政府・日銀の「共同声明」に立ち返れ(2022.2.13)
―『世界日報』2022年2月13日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【政策転換、インフレと景気後退の懸念、地政学リスクから世界中の株価が軟化】
 世界経済の先行きに、暗雲が広がっている。米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、3月にテイパリング(量的緩和<QE>縮小)を終え、量的引き締め(QT)と利上げに入る構えだ。エネルギー価格の上昇、賃金上昇、人手や部材などの不足を背景に、インフレ持続と景気減速の懸念が広がっている。欧州ではウクライナ情勢の悪化という地政学リスクもある。これらすべてに対する市場の警戒感、先行き不安感から、米国をはじめ主要国の株価は、日本を含め、1月中に軒並み大幅に下落した。

【IMFは米国、中国を中心に本年の世界経済見通しを下方修正】
 国際通貨基金(IMF)は1月25日に世界経済見通しを改定し、本年の世界経済の実質成長率見通しを、10月に予測したばかりの4・9%から0・5%ポイント下方修正し、4・4%とした。これは世界最大の国内総生産(GDP)規模を持つ米国が、インフレ進行や金融政策転換による景気減速から、10月に予測した5・2%から4・0%へ1・2%ポイントも下方修正されたことによる面が大きい。
 さらに世界第2位のGDP規模に達した中国も、コロナ対策、不動産不況、民間大企業の締め付けなどから、10月予測の5・6%から4・8%へ下方修正され、5%割れの予測となったことも響いている。このほか、ユーロ圏、新興国・途上国の予測も軒並みに下方修正された。

【日本は先進国平均を下回る成長率予想】
 その中にあって、日本の2022年実質成長率の見通しは、わずか0・1%ポイントではあるが上方修正され、3・3%となった。日本経済はコロナ禍の影響で昨年1~3月期と7~9月期にそれぞれマイナス2・9%、マイナス3・9%(いずれも前期比年率)と大きく落ち込み、昨年7~9月期の実質GDPの水準は、コロナ禍前のピークである19年7~9月期に比して4・1%も低い所にある。
 従って、10~12月期には反動増となることが確実なので、日本については10月の予測をこれ以上下方修正しなかったのであろう。下方修正しなくても、3・3%は先進国平均の3・9%、新興国・途上国平均の4・8%より低い。

【本年の日本の3%台成長は適切】
 2月15日に公表される予定の日本の10~12月期の実質GDPは、恐らく前期比年率で5~6%程度となり、そのあともオミクロン株の第6波の収束につれ、コロナ禍の下で控えられ、蓄えられた「ペントアップ需要」が個人消費や設備投資で表面化し、さらに次のコロナ禍の波が来るとしても22年の3%台成長は達成できると見られる。

【本年4月以降日本の消費者物価前年比は1%台に】
 本年の日本経済の予測で、成長率と並んで注目されるのは、物価上昇率である。世界的にインフレの兆しが出ている中で、日本の消費者物価(生鮮食品を除く、以下同様)は昨年12月も前年比プラス0・5%にとどまっている。しかし本年4月の消費者物価からしばらくは、昨年の携帯電話料金引き下げの影響が剥落するので、1%台に乗るのではないかと見られる。

【2%の物価目標に近づけば実質賃金は低下】
 これは良い事か悪い事か。2%の物価目標に近づくという点で喜ぶ人はいるかもしれないが、現金給与総額の年平均上昇率が1%にも達していない現状では、勤労者にとっては実質賃金低下であり、迷惑な話だ。

【政府・日銀「共同声明」を空手形にした安倍政権】

 この迷惑な2%の物価目標は、13年3月の政府・日銀「共同声明」で決まった。この時、政府・日銀が描いていた姿を「共同声明」に則して探ってみると、日銀が「金融緩和を推進する」だけではなく、政府は「革新的研究開発への集中投資、イノベーション基盤の強化、大胆な規制・制度改革、税制の活用など思い切った政策を総動員し、経済構造の変革を図るなど、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取り組みを具体化し、これを強力に推進する」とある。どこの国の話かと言いたくなるが、要するにその後7年間、アベノミクスはこの声明を空手形とし、日本経済の生産性、競争力、成長率は低迷したままだ。

岸田政権に期待される日本経済再建の基本政策】
 岸田内閣が目指す「新しい資本主義」は、中身が今一つはっきりしないように見えるが、この「共同声明」の政策は岸田首相が嫌う新自由主義とは無関係で、今でも日本経済再建と岸田首相が目指す賃金上昇に欠かせない基本政策である。岸田首相の「新しい資本主義」には、是非ともこの政策を取り込んでほしい。