国際決済銀行(BIS)も円安の行き過ぎを「異常」と警告(H19.7.12)

【水泡に帰した円高ドル安協調政策の成果】
 日本銀行の推計によれば、円の実質実効レートは遂に1985年のプラザ合意前の水準まで下がってしまった。株価・地価のバブル発生と崩壊、それに続く「失われた10年」という大きなコストを払って進められたプラザ合意後の円高協調政策の結果は、水泡に帰した。
 この行き過ぎた円安に対しては、既にユーロ諸国の政府がG7で不満を表明し、米国議会でも、5月に円安に対する制裁の是非について、下院の公聴会が開かれたが、この程発表された国際決済銀行(BIS)の『年次報告書』(77th Annual Report ― 1 April 2006 ? 31 March 2007)においても、円安がはっきりと問題視されている。

【BISの年次報告書の警告】
 『報告書』は第8章「結論」のハイライトである「政策は今後どうあるべきか」(Where should policies go from here ?)の中で、円について一つのパラグラフを割き、次のように述べている。
 「最近進んでいる円相場の下落には、明らかに異常なもの(clearly something anomalous)がある。金融引締め政策は、この事態を直す助けになるかも知れないが(would help to redress this situation)、根本的な問題(the underlying problem)は、今後円高が大きく進むことはないだろうという、投資家の強過ぎる確信(too firm conviction)にあるように思われる。釣り合いを取るには(as a counterweight)、1998年の秋にたった2日間で円が対米ドルで10%も上昇し、円キャリ取引を行っていた投資家が多大の損失を被ったことを考えるよう促すのがよいかも知れない(might be better encouaged to consider)。」

【円安の行き過ぎにはバブルの要素がある】
 BISはバブルという言葉を使っていないが、円高は起らないという強過ぎる確信が、リスクを忘れた円キャリ取引の累積を起こし、異常な円安を招いていると言っているのであるから、バブルが発生していると言っているのと同じだ。日本人はバブルと言うと株価や地価のバブルを想像しがちであるが、経済学の実証研究では為替相場のバブルを対象にした論文が少なくない。為替市場では、これ迄短期、中期、長期のバブルが発生したり、崩壊したりしているからだ。今の円安バブルについても、近い将来若い人の実証研究が出てくることを期待したい。
 なお、言うまでもないが、今の円安が総てバブルだと言っているのではない。大きな内外金利差と内外価格差の縮小という二つの要因と並んで、バブルの要素があると言っているのである。詳しくはこのHPの<講演・論文>「利上げで円安修正を、物価は横這いでよい―内外価格差縮小下の金融政策」(『週刊東洋経済』07年7月14日号)を参照されたい。

【円安ブルの後始末は難しいがやらなければならない】
 円安が三つの要因で起っている以上、日本の利上げで金利差が縮小しても、円安修正が十分行われない可能性が高い。大切なことは、日本の利上げが及び腰ではなく、政策金利を1%台に持っていく強い政策意志の現われだと市場に思わせることだ。市場の期待がそのように変われば、円キャリ取引を累積させることに伴うリスクがより大きく感じされるようになり、バブルの膨張に歯止めがかかるかも知れない。
 一番危険なケースは、産業界の突き上げなどで米国政府が突然円安を非難した場合だ。恐らく一斉に円キャリ取引の手仕舞いが起って円高となり、それが更に円キャリ取引の逆転を煽る形で大幅な円高となり、混乱するだろう。そうなる前に、少しずつ円安の行き過ぎを修正していくことが大切で、それには継続利上げの政策意志が市場が考えているよりも強いことを示すことだ。