民主党政権なら景気は必ず回復する(H15.10.24)


─ ドクター鈴木の解説 ─

【景気回復の兆は「小泉改革」とは無関係な理由による】
   日本の景気は、「輸出」と輸出関連大企業製造業の「設備投資」にリードされ、中小企業、非製造業、地方経済、個人家計を置き去りにしたまま、緩やかな回復過程に入ろうとしている。このため、大企業製造業が5割を占める上場株式の相場がやや回復する一方、国内の個人消費、住宅投資、公共投資は悪化したままで、失業率も5%台に高止まりしている。
   小泉首相は、このように偏った、緩やかな回復の兆を見て、「小泉改革」の成果が芽を出してきたと自賛している。しかしこれは、「小泉改革」とは何の関係もない動きである。米国と中国の回復という海外の要因で輸出が伸び、大企業のリストラ努力とデジタル家電関係の技術革新によって設備投資が上向いてきたのである。
   「小泉改革」の目玉である不良債権処理、財政赤字の削減、特殊法人の看板の懸け替えなどは、景気の足を引張るだけで、景気回復とは無関係である。

【民主党は財政規模を維持し経済再生を最優先する】
   小泉政権=自民党の政権公約を見ても、総需要を喚起する政策は含まれていない。「改革なくして成長なし」という基本原則を貫き、財政支出の削減を続ける一方、道路公団と郵政事業の民営化を公約の目玉に掲げている。そこには、総需要喚起、デフレ脱出を優先させる姿勢は、まったく見られない。
   このような自民党の政権公約を見て、マスコミや識者の一部には、「今回の総選挙の大きな争点は、いかにして不況を脱出するかという政策の筈なのに、各党の公約にはそれがあまり見られない」という論調が出ている。
   しかし、民主党の「マニフェスト」に関する限り、これはまったくの事実誤認である。「マニフェスト」には、
   "デフレ不況の下では、税収増加も歳出全体の大幅な縮小も著しく困難です。民主党は、政権獲得後、経済の安定成長が実現できるまで、現在の財政規模を原則として維持します。財政の健全化をするためにも、経済再生が最優先の課題です。"
   と述べ、そのための具体策を数字と期限の裏付けを持って詳細に述べている。
   以下では、@財政規模の維持と内容の組替えによる総需要喚起、A規制緩和によるビジネス・チャンスの拡大、B地方分権による地域経済の活性化、C将来の安心をもたらす年金改革、に分けて順次解説してみたい。

【デフレを克服する民主党の内需拡大策】
   民主党の「マニフェスト」は、"最優先の課題として「つよい経済」の再生に取り組み、景気の回復と雇用の安定に全力をあげます。そのためには、民間需要を掘り起こし、内需を拡大することが必要です"と述べ、以下のような総需要拡大策を公約している。
   @ダム建設や干拓などの自然破壊型の公共事業ではなく、1千万ヘクタールの森林再生のような自然回復型の公共事業に初年度1000億円、4年後には4000億円の予算を投入する、Aクリーンエネルギーの開発に現行の1500億円の2倍の3000億円の予算を投入する、B中小企業・商店街の支援予算に現行900億円の7倍の予算を割当てる、C農業土木予算として支出されている補助金を削減し、農業への直接支援・支払に使う、D4年間で警官3万人を増員して空交番を解消するため、毎年予算を400億円増やし4年後に1500億円とする、E小学校低学年の30人学級を完全実施するため、4年間毎年800億円ずつ予算を増やす、F幼保一元化と保育所2万ヶ所増設のため年間300億円の予算を確保、G失業保険の支給期限が切れた失業者や個人業主の倒産者に月10万円(2500億円の予算)の支給と医療保険料の軽減(25億円の予算)を実施、Hグループ老人ホーム1万ヶ所、10万人分の増設(850億円の予算)、I基礎年金の国庫負担を現行の1/3から5年間で1/2へ引上げ(2.7兆円の支出増)、J医療費の自己負担を一般人は現行の3割から2割へ、小学生以下は現行の2割ないし3割から1割へ、夫々引下げ(予算450億円)。

【支出拡大の財源は無駄な支出の削減で捻出】
   以上の歳出増加の財源は、いずれも無駄な歳出を削減することによって賄う。つまり、民主党は、歳出規模を維持したまま、歳出内容の組替えを行なう。歳出削減の主な内容は次の通りである。
   国の直轄事業のうち、川辺川ダム、諫早湾干拓、吉野川可動堰のような自然破壊型の無駄な事業、無駄な農業補助金や農業土木公共事業、9兆円の道路予算の一部などを削減して、政権獲得後の初年度である16年度に1.4兆円、17年度に2.5兆円を捻出し、前記@〜Jの需要刺激の支出増加を賄う。

