世界経済見通しの下振れと日本(2022.5.12)
―『世界日報』2022年5月12日号“Viewpoint”(小見出し加筆)
【世界経済見通しの下方修正】
国際通貨基金(IMF)は2022年の世界経済の実質成長率見通しを、昨年10月には4・9%と予測していたが、本年1月の予測では4・4%に引き下げ、このほど公表した本年4月の予測ではさらに3・6%に引き下げた。半年の間に、世界経済の予測が1・3%ポイントも下振れしたことになる。
【下振れの五つの要因】
下振れの主な要因は、五つほどある。第1は20年から始まったコロナウイルス感染症の世界的蔓延《まんえん》が、より感染力の強いウイルスに変異しながら、延々と続いていることである。これに伴う世界的な消費活動の停滞、工場の操業停止による世界的サプライチェーン(供給網)の寸断などが起こっている。
第2はロシアのウクライナ軍事侵攻に対する自由諸国の経済制裁によって、経済のブロック化、サプライチェーンの混乱など世界経済の非効率化が始まっている。
第3に、原油、液化天然ガス(LNG)、石炭などエネルギー価格の世界的高騰が、ロシアのウクライナ侵攻で加速されている。
第4に、世界の国内総生産(GDP)第1位の米国経済が、景気の過熱でインフレを招き、金融政策の引き締め転換によって成長減速が見込まれている。IMFの見通しでは、22年の予測が半年前の5・2%から3・7%に下方修正された。
第5に、世界のGDP第2位の中国経済が、過去の一人っ子政策のツケで生産年齢人口の減少と人件費上昇に悩み始め、国営大企業重視の非効率化も重なって、かつての10%成長は夢となり、急激に成長率が落ちている。今回のIMF見通しでは、21年の8・1%成長(実績)から22年は4・4%成長に急落した。
【日本経済に強く響く五つの下振れ要因】
以上の五つの要因によって、22年の世界経済の実質成長率が下振れすると予測されているが、その中で日本経済も例外ではない。IMFは22年の日本経済の成長率を、半年前には3・2%と予測していたが、今回は2・4%に下方修正した。これは勿論《もちろん》、前記の第1~5の世界経済下振れ要因によるものであるが、特に日本には強く響く事情がある。
第1のコロナ禍による世界的サプライチェーンの寸断は、広く世界に部品工場や組立工場を展開している日本企業に特に影響が大きい。昨年中、月ごとの鉱工業生産がしばしば急落したのは、輸入部品の不足による国内工場の操業停止によるものだ。
第2、第3のエネルギー、希少金属、穀物、木材などの入手難と値上がりは、資源小国の日本に輸入コストプッシュ型のインフレをもたらし、また交易条件の悪化による貿易収支の赤字拡大を引き起こしている。
第4と第5の米国経済と中国経済の減速は、日本の輸出市場の第1位が中国、第2位が米国で、両者合計で4割近くを占めるだけに、日本の輸出と成長に対する悪影響は大きい。
また第4の米国の金融政策転換は、日米の金利差を拡大して極端な円安をもたらしている。円安は外貨建て輸出価格の低下で輸出を増やし、円建て輸入価格の上昇で輸入を減らす効果があるが、その効果が出るまでに半年はかかる。それまでは貿易収支は逆に悪化する。その上、在外企業には輸出増加の恩恵はなく、日本で産出しない資源については輸入減少の効果は出ない。いわゆる「悪い円安」だ。
【日本はまだコロナ禍前に復帰する過程】
以上のように、今年の日本経済は世界各国と共通の逆風にさらされているが、日本にはさらに固有の悪条件が二つある。米英独などの実質GDPは、コロナ禍で落ち込む前の水準を既に回復しており、米国などは早くも景気過熱で引き締めに転じたほどだ。しかし日本は、まだコロナ禍前の水準に復帰する過程で、世界経済下振れの影響はより深刻である。
【財政金融政策一体となって生産性、国際競争力、潜在成長率の引き上げに邁進せよ】
また資源小国日本は交易条件の悪化が大きく、貿易収支の赤字拡大で経常収支も赤字に転落し、世界一の資産超過国という日本経済の優位性が危うくなりかねない。日本はここが踏ん張りどころだ。4月21日の本欄で述べた通り、財政金融政策一体となって企業の事業変革投資を支援し、生産性、国際競争力、潜在成長率を高めていかなければならない。