレ脱却の判断は拙速に行わない方がよい。人々が日銀のデフレ脱却の判断を信頼する迄、つまり人々の予想インフレ率がプラスに転じる迄、金融政策は名目短期金利をゼロに保った方がよい。財政政策は歳出削減と定率減税打切りなどの増税で、〇六年度予算は緊縮的になるので、折角始まった民間需要主導型成長を壊さないためのポリシー・ミックスとして、ゼロ金利政策解除を早まってはならない。
しかし、そのことと量的緩和の縮小とは話が別である。量的緩和政策とは、準備預金制度の必要準備額(六兆円弱)を上回る過剰準備を、日銀当座預金(現在三〇〜三五兆円)に積み上げる政策である。この量的緩和政策に景気刺激効果は無かったが、インターバンクの市場機能を壊し、銀行の流動性管理の自主性を無くす副作用があった。そろそろ正常化に向け、量的緩和の縮小に着手すべき時期だ。
日銀預金の残高を徐々に圧縮しても、六兆円を上回っている限りゼロの短期金利は続く。つまり量的緩和政策をやめてもゼロ金利政策は続くのだ。人々がゼロ金利政策も終わると勘違いしないように、日銀は十分にPRしなければならない。デフレが終わる迄ゼロ金利が続くと分かれば、時間軸効果が残るので長期金利の異常な上昇は起きないであろう。