【民主党は自民党にはない減税措置を公約】
   以上のような支出の組替えのほか、捻出した財源の一部は減税にも充てられる。
   第一は、個人の住宅ローンや自動車購入ローンなどの支払金利は、課税所得から控除することを認める。この減税策によって、住宅や耐久消費財の取得が促進される。
   第二に、現在NPO1万2千余のうち僅か15法人にしか認められていない「NPOへの寄付金の課税所得控除」を、NPOの6割にまで広げる。この減税によって、国民は自らの税金の使い途を、国ではなく自分で決められる範囲が拡大することになる。
   第三に、後述のように道路特定財源を一般財源化することに伴ない、道路特定財源として過去に増税した自動車重量税を半減し、自動車取得税を廃止する。これも自動車の需要を拡大する。

【規制撤廃を抜本的に実施し民間の経済効率を高める】
   以上は、歳入・歳出関係の需要喚起策であるが、更に民主党は、広い意味で経済の効率を高めるための政策を用意している。これも投資や消費の喚起、あるいは個人生活や企業活動の効率化によって景気を刺激する効果を持つ。まず民間市場経済の活性化を見よう。
   第一は規制の緩和・撤廃である。@まず各種の事業に対する規制を原則として撤廃し、ビジネス・チャンスを広げるため、政権獲得後1年間の準備の後、平成17年度に事業規制撤廃法案を国会に提出する。A高速道路は混雑が予想される大都市圏を除いて無料化し、その利用率を飛躍的に高める。所要資金2兆円は道路特定財源の一般財源化を含め、現行の道路予算9兆円の中から捻出する(詳細はこのHPの「最新コメント」欄"高速道路無料化か、道路公団民営化か"(H15.10.20)参照)。B郵便事業に民間企業が参入し易くなるように現行の参入規制を廃止する。郵貯・簡保の予入・加入限度を引下げて縮小し、民業圧迫を緩らげ、また郵貯・簡保資金の使い道を中小企業や地域への金融に切替える、C政府金融機関の融資に係わる個人保証を廃止し、事業のキャッシュフローに則した金融に改め、中小企業の発展を支援する。

【ひも付補助金の廃止と一括交付で地域経済は活性化】
   以上の民間市場経済の活性化策と並んで、地方自治体、ひいては地域経済の活性化策として、大規模な地方分権を用意している。
   現在、中央官庁が使途を特定して交付する補助金は20兆円あるが、そのうち18兆円を地方に使途自由の資金として移譲する。5.5兆円が所得税から地方住民税への税源移譲、12兆円が使途を特定しない交付税の一括交付である。
   これによって地方公共団体は、それぞれの地域のニーズに則した使い道を選択出来るので、支出の効率は高まり、同じ予算ではるかに大きな経済効果を持つ支出が行なわれる。
   残る2兆円は、国の直轄事業やその他の新しい支出(前述の@〜J)に振り向ける。地方が使う予算が20兆円から18兆円へ1割減っても、補助金交付を受けるための中央官庁との折衝や中央官庁の計画に合わせた投資の必要が無くなるので、支出効率、ひいては地方経済活性化の効果は高まるであろう。

【将来の安心を獲得する新しい年金制度の設計】
   最後に、国民の将来不安を除き、消費態度を前向きに変えるのが、年金改革の公約である。
   まず、基礎年金国庫負担の1/3から1/2への引上げは、前述の通り、歳出の組替えの中で5年かけて徐々に行なう。
   5年後の2009年から新しい年金制度を導入するが、その際、現行の制度で既に給付を受けている人の給付水準は変えない。過去に払込んだ保険料から期待されている給付予定額も変えない。
   その上で、消費税を目的税化して財源とする「基礎年金」と、現役時代の拠出を財源とする「所得比例年金」の「2階建」年金制度を再構築して行く。現行の制度では、「基礎年金」は全員一律に支給されているが、新しい制度では「所得比例年金」の水準が高い人の「基礎年金」は抑制し、消費税による財源負担を少なくする。
   なお、将来、「基礎年金」のために消費税の引上げが必要になったとしても、経済がデフレを克服して安定成長の軌道に乗っていない限り、決して引上げは行なわない。

【民主党政権はデフレ脱却、景気回復を実現できる】
   以上が民主党の「マニフェスト」から抜粋した総需要喚起、景気回復、デフレ克服、失業率引下げの諸対策である。
   全体は「改革」政策であるが、同時に「景気」対策になっている。私の年来の主張である「改革と景気は両立する」を地で行く経済戦略である。
   もし、民主党が政権を獲得することが出来たならば、私は必ずこれ等の政策を推進し、来年以降の景気回復を実現し、日本経済を持続的な成長軌道に乗せてみせる。
   私にはその自信がある。