「日銀短観」が語る日本経済の先行き(2022.4.21)
―『世界日報』2022年4月21日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【先行き不透明感が強まる日本経済】
 緩やかに持ち直していた日本の景気に、先行き不透明感が強まってきた。2月上旬に峠を越したコロナ禍第6波は、オミクロン株の派生型「BA.2」の感染拡大で、徐々に収束するのか、再拡大か、分からなくなった。加えてロシアのウクライナ侵攻は、ロシアがキーウの攻略に失敗し、東部戦線に集中する気配を見せているが、両国間の和平交渉でこの戦争がいつ終わるのか、一向に分からない。

【2年振りの「業況判断DI」の悪化】
 このような内外の不透明感の強まりに伴い、日本の企業の先行き感は慎重になっている。4月1日に公表された3月調査「日銀短観」では、コロナ禍が始まった21年3月調査を底に徐々に持ち直していた大企業の「業況判断DI」が、「良い」超幅の縮小という形で初めて悪化に転じ、先行きもさらに悪化するとしている。また本年度の売上計画も、大・中堅・中小企業(以下「全規模」)の全産業合計で、前年度見込みの前年比プラス4・3%から本年度予想は同プラス2・1%に鈍化するとしている。

【人手不足は続く】
 現在のような状況では、企業の先行き感が当面弱気化するのは当然であるとも言えるが、日本経済のより長期の見通しについても、「日銀短観」には心配なことが二つ出ている。
 一つは人手不足である。「雇用人員判断DI」は、本年度の売上計画の伸びが前年度よりも鈍化すると見ているなかでも、全規模全産業で雇用人員が「不足」と答えた企業の割合が「過剰」と答えた企業を24%ポイント上回っており、先行きはさらに26%ポイントに拡大する。企業は恒常的に人手不足が続くと見ている。

【販売価格上昇を見込み企業】
 もう一つの不安材料は、目先の業況悪化にもかかわらず、1年後の自身の「販売価格」と「物価全般」の見通しが、にわかに上昇傾向を強めていることである。全規模全産業ベースで、1年後の「販売価格」はプラス2・1%、「物価全般」はプラス1・8%と答えているが、これは昨年9月調査以前には、プラス0%台、あるいはマイナスであった。さらに3年後、5年後の「販売価格」は、それぞれプラス2・7%、プラス3・2%とマイルドインフレの進行を思わせる数字を答えている。企業は昨年までと異なり、今後は自社製品の値上げを当然と考えている。

【設備投資の増勢は根強い】
 以上の不安材料とは反対に、企業の前向きの姿勢を窺《うかが》わせるデータも「短観」にはある。22年度の設備投資計画(ソフトウエア投資・研究開発投資を含み、土地投資を除く)では、全規模の製造業・非製造業・金融機関の合計で、前年比プラス3・7%と引き続き増加を計画している。この伸びは前年度の増加見込み(プラス4・9%)よりは低いが、期初計画なので、今後の推移によって上振れも下振れもする。
 また、大企業の「業況判断DI」が全体では悪化に転じた中で、大企業・中堅企業の汎用・生産用機械工業、中堅企業の業務用機械工業では「業況判断DI」が引き続き好転を続けている。機械業界は設備投資の根強さを感じている。

【事業変革投資の意欲は強い】
 さらに全規模の製造業・非製造業・金融機関の設備投資合計のうち、「ソフトウエア投資額」だけを取り出してみると、22年度計画は前年比プラス8・4%増加と、21年度の見込み(同プラス6・5%増加)よりもさらに伸び率が高い。企業の事業変革投資の意欲は強い。

【財政金融政策が一体となって生産性引上げを目指せ】
 アベノミクスの超金融緩和の下で、日本の低成長は一向に改まらず、現在「悪い円安」が異常に進んでいるが、いま最も大切なことはデジタル化、脱炭素などの合理化投資で事業変革を進め、日本経済の全要素生産性を高め、潜在成長率を引き上げることである。財政金融政策が一体となってこれを進める上で、現在のマイナス短期金利、ゼロ長期金利は有害無益である。これを廃止し、低いプラス金利の領域で利回り曲線の傾斜を強め、短期借り長期貸しを本質とする金融機関の貸し出し意欲を強めて、企業の合理的投資を支援すること、プラス金利の領域に戻ることで内外金利差を縮小し、「悪い円安」を修正することが大切だ。これで名目成長率が高まって金利水準を上回る状況が続けば、積極財政下でも財政収支が悪化する心配はない。