2005年10月版

IT調整が進み輸出に立直りの兆し
─ 内需、外需の両輪が揃うか ─

日本の景気は、本年に入って内需主導で再上昇を始めたが、ここへ来て外需に回復の兆しが出てきた。順調に行けば、年度下期には内外需が揃い、経済成長に底固さが加わってくるかも知れない。

【IT部品の在庫調整は終わった】
   8月の鉱工業生産は、予測指数の+2.3%増を下回る+1.2%増にとどまったが、今後の予測指数によれば9月は更に+3.0%の大幅増加、10月は−0.4%の微減となっている(図表1参照)。9月の実績は予測ほどの大幅上昇にはならないであろうが、7〜9月期の平均は前期比若干のプラスになるのではないか。
   注目すべきは、業種別の中身である。電子部品・デバイス工業が8月の生産、出荷、9月の生産予測のいずれにおいても大きく増加し、鉱工業全体を引張り始めた。このような生産増加にも拘らず、8月の電子部品・デバイスの在庫率は、前月比−6.1%減、前年同月比−5.4%減の水準に下っている。
   電子部品・デバイス工業の在庫調整は終わり、回復に転じたようである。

【IT調整の完了に伴い輸出の伸びは高まる兆し】
   IT部品の在庫調整は、世界的にも終わったようだ。
   日本の輸出(通関ベース)を前年比でみると、5月+1.4%、6月+3.6%、7月+4.3%と低い伸びにとどまり、貿易収支の黒字は縮小していたが、8月は+9.1%と伸びを高めた。商品別内訳を見ると、自動車・同部品、鉄鋼、一般機械の順で増加寄与度が高いが、7月まで減少していたIT部品の輸出が8月に増加に転じたことによって、8月の輸出全体の伸びが高まった。
   9月の計数が出るまでは断定できないが、昨年後半以降停滞していたGDPベースの純輸出(図表2参照)は、7〜9月期以降、IT調整の完了を主因に増加に転じるかも知れない。
   日本銀行が試算している実質輸出入をみると、7〜8月平均の4〜6月平均比は、輸出が+2.5%、輸入が+1.7%、貿易収支が+5.4%となっている。+5.4%という貿易収支の好転幅は、昨年4〜6月期以来の大幅なものである(図表3参照)。

【設備投資は確り、個人消費は強弱まちまち】
   8月の業種別動向でもう一つ注目されるのは、一般資本財の出荷が前月比+6.3%、前年同月比+8.7%と大きく伸びたことである(図表3参照)。この結果、7〜8月平均の4〜6月平均比は+2.2%増となり、4〜6月期に続き7〜9月期も設備投資が確り伸びる可能性が高まっている(図表2参照)。
   9月調査の「日銀短観」(このHPの「設備投資と雇用の回復で内需主導型成長の基盤強まる ─ 9月調査「日銀短観」の見方」参照)でも、05年度の全規模全産業の設備投資合計は、前年比+9.6%増と前年度実績(同+5.1%増)を上回る伸びが計画されている。
   設備投資と並ぶ内需のもう一本の柱は個人消費であるが、8月は強弱まちまちの動きとなっている。販売統計を見ると、小売販売額が前年比+1.5%と前月(+0.6%)より伸びを高めた。乗用車新車登録台数は前年比−0.8%減と落込んでいるが、前月(−2.8%減)よりは下落幅を縮小した(図表3参照)。
   他方8月の家計統計を見ると、季調済前月比で可処分所得が−1.8%減、消費支出が−1.2%減である。消費水準指数の前年比は−0.8%減と前月(−2.8%減)よりは下落幅を縮めた。季調済前月比では+3.0%である。

【雇用・賃金の回復傾向は続いている】
   このように8月の計数から見る限り個人消費は強弱まちまちで、7〜9月期の動向を判断するのは難しいが、基調的に見れば、個人消費は必ずしも弱くない。
   9月調査の「日銀短観」(このHPの「設備投資と雇用の回復で内需主導型成長の基盤強まる ─ 9月調査「日銀短観」の見方」参照)によれば、企業の「雇用人員判断」DIは「不足」超に転じ、現実の雇用者数も増え始めた。
   総理府や厚労省の統計でも、雇用者数は増えており、完全失業率は緩やかに低下している(8月は4.3%。図表3参照)。
   他方、名目賃金は、夏期ボーナスの支給が昨年より早かったため、8月は前年比−1.3%と下落したが(図表3参照)、「決まって支給する給与」は8月も前年比+0.4%上昇と本年4月以降の回復傾向を維持している。
   このような雇用・賃金の回復に伴って勤労者の所得も緩やかに増えているため、7〜9月期の個人消費もそこそこの伸びは維持するのではないか。

【7〜9月期も本年上期並みの高成長か】
   以上を総括すると、7〜9月期は、1〜3月期以来の内需(とくに設備投資と個人消費)主導の緩やかな成長(図表2参照)に、外需の再上昇も加わり、1〜3月期、4〜6月期に続いて年率4%程度の成長は維持しているのではないか。
   日本のエネルギー節約技術は大きく進歩しているので、原油価格高騰の直接的な影響は小さい。ただ、輸出環境にどの程度の影響が出るかは注目される。
   ハリケーン被害を受けた米国経済も、今のところは底固いようで、金利の上昇傾向が続き、米ドルはやや強くなっている。
   このような状況の下で内外需揃って日本経済が成長すると、需給ギャップは改善し、年末から来年にかけて消費者物価のコア・インフレ率が前年比でプラスに転じ、量的緩和政策の解除が日程に上がってくるであろう。
   問題は、小泉後の所得税増税・消費税引上げ・社会保険料引上げ・同給付水準引下げの政策路線である。国民が納得するような歳出削減が行われないままこの路線に入ることが見えてくれば、来年後半以降の国内需要に陰りが出てくる恐れがある。
   当面は、現在の堅調な株価と長期金利のジリ高傾向が続くのではないか。