4〜6月期の低成長は予想外、7〜9月期は家計消費と在庫投資に依存して持ち直す(H22.8.17)
【在庫投資の大幅減少と外需の縮小で予想外の低成長】
8月16日(月)に公表された本年4〜6月期の実質GDP(1次速報値)は、季調済み前期比+0.1%(年率+0.4%)と、私自身や大方の民間エコノミストの予測(年率+2%台中頃)に比して予想外に低かった。
私自身の予測(このHPの<月例景気見通し>8月版参照)と対比してみると、公表計数が低かった理由は主として次の2点である。
私は4〜6月期の「純輸出」(外需)の成長寄与度は1〜3月期(年率+2.3%)とほぼ等しく、他方、内需の成長寄与度は家計消費の停滞、設備投資の小幅増加、住宅投資の頭打ち、公共投資の減少などによってほぼゼロであろうと予測した。従って、4〜6月期は外需の成長寄与度とほぼ等しい年率2%台中頃のプラス成長になったのではないかと予測した。
しかし、4〜6月期の公表計数は、外需の成長寄与度が年率+1.3%と1〜3月期の6割弱にとどまり、他方内需の成長寄与度は年率−0.9%とマイナスになったため、全体として年率+0.4%の低成長となった。
【日本銀行の実質貿易収支と実質「純輸出」の食い違い】
日本銀行が推計している実質輸出入によると、4〜6月期の実質輸出は前期比+9.5%と1〜3月期の同+5.2%よりも伸びは高く、このため実質貿易収支も4〜6月期は同+19.1%と1〜3月期の同+14.6%よりも増加率が大きい。この計数を根拠に、私は4〜6月期の外需の成長寄与度は、少なくとも1〜3月期並みであろうと予測した。
それにも拘らず公表された実質GDPでは、4〜6月期の外需の成長寄与度が1〜3月期のそれの6割弱にとどまったのは、内閣府と日本銀行の輸出入物価の推計方法の違いか、実質サービス収支が大きく悪化したためか、そのいずれかまたは両方によるものであろう。
実質GDP統計の1次速報値は、後述する今回の1〜3月期の修正のように、その後大きく動くので、4〜6月期の外需の成長寄与度が今後どのようになるか、注目したい。
【予想外であった在庫投資の大幅減少】
次に、内需の成長寄与度が私のほぼゼロという予測に反し、年率−0.9%と大きく落ち込んだ主因は、私がほぼ中立的とみていた民間在庫投資の成長寄与度が、同−0.6%に達したことである。
家計消費の横這い、設備投資の微増、住宅投資の公共投資の減少は、私の予測通りである。ただ、住宅投資は頭打ち程度とみていたが、前期比−1.3%(年率−5.0%、成長寄与度−0.1%)と予測より大きかった。
1次速報の在庫投資は、メーカーの製品在庫統計、原材料在庫統計、一部流通業者の流通在庫統計などから推計されるが、2次速報値では、「法人企業統計」の在庫(仕掛品在庫、幅広い流通在庫を含む)によって修正されるし、更に次に述べる今回の1〜3月期の在庫投資のように、その後も大きく動く。
これも、今後どのように修正されていくか注目される。
【1〜3月期も在庫投資と純輸出が原因で下方修正】
以上のように、今回の4〜6月期実質GDP統計の成長率が予想外に低かったことについては、今後まだ動く可能性がある。
しかし、私自身を含め、多くの人が予測していたよりも、4〜6月期の実勢が弱かったことは確かであろう。
大切なことは、このまま7〜9月期以降も弱いのか、それとも4〜6月期はエコポイント制度の対象が絞りこまれたことによる一時的な家計消費の反動減などによるもので、7〜9月期以降の成長率は持ち直すのか、の判断であろう。
それを考える前に、取り敢えず4〜6月期の計数をいれた10暦年と10年度のゲタを試算すると、実質ベースで前者は+2.7%から+2.5%へ、後者は+1.5%から+1.4%へ低下した。これは1〜3月期の年率+5.0%成長が、今回の4〜6月期のGDP発表時に、同+4.4%成長へ−0.6%ポイントも大きく下方修正されたためである。
下方修正の主因は、在庫投資の成長寄与度が−0.5%ポイント、純輸出のそれが−0.4%ポイント、それぞれ大きく下方修正されたためである。
このように実質GDP統計、とくに在庫投資と純輸出は、後になって知らぬ間に大きく動くことがあるので、今回の4〜6月期の在庫投資と純輸出、ひいては全体の成長率についても、今後の修正に注目していかなければならない。
【家計消費と在庫投資を中心に7〜9月期の成長率は持ち直す】
さて、問題は7〜9月期以降の動向である。今回発表された4〜6月期の統計の中に、それを考える一つの手懸りがある。それは、雇用者報酬と家計消費の相対的な動きである。家計の中には、雇用者ではない自営業者の家計も含まれているので、家計消費の方が雇用者報酬よりも大きいが、両者の比率は、日本の家計の消費性向の動向を示す代理変数とみることができる。
家計消費を雇用者報酬で除した比率(消費性向の代理変数)は、下表の通り、本年1〜3月期と4〜6月期に低下している。これは賃金の持ち直しなどから雇用者報酬が2四半期連続して増加している割りには、家計消費が伸びていないためで、家計の消費購買力が持ち越されていることを示している。
7〜9月期は夏期ボーナスが前年を上回ったことからみて雇用者報酬は引き続き増加しているとみられる。これに支えられて、家計消費も猛暑で夏物消費が増えていると伝えられる。
従って、7〜9月期は4〜6月期のエコポイント制度絞り込みの影響で停滞した家計消費が再び増加し始め、また2四半期続いた在庫投資の停滞や減少が一巡するので、他の条件に大きな変化がない限り、成長率は4〜6月期よりも持ち直す蓋然性が高いとみられる。