高速道路無料化か、道路公団民営化か(H15.10.20)


─ ドクター鈴木の解説 ─

【道路公団民営化は巨大な民間独占企業を創る】
    民主・自民の政策対決の一つに、高速道路の建設・管理を今後どうすべきかという議論が浮上している。民主党は高速道路無料化・道路公団廃止をマニフェストに掲げ、自民党は道路公団民営化を政権公約の目玉にしている。
    自民党の民営化論の狙いは、道路公団の借金40兆円を「保有・債務返済処理機構」という子会社に移し、本体の道路公団は民営化によって経営を立て直そうとすることにある。自民党の建設族議員、天下りした旧建設省OB、現役の国土交通省官僚、および土建業界の癒着の中で乱脈を極めている道路公団の経営を、民営化によって民間会社の経営並みに合理化しようという訳だ。そして借金の方は分離して、国(国民の負担)に押しつけようという訳だ。
    しかしこの自民党案には、市場メカニズムの発揮という改革の基本的視点から見て問題がある。民営化された道路公団は、高速道路建設の巨大な独占企業となり、競争相手の居ない市場経済の中で、高速道路の料金を利潤極大化を狙って高く設定するであろう。民営企業の経営合理化とは、本来そういうものだからだ。

【政官業癒着の巣窟が民営の名の下で独占利潤を喰う】
    そうなると、道路公団民営化は、一見すると公営から民営へという市場経済化の改革ビジョンに沿っているようでも、実は、市場経済の中に巨大な独占企業を生み出し、高速道路の永久有料化によって独占利潤を生み出すという「市場の失敗」を招く結果になる。これは市場経済のメリットを最大限活かそうという改革ビジョンの狙いとは正反対で、真っ向から対立する結果になる。
    更に悪いことには、民間人を経営トップに迎えてみたところで、政官業の癒着に基づいて長い間営まれてきた道路公団の経営体質は簡単には改まらないであろう。民営化によって生まれる独占利潤が彼等の喰い物にされるのではないか。藤井道路公団総裁が、面倒をみた自民党の道路族議員のイニシャルをあげて脅かし、解任を迫る石原大臣を子供扱いにしていることからみても、半世紀にわたる政官業癒着の巣窟とも言える道路公団の経営合理化は、そう簡単に出来るものではあるまい。

【道路建設・管理の民営化は「市場の失敗」を招く】
    そもそも自民党案の間違いは、「道路」とはどういう財かということを考えもしないで、ただ「民営化」すれば改革に沿っていると思い込んでいる点にある。経済学を学んだ者にとっては常識であるが、「道路」とは「公共財」の一種である。
    「公共財」というのは、市場経済における民間企業の行動、つまり市場メカニズムにまかせると、最適な資源配分をもたらさない財、つまり「市場の失敗」が起きる財のことである。「市場の失敗」が起きる原因はいろいろあるが、道路の場合は、最適規模が巨大であるために独占が発生し、資源配分が歪むのである。
    道路は、大きなネットワークになればなる程便利で利用者が増えるのでコストは下がり、利潤は大きくなる。つまり最適規模が極めて大きいのだ(限界利潤の逓減が起きる水準が極めて高い)。このため、先発会社が大きな道路のネットワークを持つと、後発会社が道路ビジネスに参入しても規模が小さいためにコストが割高になり、競争に敗れて市場から退出し、結局先発会社の独占が成立する。そうなると独占会社は、いかようにも高い料金を設定出来るようになり、市場の最適配分を歪めてしまう。

【公共財である道路は公共部門が税金で作り無料で提供する財】
    どこの国でも道路は原則として政府や地方公共団体が建設し、国民に無料で提供しているのは、そのような「市場の失敗」を避けるためである。高速道路も道路の一種であり、例外ではない。国や地方公共団体が税金で作り、無料で国民に提供すべきである。借金で建設した場合も、その借金は税金で返すべきである。
    現在道路公団は40兆円の借金を負っており、その返済と高速道路の維持・管理に年間2兆円ほどかかる。他方、国と地方公共団体の道路予算は合計9兆円である。
    民主党案は、40兆円の借金(高金利の財投借入)を国の借金(低金利の国債発行)で肩代りした上、道路予算9兆円のうち2兆円を使って借金返済と高速道路の維持・管理に充てようとするものである。
   そして、高速道路は混雑が予想される大都市圏を除いて、無料化する。これに伴ない、道路公団は、首都高速など大都市圏を残して、廃止する。また、大都市圏の料金収入は、上記2兆円と合せて借金返済と高速道路の維持・管理に使う。道路予算の残り7兆円は、国と地方の新規の道路建設に使う。

【高速道路無料化の経済効果は極めて大きい】
    この民主党案は、大きな経済効果をもたらすに違いない。
    第一に、無料化に伴って道路の利用率は上がり、流通コストは下がるので、国民生活と企業活動が便利になる(経済効率が上がる)。
    第二に、無料化に伴って料金所が無くなり、出入口は増やせるので、料金支払いに伴なう高速道路の渋滞は無くなり、使い勝手がよくなるので、地域密着の生活道路、ビジネス道路となる。
    第三に、パーキングエリアにも無料で出入り出来るので、地域の広場として発達し、商業施設、レジャー施設が進出し、地域の活性化が進む。
    第四に、大都市圏と地方との交流が活発化し、観光その他の地域産業の発展が促される。
    以上は、経済発展を刺激する前向きの効果の増加であるが、更に無駄がなくなるという後向きの効果の減少もある。
    その最たるものは、道路公団とファミリー企業の独占による経営の乱脈が無くなり、高速料金や税金の無駄遣いが無くなることである。
    国民はこの料金無料化の民主党案と公団を民営化すればこと足れりとする自民党案を冷静に比較し、どちらが国民のためになる本当の改革になるのか、正しい判断を下して欲しい。