米欧に遅れた日本経済の回復(2021.6.17)
―『世界日報』2021年6月17日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【経済活動再開が進む米欧】
 日本と米欧の間で、コロナ禍による経済の落ち込みからの回復に、差がついてきた。
 米欧の5月のPMI(購買担当者景気指数、総合、50を上回れば回復、下回れば後退)を見ると、米国は68・1で過去最高を更新、英国も62・6で統計開始以来の再高、ユーロ圏は56・9で3年3カ月ぶりの高水準となっている。ロックダウン(都市封鎖)が競うように解除され、夏のバカンスシーズンの旅客受け入れに向かって走りだしているという。

【停滞が続く日本】
 他方、日本の「景気の現状判断DI」は、昨年10月に53・0と一時50を上回ったものの、その後低下し、本年4月は39・1と50をかなり下回っている。街では緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が延長され、飲食店など対面型サービスは悲痛な叫びを上げている。

【昨年10~12月期まで差は無かった】
 米欧と日本のこの違いは、今年に入ってからはっきり出てきた。コロナ禍をはさむ2019年10~12月期から20年4~6月期までの実質国内総生産(GDP)縮小は、米欧と日本に大差はなく、その後20年7~9月期、10~12月期の立ち直りもほぼ同じであった。

【本年1~3月期と4~6月期に大差がついた】
 しかし、先月公表された本年1~3月期のGDP統計によると、米国は6・4%成長(季節調整済み前期比年率)となり、コロナ禍による落ち込みを取り戻した上、4~6月期は史上最高水準に昇って行こうとしている。ユーロ圏は1~3月期にもマイナス2・5%となったものの、4~6月期以降、プラス成長は確実であろう。
 これに対して日本は、1~3月期にマイナス3・9%と大幅に下落したあと、4~6月期もマイナス成長を重ねそうだ。先月31日に公表された経済開発協力機構(OECD)の世界経済予測では、米国とユーロ圏はそろって0・4%ポイント上方修正され、6・9%と4・3%であったが、日本は逆に0・1%ポイント下方修正され、2・6%であった。

【ワクチン接種の早さで個人消費回復に差】
 この違いは、GDPの過半を占める個人消費が、米欧では増加傾向に転じ、日本では再び減少していることによる面が大きい。米欧ではワクチン接種の普及に伴う経済活動の再開が進んでいるが、日本では3回目の緊急事態宣言が6月20日まで延長され、賃金の下落、就業者数の減少、完全失業率の再上昇が起こっている。

【ワクチン開発には政府、行政の支援が必要】
 米欧と日本のワクチン接種のスピードの違いは、ワクチン開発に対するこれまでの政治、行政の姿勢の違いに由来している。ワクチン開発に要する投資規模とリスクは大きく、治験も大規模だ。一企業が単独で行うのは危険で、政府の財政支出を含む支援と治験のバックアップが要る。

【米欧と日本では政府、行政の姿勢が正反対】
 これが日頃から行われていた欧米先進国では、今回の新型コロナウイルスに対するワクチン開発と大規模治験、国内工場での大量生産が官民を挙げて推進され、早急な接種開始に結び付いた。日本は5月18日付の本欄でも述べたように、ワクチンによる健康被害の損害賠償訴訟で国側が敗訴して以来、ワクチン行政は必要以上に用心深く、ワクチン開発に対する政治的支援も無きに等しかった。

【二兎を追った日本の失敗】
 米欧と日本の消費回復の差には、ワクチン以外にもう一つ要因がある。「二兎《にと》を追う者は一兎《いっと》をも得ず」の喩《たとえ》通り、コロナ禍第2波、第3波の最中に、経済活動再開を狙ってGoToキャンペーンを実施し、人流を増やして感染を拡大し、結局GoToキャンペーンも中止せざるを得なかった。欧米主要国は、ロックダウンという厳しい措置と早期のワクチン接種で徹底的にコロナ禍を抑制した後に、いま経済活動の再開、成長促進に転じている。

【ポストコロナに動く米国政府の態度が国民の成長期待を支える】
 さらにポストコロナの政策課題についても、日本はまだ手付かずであるが、米国では財政赤字対策となる法人税率引き上げが提案され、米連邦公開市場委員会(FOMC)では超金融緩和からの「出口政策」のタイミングが議論されている。これらは、これからの経済成長の勢いと持続性に対する国民の期待を強め、日本では減少・停滞している1~3月期の設備投資と住宅投資の回復につながっている。