コロナ禍第5波と経済の展望(2021.9.12)
―『世界日報』2021年9月12日号“Viewpoint”(小見出し加筆)
【ワクチンの普及で夏前の世界の経済展望は楽観論】
夏が終わり、秋を迎え、世界経済の展望は、夏前の手放しの楽観論が姿を消し、さまざまの警戒論が出ている。
夏前には、欧米でコロナワクチンの接種が進み、コロナ禍克服の展望が見えて、街ではマスクを外してテラスで寛《くつろ》ぐ姿が増え、バカンスの予約は盛況で、行楽地は2年ぶりに活気を取り戻すかと見られていた。
【日本でもコロナ第4波で落ち込んだ個人消費は6月から回復、4~6月期はプラス成長】
日本でも、コロナ禍第4波で5月まで落ち込んでいた個人消費が6月には回復に転じ、中期循環的下降局面から底を打って上昇に転じた設備投資と住宅投資の増加もあって、当初多くの予測機関がマイナス成長と見ていた4~6月期の成長率が、前期比プラス0・4%(年率プラス1・6%)(注)と小幅ながらプラスに転じた。このままワクチン接種が進めば、日本も欧米の後を追って、回復に向かうと思われていた。
(注)2次速報値で前期比プラス0.5%(年率プラス1.9%)に上方修正。
【第5波で8月から様変わり】
しかし先を見て動く株価は、コロナ禍第5波の重大性を読んでいたかのように、日経平均で春頃の3万円前後からジリジリと下がり続け、夏には一時2万7千円を割った。1日の全国コロナ新規感染者数は急増し、8月には第3波、第4波のピークの2倍を超えた。緊急事態宣言の適用地域拡大と期間延長で、6、7月に一時回復した個人消費は、再び落ち込んでいる。
【新型コロナウィルスのデルタ株蔓延】
これは感染力の強い新型コロナウイルスのデルタ株が世界的に蔓延《まんえん》し、日本にも入ってきたためで、夏のバカンスを楽しみ始めた米欧でも感染者数が急増し、個人消費に急ブレーキがかかった。コロナ禍からの回復が最も進んでいた中国でも、デルタ株中心の感染拡大で移動制限が強まっており、7月の小売売上高は1月以来の前年比マイナスとなった。
【デルタ株の被害は東南・東アジアで特に大きい、その二つの理由】
しかし、今回のコロナ禍第5波の影響は、米欧と日本など東南・東アジア諸国・地域の間では差異がある。それを示す一つの指標は株価で、米欧の株価は第5波の間も比較的堅調な推移を示したのに対し、東南・東アジア諸国の株価は、日本、中国を含め一時軟調となった。これには二つの理由が考えられる。
第一に、デルタ株=LS452Rは、東南・東アジア人種が持つ免疫能力をすり抜けるという学説があり、このため、これまでコロナ禍が比較的軽微であった東南・東アジアに重大な影響が出ているという。この地域に広く分布する日本の製造業の部品工場でクラスターが発生し、操業停止で日本のサプライチェーンが一部寸断され、自動車、電気・情報通信機械など日本の製造業の部品輸入と製品の生産、輸出に影響が出ている。
第二に、米国でもコロナ被害は甚大であったが、巨額の財政政策発動、金融超緩和の継続、ブースター接種を含むワクチン接種の強力な推進などで景気回復を維持し、株価の上昇傾向を支えた。欧州も国によって程度の差はあるが、同じような政策を実行した。
【FRBの政策転換と新興国・資源国への影響】
以上が米欧と東南・東アジアに違いを生み出した理由と思われるが、このうち米国経済の好調は、この先、東南・東アジアの新興国、資源国に更に大きな影響を与えることが予想される。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、8月27日、カンザスシティー連銀主催のジャクソンホール・シンポジウムで、これまで続けてきた量的緩和(資産購入)の規模縮小(いわゆる「テイパリング」)を年内に始めるという方向性をはっきりと示した。その先には、来年中の利上げ開始が予想される。
米国の金融政策転換は、新興国、資源国には、ドル資金の流出、為替相場下落に伴うドル債務負担の増加、資源価格下落など重大な影響を与える恐れがある。
【日本では第5波のピーク・アウトと総選挙・大型景気対策打ち上げか】
ワクチン接種が進んでいる米欧先進国や日本は、さすがにコロナ禍第5波のピーク・アウトが見えてきている。10~11月中には衆議院解散、総選挙が行われる日本では、2020年度の3次にわたる補正予算(真水で73兆円)の約半分が未執行であり、本年度予算の予備費も残っているので、政府・与党は大型の景気対策を打ち上げて総選挙に臨むのではないかと思われる。