2004年7月版

─ 景気は大型化してきたが依然として輸出頼り ─

【大企業・製造業の業況は輸出を中心に大幅な好転】
   7月1日に発表された6月調査「日銀短観」によると、全規模全産業で「業況判断DI」が好転し、また2004年度の売上高の伸びが前年度より加速する計画となるなど、景気回復の持続を裏付けるものとなっている。
   しかし、内容を仔細にみると、大企業・製造業の好転が突出している。大企業・製造業に比較すると、「業況判断DI」の好転幅は、中堅・中小企業や非製造業はその半分、あるいは半分以下である。とくに小売業の「業況判断DI」は、大・中堅・中小の各規模で悪化しており、また不動産は大企業で、建設は中堅・中小企業で悪化している。
   売上高の伸びも、大企業・製造業は輸出が前年度の+3.7%から本年度は+5.1%と伸びを高めることを主因に、全体としても+1.4%から+2.4%に加速する計画である。しかし、中堅・中小企業や非製造業の売上高の伸びは+5.1%よりもはるかに低く、なかには中堅企業・製造業のように本年度の売上高の伸びが減速する予測もある。

【輸出と輸出関連設備投資以上への広がりは見られない】
   また設備投資計画を見ても、大企業・製造業は前年度の+5.4%から本年度は+20.4%と飛躍的に伸びる計画となっている。ところが中堅・中小企業・製造業や各規模・非製造業は、前年度に比べて本年度の伸びが落ちるか、減少する計画となっている。
   以上のことから分かるように、6月調査「日銀短観」は、従来から言われていた輸出と輸出関連設備投資にリードされた回復を裏付けるものであって、その回復が国内需要(小売、不動産、建設など)に広がりを見せている証拠は見当たらない。好調な大企業・製造業でさえ、「雇用人員判断DI」はまだ「過剰」超の10%ポイントで、先行きも8%ポイントに縮小するに過ぎない。大企業で新卒採用がプラスに転じる計画は、来年度の話である。これでは個人消費や住宅投資への広がりようがない。

【原料高・製品安、借入金利上昇で増益率は鈍化の方向】
   6月調査「日銀短観」には、先行きの不安材料も潜んでいる。
   第1は原料高・製品安の見通しである。大企業と中小企業、製造業と非製造業を問わず、全ての規模と全ての産業で、「販売価格判断DI」はデフレの継続から大幅な(10〜30%ポイント)「下落」超の予想となっている。しかし他方で「仕入価格判断DI」は、中国の基礎資材のボトル・ネックや中東原油供給の地政学的リスクを反映した国際原料品市況の高騰から、逆に大幅な(10〜40%ポイント)「上昇」超の予想となっている。
   第2は、「借入金利水準判断DI」が、先行き20%ポイントの大幅な「上昇」超に転じたことである。米国の利上げや国内に出てきた超金融緩和からの「出口」論の影響で、金利上昇の予想が強まっているのであろう(このHPの<最新コメント>"日銀短観・米国利上げと超金融緩和の「出口」"参照)。
   第3は、本年度の増収率は前述の売上高の伸びで述べたように前年度よりも高まるが、増益率(経常利益の伸び)は、製造業が前年度に比べて半減することを主因に、大きく低下する。原料高・製品安と金利負担上昇による企業収益の圧迫が一因である。

【目先、景気回復に加速の動きはない】
   このような先行き不安を抱えながら、日本の景気は輸出と輸出関連製造業にリードされて回復を続けている。しかし、目先その勢いが加速するような気配はない。
   5月の鉱工業生産は、予測指数の+3.5%を大きく下回る+0.5%の増加にとどまり、6月と7月の予測指数も、夫々−0.1%、+0.6%と緩やかな上昇にとどまっている(図表1参照)。
   需要項目別に見て行くと、輸出と設備投資を反映した一般資本財出荷は、図表2に示したように、5月は前年比増加幅を縮小したが、それでも+14.3%となお高い伸びである。4〜5月の実質輸出の平均も、1〜3月平均に比し+1.9%の伸びを保っており、実質貿易収支も4〜5月平均は1〜3月平均比+12.4%の増加となっている。

【個人消費は家計統計と販売統計に大きな乖離】
   国内需要では、公共工事請負額の前年比マイナス幅はますます拡大しており、また昨年10〜12月と本年1〜3月に一時伸びを高めた新設住宅着工戸数も、4〜5月には落込んでいる(以上図表2参照)。
   判断が難しいのは、個人消費である。家計統計では、4〜5月の消費水準(勤労者世帯)の前年比が消費性向の高まりに支えられて増加率を高めている(図表2参照)。しかし販売統計をみると、同じ図表2に示したように、乗用車新車登録台数が1〜3月の前年比+1.8%から4〜6月は同−3.3%と下落に転じている。小売販売額や家電販売額も、4〜5月は前年比で減少している。
   家計統計はサンプル替えに伴って過大に出ており、販売統計はインターネット販売など新しい販売ルートが捕捉されていないために過小に出ている。鉱工業統計の耐久消費財の出荷は、1〜3月に比し4〜5月の前年比増加率は縮小しているが、季節調整済みの前月比は減少している訳ではない。恐らく個人消費は緩やかな伸びを保っているのではないか。

【景気は大型化してきたが持続的成長につながる保証はない】
   しかし、その裏付けとなる賃金と雇用は依然として回復していない。時間外手当ては増えているが、現金給与総額は4月に前年比+0.1%、5月に同−0.8%である。
   常用雇用の前年比が4月に+0.5%、5月に+0.3%と7年振りに増加に転じたのは朗報であるが、これには二つの特色がある。プラスに転じたのは非製造業であり、製造業の人減らしはまだ続いているというのが一つ。もう一つは、正社員は減り続けており、パートタイマーが増えている。
   企業は人件費総額(社会保険料負担を含む)を抑え込むため、社会保険料負担の増えないパートタイマーと時間外労働に頼る傾向をいまでも続けている。
   輸出回復が賃金・雇用の回復を通じて国内需要の回復をもたらすメカニズムは、依然として始動していない。連続プラス成長は4〜6月期で9四半期目に入り、前々回(95/T〜97/T)の記録に並ぶ(図表3参照)。鉱工業生産と出荷の水準も、前回、前々回のピークにほぼ並んだ(図表1参照)。今回の回復が、バブル崩壊後で一番大きな回復になる可能性はあるが、内需の自律的回復による持続的成長につながる保証は依然としてない。失業率も、前回、前々回よりも高水準にとどまっている。株価は前回、前々回よりも低い水準で足踏みを続けている。市場は本年秋以降、とくに来年の景気回復持続に自信が持てないのであろう。