福田新首相の人事とマクロ経済戦略(H19.9.26)

【マクロ経済戦略の鍵を握る谷垣、町村、伊吹の3氏】
 福田新内閣が昨日発足した。臨時国会開会中とあって、ほとんどの閣僚が留任か、又は閣内の横滑りとなり、新しく入閣したのは2名にとどまった。恐らく、臨時国会終了後、明年1月の通常国会開会前に手直しをするのであろう。それ迄は、福田内閣がどこに重点を置き、何をしようとしているのかは、必ずしもよく分からない。
 しかし、自民党4役人事とあわせて内閣人事をよく見ると、マクロ経済戦略が小泉・安部内閣とは変わって来そうだということが、推測出来るように思う。
 鍵は、谷垣政調会長、町村官房長官、伊吹幹事長の3人である。

【谷垣政調会長は筋金入りの財政再建論者】
 谷垣政調会長は、小泉内閣末期の昨年3月(当時は財務相)、財政再建の中期シナリオを巡って、竹中総務大臣、中川政調会長の主張する成長路線と対立した。
 竹中・中川派は、低金利・円安・物価上昇で高い名目成長率を実現し、自然増収の大幅増加と金利負担の抑制で財政赤字を縮小し、財政収支のプライマリー・バランスを均衝させることを主張した。
 これに対し谷垣財務相は、与謝野経済財政相と組んで、低い名目成長率を前提に、厳しい財政再建によってプライマリー・バランスの黒字化を図ることを主張した。
 結果は、谷垣・与謝野派が竹中・中川派に敗れ、小泉内閣としては名目成長促進戦略を前提に2011年を目標とする財政再建の中期計画を決めた。
 この方針は安部内閣に引き継がれ、経済財政諮問会議を足掛かりに、太田経済財政相が推進役となった。

【経済財政諮問会議を批判し続けた町村、伊吹の両氏】
 ところが、この経済財政諮問会議の財政再建論議を批判し、財政再建、とくに税制改正の主導権を自民党に奪い返そうとして来たのが、自民党税調の小委員長であった町村新官房長官である。
 また、新しく幹事長の座に着いた伊吹氏も、旧大蔵省出身であり、党税調の中核メンバーとして、町村氏と同じ立場をとって来た。
 財政再建論者をもってなる谷垣政調会長が、税財政の専門家と自負する町村官房長官や伊吹幹事長と組めば、太田大臣率いる経済財政諮問会議の成長路線は、後退を余儀なくされるに違いない。
 福田内閣は、小泉・安部内閣の成長促進路線に基づく中期財政再建シナリオを修正することとなろう。

【小泉・阿部内閣を3氏はどの方向に修正するのか】
 問題は、その修正の方向だ。
 低金利・円安・物価上昇を目指す小泉・安部の成長戦略に代えて、正常金利・円安バブル修正・物価安定容認の経済安定戦略を採用するのが、最も望ましい。そうすれば、輸出関連企業だけが栄える格差経済から、国民生活が向上する格差の少ない経済に変わって来るからだ(詳しくは、このホームページの<最新コメント>“第2次安部内閣の「新経済成長戦略」持続は歴史の流れに逆行し国民生活の向上を妨げる”H19.8.27参照)

【経済実態を無視した財務省流の財政再建や改革の後退はご免だ】
 一つ心配なのは、経済実態を無視した財務省流の厳しい財政再建にならないか、という点だ。97年度超緊縮予算で景気回復を台無しにし、「平成金融恐慌」とその後の長期経済停滞を招いたような失政を繰り返したのでは、元も子もない。
 もう一つの心配は、「改革」が言葉だけに終わらないか、という点だ。福田首相は、かつて小沢民主党代表が述べた「自立と共生」という言葉を好んで使っている。「自立」とは競争促進と表裏であり、「共生」とはセイフティ・ネットの充実にほかならない。そのような「改革」を本当に実行して欲しい。
 経済財政諮問会議の地盤沈下が、改革政策の後退にならないことを祈りたい。