日銀の「札割れ」放置の決定は中途半端(H17.5.20)


【遅きに失した下限割れ容認の決定】
   日本銀行は、5月20日(金)の金融政策決定会合(政策委員会)において、日銀当座預金残高が操作目標である現在の30〜35兆円の下限(30兆円)を一時的に下回ることを容認する決定を賛成多数で決めた。反対した2名は、一時的ではなく、下限(30兆円)そのものの引下げを主張したようである。
   私が3月14日の時事通信社『金融財政』のコラム「BANCO」で、「日銀は札割れを放置せよ」(このHPの<論文・講演>欄のBANCO「日銀は札割れを放置せよ」(05年3月14日号)参照)と主張した頃から、政策決定会合では何回か議論されたようであるが、ようやく2ヶ月遅れで「札割れ」放置が決定された。率直に言ってもう少し早く、例えば無事に「ペイオフ解禁」を迎えた4月中の決定でもよかったのではないかと思っている。

【一時的、技術的な下限割れ容認という説明は不適切】
   今回の決定の内容について、私はやや批判的である。反対したと伝えられる二人の政策委員も、恐らく同じ視点からの反対ではないかと思う。
   福井総裁も認めているように、買オペに対する応札額が予定額に対しない「札割れ」が発生し、放置しておくと日銀当座預金が30兆円の下限を割ってしまうのは、金融システム不安の後退で、金融機関の「予備的動機」に基づくベースマネー需要が落ちているからである。
   それならば、「予備的動機」の減少に見合う分だけ日銀当座預金の操作目標を引下げても、「取引動機」と「資産動機」に基づくベースマネー需要は今まで通り満たされている訳であり、「量的緩和」の程度はそのまま維持されていることになる。日銀が心配している引締めの効果は全然無い筈である。
   なぜそのような説明をして、堂々と目標額の30〜35兆円(少なくとも下限の30兆円)を引下げないのか。下限の30兆円割れは、「一時的」だとか「技術的」だとか言う説明は、いかにも姑息で、中央銀行らしくない。

【二つの勉強会でこのテーマを今後議論したい】
   引締め方向への政策転換と間違われないように、慎重を期しているのであろう。
   しかし、あと数ヶ月のうちに、結局目標額30〜35兆円の引下げを決定することになるのではないか。その時、日本銀行の判断の遅れや政府に対する過大な配慮が批判され、中央銀行の政策能力や独立性に対する不信感が出たらどうするのか。日銀のために、それが心配である。
   私は、これから民主党の国会議員を対象とする勉強会(第2回「経済フォーラム21」6月16日)と、一般の方々を対象とする鈴木政経フォーラムの勉強会(本年第3回「鈴木淑夫と経済専門家を囲む昼食勉強会」7月22日)で、この量的緩和政策、とくに今後の在り方をテーマに採り上げ、植田和男東大教授(4月迄日銀政策委員会の審議委員)と議論してみたいと思っている。
   日本銀行の政策委員会の委員諸兄と日銀の政策スタッフの方々も、よく検討して頂きたいと思う。