2005年7月版
─ 非製造業を中心に雇用の緩やかな回復が始まる、製造業の活動は引続き停滞 ─
【鉱工業生産、出荷は停滞を続け、在庫率はジリジリ上昇】
5月の鉱工業生産は、予測指数通り、前月比−2.3%の大幅下落となり、出荷も同−2.7%と大きく落込んだ。図表1を見れば分かるように、これには前月の大幅上昇の反動という面があるので、4〜5月をならして平均を見ると、1〜3月平均に比して生産は−0.2%の減少、出荷は+0.9%の増加とほぼ横這いである。生産予測指数は、6月に+1.7%の増加、7月は−1.2%の減少と引続き一高一低を繰り返す予想となっている。
このような鉱工業生産、出荷の動きは、主として普通乗用車、パソコン、電子部品製造装置などの輸送機械、電気機械、情報通信機械、一般機械の生産・出荷の一高一低によって引起こされている。これらの機械工業部門では、この数ヶ月間、需要動向に合わせて小刻みに生産を調節しているが、それでも在庫水準はやや上昇しており、鉱工業生産全体の在庫率も図表1に明らかなようにジリジリと水準を高めている。
【IT部品の在庫調整はあまり進んでいない】
鉱工業部門の中で既に在庫調整が始まっている電子部品・デバイス部門では、生産が4〜5月に3月比−4.8%と抑制されているが、出荷も4〜5月に同−7.0%と更に落込んだため、この2ヶ月間に在庫は+8.2%、在庫率は+12.8%ポイントそれぞれ上昇した。
IT部品の在庫調整は世界的に遅れており、それが日本からの輸出(出荷)にも響いて、日本のIT在庫調整が足踏みしている。この分では、IT部品の在庫調整完了は年末近くになり、製造業全体の立直りも後ずれするのではないか。
IT部品に限らず、前述した各種機械工業を中心とする製造業の停滞は、中国や米国を始めとする世界的な成長減速に伴い、日本の輸出増加が鈍化しているためである。5月の実質輸出は前月比+0.8%の増加にとどまり、実質輸入の同+1.4%増を下回ったので、実質貿易収は同−1.0%の悪化となった。4月の横這いをはさみ、これで実質貿易収支は3〜5月と3ヶ月連続して悪化傾向を辿っている(図表2参照)。
【雇用の緩やかな回復が始まった】
以上のように、製造業は輸出の鈍化傾向が続いているために、昨年後半からの停滞が続いているが、日本経済全体を見ると、ここへ来て雇用が緩やかに回復し始めた。
5月の就業者数(総務省調べ)は前年比+46万人(+0.7%)の増加(うち雇用者数は同+41万人、+0.5%の増加<図表2参照>)となった。産業別の内訳を見ると、製造業は同−5万人(−0.5%)の減少となっているが、反面サービス業が同+33万人(+3.7%)、医療・福祉が同+41万人(+7.7%)のそれぞれ増加となったためである。
5月の常用雇用者数(厚生労働省調べ)を見ても、全体は前年比+0.5%の増加であるが、産業別内訳では、医療・福祉が同+3.0%、情報通信が同+2.7%、複合サービスが同+1.8%、教育・学習支援が同+1.6%、サービスが同+1.1%と非製造業の雇用回復が目立つ。この非製造業5業種を合計すると、常用雇用者数は1,479万人に達し、製造業の861万人を大きく上回る。
輸出関連製造業に代わって、消費関連非製造業がリードする緩やかな回復が始まるかも知れない。
【正規雇用の増加につれて賃金も回復傾向へ】
雇用の改善と並んで、賃金も回復傾向を示している。名目賃金の前年比(図表2参照)は、昨年中一貫して下落してきたが、本年1〜3月に前年比同水準となったあと、4月は前年比+0.6%、5月は同+0.4%と増加に転じた。これは時間外給与やボーナスの増加に加え、4月以降所定内給与が前年比プラスに転じたためである。
本年の春闘でも、ベースアップは厳しく抑えられているので、このような所定内給与の増加は賃金単価の高い正規雇用者が非製造業を中心に増え始めたためと見られる。因みに前述の常用雇用者数の前年比+0.5%増加の内訳は、一般が+1.1%の増加、パートが−0.8%の減少である。
医療、福祉、教育、通信などの対個人サービス業を中心に、雇用と賃金が回復し、それがこれらの対個人サービス業に対する需要を増やすという形で好循環が始まれば、輸出依存型ではない新しい回復が始まるかも知れない。
【対個人サービス中心の景気好循環は持続できるか】
このような新しいパターンの回復は、7月1日に公表された6月調査「日銀短観」でも示唆されている。
それを要約すると、「05年度の景気回復はスピードが落ちるものの、雇用の緩やかな回復を背景とする個人消費、および設備投資に支えられて持続する。しかし、その雇用と設備投資の回復は、輸出関連製造業から対個人サービス非製造業にウェイト・シフトする。製造業については、年度下期の輸出回復に大きな期待を寄せており、上期は停滞気味である。」
以上の「日銀短観」の内容は、上述したように、最近の月次統計の動きとも平仄が合っている。しかし、原油価格の動向や中国経済の成長減速など世界経済の動きによって下期輸出回復の期待が裏切られると、製造業における企業の業況感には下振れのリスクがある。その場合GDP全体の動き(図表3参照)が同じように下振れすると、国内非製造業中心の回復メカニズムにも影響が出るかも知れない。今後の動きが注目される。