2005年5月版

─ 個人消費と在庫投資に支えられ1〜3月期の成長率はやや高まるが持続性には疑問 ─

【1〜3月期の生産は3四半期振りに増加】
   3月調査の「日銀短観」で年明け後の景気調整持続が確認されたが、成長率は1〜3月期にプラスとなった模様である。
   3月の鉱工業生産は、予測指数の前月比+0.4%増加とは逆に、同−0.3%と2ヶ月連続の減少となった。もっとも、1月の生産水準が高かったので、1〜3月期の平均は前期比+1.7%と3四半期振りの増加となった。また4月の予測指数は前月比+3.5%の大幅増加となるので、5月の予測指数は−1.4%の反動減となるものの、4〜5月平均は1〜3月期平均比+1.8%の増加となる(以上、図表1参照)。
   このような動きから判断すると、昨年7〜9月期、10〜12月期と2四半期連続して減少した生産水準は、本年1〜3月期、4〜6月期と2四半期連続して増加に転じる可能性が出てきた。ただ、これには二つ留保条件を付ける必要があり、現時点で生産が増加傾向に転じたと判断するのは、まだ控えた方がよい。

【生産増加と併行して乗用車を中心に在庫が急増している】
   留保条件の第1は、4、5月の予測指数の上方バイアスである。3月もそうであったように、このところ生産の実績は予測を大幅に下回り続けているので、4、5月の生産実績は予測指数ほどには上昇しない可能性が高い。6月の動向にもよるが、4〜6月期が前期比プラスになるかどうかは、まだ分からない。
   留保条件の第2は、出荷と在庫の動向であり、その中身である。図表1を見れば明らかなように、出荷は本年1月をピークにして低下しており、在庫率は昨年12月をボトムにして上昇している。つまり1〜3月期の生産増加には出荷の裏付けが十分ではなく、このため在庫が溜まっているのである。
   業種別にみると、その主因は乗用車である。輸送機械工業の在庫は、昨年12月をボトムに本年3月まで+29.0%も急増し、3月の在庫率は前年比+19.8%の高水準である。

【乗用車は「前向き」在庫、IT部品は「後向き」在庫】
   この在庫は、「前向き」の在庫であろうか、「後向き」の在庫であろうか。
   乗用車の国内販売は、図表2の乗用車新車登録台数に見られるように、1〜3月期は前年比−1.3%の減少となったが、4月には一転して同+8.9%の大幅増加となった。4月だけの動きからは判断できないが、必ずしも国内向けに「後向き」の在庫が溜まっているとは判断できないのではないか。
   業界の情報によれば、この在庫は国内向けよりも輸出向けの「船積み待ち」が多いようである。もしそうだとすれば、4月以降の輸出増加によってこの在庫は減少し、生産は増加傾向を維持できるであろう。しかしそうでなければ、4月以降の生産増加は下方修正されるであろう。いずれにせよ、もう少し様子を見る必要がある。
   「後向き」在庫の代表格である電子部品・デバイス工業の在庫は、12月から3月まで4ヶ月連続して減少し、通計−10.0%の低下となった。1〜3月期の出荷は前期比+1.8%と3四半期振りに増加し、回復の兆しを見せているが、生産の増加は同+0.8%に抑えられているためである。
   もっとも、これでIT部品の在庫調整の完了が近いと見るのは早計である。3月の在庫率は、まだ前年比+41.9%増の高水準にある。

【1〜3月期の国内需要は在庫投資と個人消費が支え】
   製造業の生産・出荷・在庫の動向は以上のとおりであるが、これが1〜3月期のGDPの動きにどのような影響を与えたであろうか。3四半期振りの生産増加に伴う仕掛品在庫の増加と、前述した製品在庫の増加は、1〜3月期の「在庫投資」を増加させ、成長を支えたと見られる。
   1〜3月期の生産増加は、雇用と賃金には目立った影響を与えていない。図表2に示したように1〜3月の全産業ベースの雇用者数と名目賃金は、前年比トントンであり、失業率も4.5%で横這いである。家計統計を見ても、1〜3月の勤労者世帯の可処分所得は、前年比−0.1%の減少である。
   しかし、1〜3月期の個人消費は、消費性向を高める形で伸びた。勤労者世帯の1〜3月の消費水準は、前期比+3.8%、前年比+1.4%(図表2)の増加となり、消費性向は85.3%(前期は64.2%)に高まった。販売統計を見ても、1〜3月の小売販売額は、前期比+2.4%、前年比+0.1%の増加となっている。
   これは、1月の消費が災害で落込んだ12月の反動と寒気到来に伴う冬物の動きで大きくハネ上がっただめで、2月と3月の消費は必ずしも確りしていない。

【1〜3月期の設備投資、住宅投資、純輸出は横這い圏内、公共投資は減少持続】
   1〜3月期の他の国内最終需要項目は、いずれも冴えない。設備投資は、一般資本財出荷が前期比−1.2%と2四半期連続して減少し、前年比も+3.5%と増加幅を急速に縮小(図表2)していることから判断して、昨年7〜9月期、10〜12月期(図表3)に続いて頭打ち傾向であろう。
   住宅投資と公共投資も、図表2の新設住宅着工戸数や公共工事請負額から見て、横這い傾向と減少傾向であろう。
   他方、2四半期連続して減少した純輸出(図表3)は、1〜3月期に下げ止まり、僅かに増加したようである。1〜3月期の実質輸出は前期比+0.7%の増加となり、実質輸入の同+0.5%の増加を僅かに上回る伸びとなったため、実質貿易収支(図表2)は前期比+1.4%の微増となった。

【1〜3月期の成長率はやや高まるが持続性には疑問】
   以上の動向から判断すると、1〜3月の実質GDP統計では、前10〜12月期と同じように、設備投資と住宅投資がほとんど成長に寄与せず、公共投資が成長の足を引張る形となるであろう。しかし、個人消費と純輸出が成長に対するマイナス寄与からプラス寄与に転じ、在庫投資の成長寄与がやや大きくなるという点で、前期とは異なるのではないか。
   このため、1〜3月期の成長率は、10〜12月期の+0.1%(年率+0.5%)よりは高くなる可能性がある。
   しかし、成長を支える個人消費には可処分所得の裏付けがなく、在庫投資の増加は一時的で先行き反動減となることを考えると、日本経済が2%程度の成長軌道に復帰して来たと見るのは早計であろう。
   やはり高水準の企業収益が、雇用と賃金を通じて個人所得の増加を支える姿が出てこない限り、成長の持続性には疑問が残る。