2009年5月版
輸出と鉱工業生産は底入れ、雇用・賃金・消費・投資は今回景気後退の最悪局面
【鉱工業生産は3月以降上昇に転じた】
日本経済の落ち込みの底が見えてきた。
3月の鉱工業生産と出荷は、前月比、共に+1.6%、+1.4%と6か月振りの増加となり、4月と5月の生産予測指数は、前月比、夫々+4.3%、+6.1%とやや大幅に上昇を続ける(図表1)。
実績が予測通りになると、4〜5月平均は1〜3月平均比+4.9%の増加となるので、昨年4〜6月期から4四半期続いた生産の落ち込みは、5四半期目の4〜6月期に止まることになる。また生産の前年同月比マイナス幅も、本年2月の−38.4%をボトムとして、5月には−28.5%まで縮小する。
図表1を見れば明らかなように、昨年10月からの落ち込み幅に比べれば3月以降の動きは小幅の増加に過ぎないが、生産が底を打ったことは確かなようだ。業種別にみると、これ迄の急落の中心であった電子部品・デバイス、自動車、一般機械などがいずれも上昇に転じた。
【アジア向けを中心に輸出は底入れ】
生産底入れの原因は、@これ迄の大幅な生産抑制によって在庫調整が進捗したこと(鉱工業生産者在庫は3か月連続して前月比減少し、3月の前年同月比は−4.9%減)、A急落していた輸出の減少テンポが鈍り、3月には底を打ってやや上昇したこと、の二点である。
国・地域別の輸出動向を見ると、下のグラフのように、対中国と対アジアの輸出は、2月から前年比減少幅が縮小し始め、3月には対米国輸出も減少幅が縮小した。このため、輸出全体も、2月の前年比−49.4%減をボトムに、3月は同−45.6%減と減少幅を縮小した。
これは、現地の在庫調整が進捗してきたためであるが、同時に、アジアを中心とする新興国・途上国の最終需要が、成長は鈍化するものの、マイナス成長には陥っていないためである。
因みに、4月のIMFの世界経済見通しによると、下表の通り、中国、インドのアジア新興国は、本年も夫々+6.5%、+4.5%と高い成長率を維持し、来年は更に+7.5%、+5.6%の成長率に高まると予測されている。
【遅行指標の雇用と賃金は一段と悪化】
このように輸出急落に端を発した不況の波は底が見えてきたが、遅行指標である雇用情勢はここへきて一段と悪化している。
3月の「労調」の就業者と雇用者は、前月比夫々−1.4%、−0.9%と減少幅を広げ、完全失業者は同+25.0%と前月(同+12.4%)、前々月(同+8.2%)に比べて急激に増加幅を拡大している。このため完全失業率は、4.8%と前月比0.4%ポイント上昇し、5%の大台乗せを目前にしている(図表2)。
他方、3月の「毎勤」では、常用雇用者は前年比+0.5%と微増を保っているが、このうちフルタイム労働者は前年比−0.7%減、パートタイム労働者は同+3.6%増とパートタイム・シフトが顕著に現れている。これを反映して月間給与の所定内給与は前年比−1.3%と減少した。更に所定外(時間外)給与が同−20.8%、特別に支払われた給与(ボーナス)が同−20.1%と大きく落ち込んでいるため、現金給与総額は同−3.7%と減少幅を拡大している(図表2)。
【雇用と賃金の悪化から家計の所得と消費は減少】
このような雇用と賃金の悪化を反映して、3月の「家計調査」では、可処分所得(勤労者家計)の前年比が−3.3%と減少幅を拡大した。他方、消費支出(全世帯)は、同−0.4%と減少幅を縮小したが、1〜3月期の平均は同−3.3%の大幅減少である(図表2)。1〜3月期の全国消費者物価は、前年比−0.1%低下とほぼ横這いとなったので、名目消費支出の大幅減少は、そのまま実質消費支出の大幅減少となる。
3月の「販売統計」も振るわず、小売販売額は前年比−3.9%の減少、乗用車新車登録台数は同−24.5%の大幅減少であった。1〜3月の平均を見ても、前者は同−4.0%、後者は同−23.4%の減少である。
家計調査から見ても、販売統計から見ても、1〜3月期の消費はかなり不振であった。
【設備投資と住宅投資は減少、公共投資は反転上昇】
3月の一般資本財出荷は、前月比+3.5%と6か月振りに増加し、前年比マイナス幅も−30.8%と前月(−38.4%)よりも縮小した(図表2)。
しかし、これは輸出の底打ちを反映した動きであり、設備投資の下落が止まる兆しとは見られない。
1〜3月期をくくって見ると、一般資本財出荷は、前期比−19.3%の大幅減少であり、輸出のみならず、機械設備に対する投資も減少を続けていると見られる。先行指標である機械受注(民需、除く船舶・電力)は、2月に前年比−30.1%と前月(−39.5%)に比べやや減少幅を縮めた。
新設住宅着工戸数は、1〜3月期に前年比−21.4%(図表2)、前期比−10.6%と大きく落ち込んだ。前期比マイナスは、これで4四半期目である。住宅投資の下落傾向も、かなりはっきりしてきた。
これに対して、1〜3月期の公共工事請負額は、前年比+7.8%と増加し、特に期末の3月は同+15.3%の大幅増加となった(図表3)。公共事業の前倒し執行と平成20年度第一次、第二次補正予算の影響が出始めたと見られる。
【1〜3月期の実質GDPは今回景気後退期の最悪局面となる可能性】
純輸出の動向を示す実質貿易収支の動きを見ると、本年1月を底に緩やかに増加しているものの、1〜3月期をくくると、前期比−83.4%の大幅減少である(図表2)。
他方、日本の交易条件は国際商品市況の下落と円高を反映し、昨年8月をボトムとして、徐々に回復しており、1〜3月期の交易条件指数は前期比+15.4%と2四半期連続で好転した。
以上を総括すると、5月20日公表予定の1〜3月期実質GDPは、家計消費、住宅投資、設備投資の国内最終需要が揃って減少するほか、純輸出もまだ減少を続け、加えて前期に積み上がった「意図せざる在庫投資」の反動減もあるため、公共投資は増加するものの、10〜12月期(年率−12.1%)と同じか、やや上回るマイナス成長となりそうである(図表3)。
しかし、これが今回景気後退の最悪期となり、4〜6月期以降は輸出の回復と在庫調整の一巡、および財政刺激の効果も加わって、最悪局面を脱していくと思われる。