波乱が続く日本経済(2021.12.21)
―『世界日報』2021年12月21日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【18年11月から始まった日本経済の景気後退】
 先月30日、政府の景気動向指数研究会は、2018年11月から始まった今回の景気後退局面が、昨年5月で終わったと暫定的に認定した。この景気後退は、12年11月から始まった景気上昇が、異次元金融緩和にも支えられて、72カ月(6年間)続いた後、18年10月からの景気の成熟に伴う自律反転で始まった。

【消費増税、大型台風、コロナ禍で景気後退加速】
 その後、19年10月に景気後退下の消費税率引き上げという失政と大型台風が重なり、さらに20年1月から新型コロナウイルス感染症の蔓延《まんえん》が始まった。個人消費は19年10~12月期から20年4~6月期まで12・4%も下落し、実質国内総生産(GDP)はこの3四半期に10・3%も縮小した。鉱工業生産に至っては、19年10月から20年5月までの8カ月間に、実に31・2%も急落した。

【20年5月の景気後退底入れで楽観論台頭】
 この激しい経済の落ち込みは、20年4月にコロナ禍第1波がピークを過ぎると、コロナ禍で控えられていた需要が少しずつ戻り始めたために、5月に底を打った。6月から景気は徐々に回復し始め、実質GDPの成長率は20年7~9月期、10~12月期と2四半期連続してプラスとなり、19年10~12月期から20年4~6月期までの落ち込み(10・3%)の4分の3ほどを回復した。
 こうして今年の初めには、自律的景気後退、消費増税、コロナ禍と続いた悪材料は出尽くし、反動回復が期待できる局面に入ったのではないかという楽観論が支配した。3月調査の「日銀短観」では、大企業製造業の「業況判断DI」が、コロナ禍以前の消費税率引き上げ直前の19年9月と同水準まで回復した。

【世界経済も米国を中心に一時立ち直り】
 このような楽観の背景には、米国を中心とする世界経済の立ち直りと、世界各国の株価の大幅反発がある。国際通貨基金(IMF)は、本年の世界経済成長率の見通しを次々と上方修正し、20年中の落ち込みを上回る水準に引き上げた。米国のニューヨーク市場では、史上最高値を次々と更新し始めた。

【6月頃から始まった世界と日本のデルタ株蔓延で世界と日本の楽観論吹き飛ぶ】
 この楽観論を打ち砕いたのが、新型コロナウイルスの変異株、デルタ株の世界的蔓延である。6月ごろから始まり、8月にはピークに達したが、このデルタ株の蔓延は、米欧、中国はもとより、それまで比較的広がりが少なかった東南アジアでも激しく流行し、日本企業の現地部品工場の操業が止まり、日本へのサプライチェーンが細り、中断も生じた。
 日本の中でも、8月を中心に、これまでに例を見ない感染者と重症者の増加(いわゆるコロナ禍第5波)が起こり、医療施設が逼迫《ひっぱく》した。7月の初めごろまで、民間の経済研究機関は、実質GDPが年末までにコロナ禍以前の19年10~12月期の水準を抜くという予測を発表していたが、この予測は吹き飛んだ。

【日本は7~9月期に再びマイナス成長】
 緊急事態宣言の発令、適用地域拡大、期間延長もあって、対面型や旅行などの個人消費は再び大きく落ち込んだ。企業の生産活動は、サプライチェーン寸断に伴う半導体等の部品不足と、重油・液化天然ガス(LNG)の世界的供給不足から、7月から9月まで急落した。4~6月期に回復した実質GDPは、7~9月期には再び減少して1~3月期の水準に逆戻りした。

【10月から回復し始めた経済は原油とLNGの供給不足からインフレ懸念に直面】
 このデルタ株の猛威が収まり始め、企業の生産活動がようやく上向き始めた10月以降、世界経済にはまた新しい問題が起こってきた。グローバル・サプライチェーンの寸断と原油・LNGの世界的供給不足が長引く下で需要が回復し始めたため、世界的にインフレ懸念が生じてきたのである。初めのうちは回復期に起きる一時的な物価上昇と見ていた米準備制度理事会(FRB)は、11月末には「一時的」という言葉を撤回し、高インフレが定着しないよう手段を講じていく構えに転じた。世界の株価は乱高下し始め、5年程度の中期金利が上昇している。

【前途に新型変異株オミクロンの流行】
 これと前後して、コロナウイルスの新しい変異株、オミクロン株が流行し始めた。今のところ感染力は強いが、世界的なワクチン接種の普及もあってか重症化する例は少ない。これが再び景気後退を起こし、供給不足によるインフレと併進してスタグフレーションを起こさないかが心配されている。