1〜3月期は想定内の大幅マイナス成長、4〜6月期以降は純輸出の増加、財政出動の効果、交易条件の好転に依存して底入れ

―09年1〜3月期のGDP統計発表を受けて(H21.5.20)


【1〜3月期は予想の範囲内の大幅マイナス成長】
 本日(5/20)発表された09年1〜3月期GDP統計(1次速報値)によると、実質成長率は前期比−4.0%(年率−15.2%)と、前期(夫々−3.8%、−14.4%)をやや上回る大幅なマイナス成長となった。2四半期連続の大幅落ち込みの結果、1〜3月期は前年同期を−9.7%下回る水準まで落ちた。また09年度平均成長率は、−3.5%と前年度(+1.8%)から一転して大幅なマイナス成長を記録した。
 しかし、このような大幅な落ち込みは、このHPの<月例景気見通し>(2009年5月版)でも予想していたところであり、民間調査機関27社の予測平均(年率−16.0%)の範囲内である。このため、本日の株式市場では、織り込み済みの情報として反応せず、前場の株式相場は上昇して始まった。
 1〜3月期は今回景気後退の最悪局面であり、4〜6月期は輸出の底入れを主因に鉱工業生産が3月から回復していることなどから判断して、マイナス成長の幅が大きく縮小するか、場合によっては小幅のプラス成長に転じるであろう。

【純輸出のマイナス寄与度は大きく縮小し、4〜6月期はプラスの寄与度へ】
 昨年10〜12月期と本年1〜3月期は、共に記録的なマイナス成長となったが、その要因ははっきりと異なっている。
 10〜12月期の年率−14.4%のうち、実に−12.5%は純輸出の落ち込みによるものであり、国内需要の寄与度は−2.2%にとどまっていた。しかし1〜3月期は、純輸出のマイナス寄与度が−5.4%に縮小したにも拘らず、国内需要のマイナス寄与度が−9.8%に拡大したため、10〜12月期を僅かに上回る大幅なマイナス成長となったのである。
 純輸出のマイナス寄与度の縮小は、輸出の落ち込みが小さくなったからではなく、輸入が10〜12月期の前期比+3.1%(寄与度−1.9%)から、1〜3月期はGDPの大幅な連続マイナス成長を反映して同−15.0%(同+11.1%)と、一転して大きく落ち込んだためである。
 既に輸出は3月に底入れして増加し始めており、反面遅行指標の輸入は1〜3月期までの大幅なマイナス成長の影響が残って減り続けるので、4〜6月期の純輸出はプラスに転じ、成長率の押し上げに寄与することとなろう。

【1〜3月期の大幅マイナス成長の主因は国内民間需要の落ち込み】
 これに対して国内民間需要は、家計消費、住宅投資、設備投資、在庫投資が揃ってマイナスの成長寄与度を拡大、ないしはプラスの成長寄与度からマイナスの成長寄与度に転じた。その結果、下表の通り、国内民間需要全体では10〜12月期の−3.2%の寄与度から、1〜3月期には−10.0%の寄与度に拡大したのである。


 今後を展望すると、遅行指標の雇用と賃金の悪化が続いて家計所得が落ちるため、消費者物価下落による下支えはあるものの、家計消費と住宅投資の下落は続くと見られる。
 これに対し、企業投資では、設備投資が引き続き減少するものの、在庫投資の減少幅は縮小し、成長に対するマイナスの寄与度は縮小(プラスの成長寄与)すると見られる。


【4〜6月期は輸出増加と在庫投資減少幅の縮小が成長率を押し上げる】
 以上の結果、4〜6月期の成長率は、純輸出の増加と在庫投資の減少幅縮小によって成長に対するプラスの寄与度が拡大し、また定額給付金の支給や公共投資の増加などの景気対策の効果も出始めるため、マイナス成長幅の縮小ないしプラス成長への転換が予測される。
 しかし、その後の回復テンポは、輸出の回復スピードと財政出動の効果に依存しており、多くの不確定要因があるため、予断を許さない。

【GDPデフレーターは2四半期連続して上昇し、名実逆転は解消】
 1〜3月期のGDP統計には、このほか、注目すべき動きが現れている。
 まず、GDPデフレーターが10〜12月期の前年同期比+0.7%に続き、1〜3月期も同+1.1%と上昇していることである。いわゆる名実逆転は完全に解消し、名目成長率の方が実質成長率よりも高くなった。
 GDPデフレーターは、総需要デフレーターから加重平均で輸入デフレーターを差し引いた値であるが、総需要デフレーター(国内需要デフレーター前年同期比−0.9%と輸出デフレーター同−12.4%の加重和)のマイナスよりも、輸入デフレーター(同−23.2%)のマイナスの方が遥かに大きいため、差し引きしたGDPデフレーターはプラスになるためである。
 これは価格体系の中で海外物価が相対的に割安、国内物価が相対的に割高となっているためで、物価水準としては海外物価も国内物価も世界同時不況を反映して下落している。このような価格体系の変化が起こっている時は、GDPデフレーターはインフレ・デフレの指標にはまったくならない。戦後最長景気の後半、05〜07年のGDPデフレーターの下落を見てデフレが続いていると見ていた政府の判断は、この誤りを犯したものである。政府の論法では、いま戦後最長最深の景気後退の中で、インフレが起こっていることになってしまう。


【日本経済の基盤である実質GDIと実質GNIの落ち込みは実質GDPより小幅】
 海外物価が国内物価よりも大幅に下落しているということは、日本の交易条件が好転しているということである。
 このため、交易条件の好転=交易利得の拡大を反映し、下表のように実質国内総所得(GDI)と実質国民総所得(GNI)は、実質国内総生産(GDP)よりも落ち込み幅が小さくなっている。つまり、実質GDPで見ている程には、日本経済の基盤である実質GDIや実質GNIは落ち込んでいない。
 この交易条件の好転に伴う実質GDIや実質GNIの増加が、これからの日本経済の回復を下支える一つの力となるであろう。