生産指数等の基準時改定に伴い1〜3月期の景気判断はやや上振れ

―本年度上期に弱基調となる可能性はなお残る(H20.4.23)


【基準時改定に伴い1〜3月期の生産・出荷はマイナスからプラスへ】
 鉱工業生産・出荷・在庫統計が、これ迄の2000年(平成12年)基準から2005年(平成17年)基準に変ったことに伴い、自動車や鉄鋼のウェイト上昇と電子部品・デバイスのウェイト低下、うるう年調整の改善などが行われた。この結果、本年2月の生産と出荷は、前月比それぞれ−1.2%と−2.6%の減少から、+1.6%と+1.2%の増加に変わり、3月の生産予測指数を加えた1〜3月期の生産の前期比が、4四半期振りのマイナスとなる-1.9%から、4四半期連続のプラスとなる+0.5%に変わった。
 このため、1〜3月期の景気の基調判断は、「弱含み」ないしは「大幅な減速」から、「足踏み」ないしは「引き続き緩やかな上昇」に変更するのが適切と判断される。このHPの<月例景気見通し>(2008年4月版)“鉱工業生産・出荷と雇用に成長減速の気配”(H20.4.6)も、生産・出荷に関する限り上方修正の必要がある。

【新指数では最近時まで生産、出荷は安定的な上昇傾向】
 基準時改定に伴う変化は、1〜3月期にとどまらない。
 下の図表は、新基準によるグラフと旧基準によるグラフである。新基準のグラフでは、最新実績の本年2月まで、生産も出荷も比較的安定した上昇傾向を示している。これに対して旧基準では、去年の8月〜12月に生産と出荷が一段高となったあと、本年1月以降にストンと下がっている。この原因をどう見るか、あるいはどう解釈するかにやや窮していたが、安定的上昇傾向を示す新基準が出たお陰で、景気の基調には、このような劇的な変動は起こっていなかったことが判明した。
 旧基準時の2000年はITバブルの絶頂期であったため、旧基準の総合指数は電子部品・デバイス部門の大きな振れを実勢以上に強く反映していることが一因と見られる。





【景気の基調判断は「足許弱含み」から「一進一退」へ】
 生産指数と出荷指数が滑らかな上昇傾向に変わったことに伴い、「景気動向指数」も、一致系列と先行系列が1月に揃って50%割れとなったあと、旧指数を用いると2月も引き続き50%割れとなり、景気後退の懸念が強まるところであったが、新指数を用いた結果、2月は揃って50%を超え、景気が一進一退であることを示す形となった。
 内閣府の景気の基調判断も、旧指数を前提とした「足許弱含み」から、新指数を前提とした「一進一退で推移」に上方修正された。
 これで、1〜3月期に景気が急激に減速するという不自然な姿は想定されなくなったが、今後4〜6月期にかけて、どの程度の減速が起きると見るべきであろうか。あるいは、このまま緩やかな成長が持続すると見るべきであろうか。
 それを決めるのは、今後の輸出動向がどの程度の減速を示すのか、それを反映した企業の需要予測、ひいては設備投資がどう動くのか、によると言えよう。

【輸出は08年度上期にかけて更に鈍化する見通し】
 まず輸出動向を見ると、1〜3月の通関輸出金額は前年同月比+6.0%と10〜12月の前年比+10.0%に比べて伸び率が縮小した。季節調整すると、1〜3月は前期比−0.5%と僅かではあるが減少に転じた(下表参照)。



 3月調査「日銀短観」によると、大企業製造業の輸出は、下表のように07年度下期よりも08年度上期の方が前年比増加率が縮小する計画となっている。従って、08年1〜3月期の通関輸出の伸び率鈍化は、更に4〜6月期、7〜9月期にも持続する可能性が高い。



【設備投資の増加率も鈍化する傾向】
 次に設備投資の動向を見ると、設備投資と一部輸出の動向を反映する一般資本財出荷は、旧基準で見ると、昨年10〜12月期に前期比−1.9%の減少となったあと、本年1〜2月平均は10〜12月平均比更に−3.2%と大きく減少する形となっていた(通計−5.0%)。
 これに対して新基準では、10〜12月期は同−1.0%、1〜2月平均は同−2.1%と、減少幅は小さいものの、やはり減少する(通計−3.0%)。
 この一般資本財出荷とGDP統計の設備投資は必ずしもパラレルに動く訳ではなく、昨年10〜12月期は一般資本財出荷が前期比−1.0%の減少であったにも拘らず、GDP統計の設備投資(2次速報)は前期比+2.0%の増加であった。従って本年1〜3月期がどうなるかは、これだけではまだ分からない。

【先行指標や日銀短観から判断すると設備投資が減少する可能性は低い】
 設備投資の6〜9か月の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)は、1〜2月平均で10〜12月平均比+8.5%の大幅増加となっている(1〜3月期の見通しは同+3.5%)。これで昨年7〜9月期から3四半期連続の前期比増加であり、6〜9か月の先行指標であることから考えると、1〜3月の設備投資の実績が減少するとは考えにくい。
 なお、3月調査「日銀短観」によると、全規模全産業ベースで、設備投資の前年比は07年度上期に+3.9%の増加となったあと、下期には+4.6%と伸び率を高める計画となっている。
 このような設備投資諸指標の動きから総合的に判断すると、1〜3月期の設備投資は減速することはあっても、減少に転じる可能性は薄いと見られる。

【本年度上期の景気基調は弱含みとなる可能性がある】
 以上のように、輸出と設備投資は本年1〜3月期に減少に転じる可能性は薄いものの、伸び率は鈍化しており、4〜6月期以降の本年度上期には更に伸び率が下がる可能性がある。
 従って、本年1〜3月期に景気が急激に減速する可能性は少ないとしても、今後については、この程度の緩やかな拡大が持続する可能性よりも、本年度上期にいま一段の景気減速が起きる可能性の方が高そうである。
 鉱工業統計の基準時改定は、本年1〜3月期の急激な景気減速という誤った情報を否定する役割は果たしたが、本年度上期の景気については、依然として弱含みとなって行く可能性は残っている。