2008年5月版

輸出と設備投資の鈍化を家計消費の増加が補い緩やかな拡大が持続

【足許の鉱工業生産は弱いが株価と長期金利に先行きの回復を見込む動き】
 輸出と設備投資の増勢鈍化を背景に、足許の鉱工業生産と出荷は弱含みで足踏みを続けているが、鉱工業生産の前年同月比よりも半年程先行して動く傾向のある株価は、日経平均で1万3千円台を割っていた3月中頃をボトムに回復傾向を示しており、5月に入って1万4千円台を窺う動きとなっている。
 このような株式市場の動向は、本年度下期以降の企業業績の回復をにらんだ動きのように見える。
 また、長期市場金利(10年物国債の市場利回り)も、サブプライム・ローン問題に伴う金融不安から資金調達に走る欧米金融機関の売り圧力もあって、ひと頃の1.2%台から1.6%台に上昇してきた。
 原油など国際原料品市場の高騰に伴う海外のインフレ懸念、米国金利引き下げの打ち切りのムード、国内消費者物価の上昇傾向(3月の全国消費者物価は前年比+1.2%)などが、市場の金利先行き観を徐々に変えているように見える。

【鉱工業生産と出荷は輸出と設備投資の鈍化から弱含み足踏み状態】
 3月の鉱工業生産は、前月比−3.1%と予測指数の同+2.0%を大幅に下回る下落となった。この結果、1〜3月期の生産は、前期比−0.6%と4四半期振りに減少した。
 先行きの予測指数は、4月は−0.3%の微減となったあと、5月は+3.4%と大きく上昇する形となっているが、仮に実績が予測通りになったとしても、4〜5月の予測指数の平均は、1〜3月平均比−0.2%の微減である。図表1を見れば分かるように、生産は弱含みで足踏みをしている。

【業種別には輸送機械と一般資本財の弱さが目立つ】
 足許の鉱工業生産の弱含みは、設備投資と輸出の動きを反映する一般資本財と、対米輸出が落ちて来た乗用車の弱さによるところが大きい。
 輸送機械の生産は、3月に前月比−6.8%の急落となったが、これは2月と3月の出荷が夫々前月比−1.1%、−4.5%と2か月続いてかなり落ち込み、在庫率が上昇してきたためである。減産は4月(予測)まで続き、5月から回復する計画である。
 また一般資本財(輸送機械を除く資本財)の生産は、前月比で1月から3月まで連続して減少し、3か月間に5.7%の急落となった。これはこの3か月間に出荷が生産を上回る−8.9%の落ち込みを示したためである。このため3月末の在庫率は、ボトムの昨年10月末に比して+9.0%高い水準にある。

【名目賃金が5四半期振りに前年比上昇】
 製造業の生産活動の弱さを反映して、このところ雇用の改善も足踏みしている。雇用者数は2月の前年比−0.3%に続き3月も同−0.1%と前年を下回った。前年比減少が目立つのは、製造業と建設業である。
 完全失業率は、2月に3.9%に上昇したことを除けば、昨年11月以降、3.8%で横這いを続けている(以上図表2参照)。
 雇用の改善が足踏みしているにも拘らず、名目賃金は、1月から3月まで毎月前年水準を上回り、1〜3月平均は前年比+1.4%と5四半期振りの上昇となった(図表2参照)。内訳を見ると、パートタイム労働者の定例給与の上昇が目立っている。これは、本年4月施行の改正パート労働法の施行を先取りした動きと見られる。

【1〜3月の家計消費は家電や乗用車を中心に確りした伸び】
 このような名目賃金の動向を背景に、家計統計の側でも、3月の可処分所得(勤労者所帯)が前年比+0.3%と5か月振りに前年を上回った。
 また、1〜3月の消費支出(全世帯)は、消費性向を高めながら、前年比+1.7%と昨年の10〜12月期以前に比べて上昇幅を拡大している(図表2参照)。
 販売統計を見ても、1〜3月の小売業販売額は、前年比+1.8%と10〜12月(同+0.8%)よりも伸び率を高めている。伸びが目立つのはスーパーと家電販売店である。
 やや低迷していた乗用車新車登録台数も、1〜3月期は前期比+1.7%の増加となり、4月はこの1〜3月平均比更に+3.5%の増加となった。乗用車の国内販売には、やや回復の兆しが見えてきた。

【輸出は対米国・アジアNIEsの減少を対ASEAN・西欧等の伸びが補う】
 外需に目を転じると、1〜3月期の輸出は前年比+6.0%と10〜12月期(同+10.0%)に比して上昇幅を縮め、季節調整済み前期比では−0.5%の減少となった。また3月だけみると、前年比は僅か+2.3%の伸びにとどまっている。
 地域別にみると、米国および米国の成長減速の影響を強く受けているアジアNIEs向けの輸出が、前年比で減少している。
 反面、西ヨーロッパ、ASEAN、太洋州、中東、中南米向けの輸出は高い伸びを維持している。
 他方、1〜3月期の輸入は、中東からの原油輸入が高い伸びを示しているため、前年比+10.2%と輸出の伸びを上回っている。
 しかし、エネルギー・資源価格の高騰で輸入価格が大幅に上昇しているため、実質ベースで見ると(日本銀行の試算)、1〜3月期は輸出が前期比+3.2%の増加、輸入が同+0.8%の増加と輸出が輸入の伸びを上回っており、実質GDPベースの純輸出に対応する実質貿易収支は、1〜3月期も前期比+9.6%の好転となっている(図表2参照)。

【本年1〜3月期は潜在成長率を上回る成長の見込み】
 以上の結果、来週5月16日(金)に公表される予定の本年1〜3月期のGDP統計では、昨年7〜9月期、10〜12月期に続いてプラス成長を維持すると見られる。
 昨年10〜12月期には、図表3に見られるように、設備投資(成長率に対する寄与度+0.3%)と輸出(同+0.5%)が大幅な伸びを示したため、成長率は+0.9%(年率+3.5%)と比較的高かった。しかし、本年1〜3月期の実質GDPでは、前述のように設備投資と輸出の伸びが10〜12月期に比して鈍化すると見られる。
 反面、実質GDPの55%を占める民間最終消費支出が、既に見たように、1〜3月期には10〜12月期に比して高い伸びを示すと見られる。
 この結果、1〜3月期の成長率は、10〜12月期には及ばないものの、潜在成長率(1.5〜2.0%)を上回る+0.6%〜+0.8%(年率+2.4%〜+3.2%)程度の成長になるのではないかと思われる。