1〜3月期の3.3%成長に喜んではいられない

―1〜3月期GDP統計の見所(H20.5.16)


【1〜3月期の実質成長率は年率+3.3%と予測の上限】
 本日(5月16日)、08年1〜3月期のGDP統計の1次速報が発表され、1〜3月期の実質成長率は前期比+0.8%(年率+3.3%)となった。これは、07年1〜3月期の同+1.1%以来4四半期振りの高い成長率であり、このHPの<月例景気見通し>(2008年5月版、H20.5.8)で予想した+0.6%〜+0.8%や、主要民間研究所の予測した+0.5%〜+0.9%のほぼ上限に当たる。
 この比較的高い成長率は、当面の景気が減速、ないしは足踏み状態にあるとの認識に合わないところがある。1〜3月期の鉱工業生産と出荷が前期比それぞれ−0.6%と−0.5%の減少となり、雇用も頭打ちになっているからである。

【景気減速の実感と合わない高成長は実質輸出の予想外の増加による】
 生産、出荷や雇用の弱含みを引き起こしているのは、主として設備投資の弱さであるが、1〜3月期の実質GDP統計でも設備投資は前期比−0.9%の減少となった。
 しかし、1〜3月期の実質輸出が前期比+4.5%の大幅増加となり、同期の通関輸出(同−0.5%)やその実質値(日銀推計、同+3.2%)を大幅に上回って伸びている。このため純輸出の成長寄与度が+0.5%ポイントに達し、成長率+0.8%に対する寄与度は62.5%と典型的な外需主導型成長となった。これが、1〜3月期の成長率を比較的高目にした主因である。
 なお、住宅投資が前期比+4.6%(成長に対する寄与度+0.1%ポイント)と5四半期振りの増加になったが、これは建築基準法改正に伴う一時的落ち込みの反動であり、新設住宅着工戸数の回復傾向から十分予想されていたし、成長率押し上げ要因としては小さい。



【内需拡大を支えた家計消費の堅調】
 この住宅投資の増加と前述した設備投資の減少は、上の表に示したように、成長率に対する寄与度が+1%ポイントと−1%ポイントで相殺し合っている。従って、1〜3月期の内需が前期比+0.3%の増加となり、成長率に対する寄与度も+0.3%ポイントに達したのは、もっぱら家計消費の増加によるものである。
 <月例景気見通し>(2008年5月版)で予測したように、1〜3月期の個人消費は、家計統計で見ても販売統計で見ても上昇率を高めていた。これは、可処分所得の若干の増加と消費性向の高まりによるものである。
 これが1〜3月期の実質GDP統計に反映され、上の表に示したように、雇用者所得(名目)が前期比+0.6%の増加となり、家計消費が名目で同+0.9%、実質で同+0.8%(成長率0.8%に対する寄与度+0.5%ポイント)となったのである。

【07年度の成長率は5年振りに1%台に低下、国内需要デフレーターは10年振りに上昇】
 08年度1〜3月期のGDP統計と同時に発表された07年度のGDP統計によると、07年度の成長率は+1.5%にとどまり、03年度から06年度まで4年間続いた2%台成長は途絶えた。当面の日本経済の潜在成長率は+1.5%ないし+1%台後半と推計されているが、GDPベースのマクロ需給ギャップの縮小は、4年間続いたあと、07年度に止まった訳である。
 4年間の需給ギャップ縮小を反映して、国内需要デフレーターの下落幅は年を追って縮小し、07年度には97年度以来10年振りに小幅の上昇となった。更に、国内需要デフレーターと輸出デフレーターを加重平均した総需要デフレーターは、05年度から上昇に転じている。企業部門の総産出デフレーターである総需要デフレーターが、05年度から上昇に転じていたということは、デフレは政府、日本銀行が考えていたよりも早く、05年度に終わっていたということになる。
 これからは成長鈍化と物価上昇というスタグフレーション的傾向に注意が必要である。




【08年度は上期を中心に成長減速は免れない】
 07年度の成長率低下は、国内需要、とくに設備投資の減少によるところが大きい。この結果、07年度の成長パターンは、一段と外需依存の傾向を強めている。


 この傾向は、4〜6月期以降の08年度に引き継がれていると思われる、
 設備投資に6〜9か月先行する機械受注(除船舶・電力)は、07年度中の4四半期の間に0.8%しか増加していないが、本年4〜6月の見通しでは、前期比−10.3%、前年同期比−6.6%と大きく減少する予想となっている。本年1〜3月期の減少に続いて、08年度中の設備投資が弱含みで推移し、成長減速の主因となるのではないか。
 下のグラフを見れば明らかなように、最近の成長を引っ張っているのは純輸出の急増と家計消費の緩やかな伸びであるが、このうち輸出についても、本年1〜3月期が最後の高い伸びで、成長が減速している米国向けの輸出を中心に、これから鈍化して行く蓋然性が高い。
 従って、本年1〜3月期の年率+3.3%の成長率を最後に、08年度は上期を中心に成長率の低下は免れないと思われる。