先進国の金融市場に春の嵐(2021.3.21)
―『世界日報』2021年3月21日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【長期金利が上昇傾向に】
 米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、日本銀行など先進国の中央銀行が、まだ2~3年は現在の超金融緩和政策を続けるとしている下で、先進国の長短金融市場は「ベタ凪《なぎ》」を続けていたが、2月中頃から異変が起こってきた。市場の中で、近い将来短期金利が上昇するという予想が広がり、現在の長期金利が上昇し始めたのだ。1%程度であった米国の10年物国債の市場利回りが、1・6%台をつけ、英国でも0・2%程度から0・8%程度へ、超低金利の日本でも0%から一時0・175%へそれぞれ上昇した。

【金利上昇と株価上昇の併進は景気回復予想の反映か】
 初めのうち各国中央銀行は、現在の長期金利上昇は、将来の予想短期金利の上昇を反映した動きで、コロナワクチンの普及、コロナ禍対策の大型財政政策執行などで、「市場がこれからの底固い景気回復に自信を持ち始めた証しだ」(パウエルFRB議長)として楽観的に見ていた。普通、長期金利が上昇すると株価は下落するが、今回は各国で長期金利上昇と株価上昇が併進しているのも、市場が景気回復に自信を持ち始めたためであると見ていた。

【突然起こった株価の大幅下落】
 このような楽観論に冷や水を浴びせるような波乱が起こった。2月25日と26日に、米国のダウ平均株価は3万2009㌦から3万0932㌦へ、2日連続で合計1077㌦も下落した。日経平均株価も、26日に3万0163円から2万8316円へ、1日で1202円も暴落した。

【景気回復予想の反映かインフレ予想かバブルか】

 この「春の嵐」のような株価の波乱を境に、2月以来の長期金利と株価の同時上昇は、「健全な景気回復の予想」によるものか、それとも株価には「インフレの予想やバブル」が混ざっているのかという根本的な疑念が、市場関係者やエコノミストの間に生まれている。

【FRBはインフレ警戒論を尻目に雇用回復まで大型緩和を続ける姿勢】
 米国ではコロナ対策費として、バイデン政権が1・9兆㌦(約200兆円)の巨額の財政支出計画を実行する。サマーズ前財務長官など一部のエコノミストからは、「これでは景気が過熱してインフレが発生する」という懸念が表明されている。2月の個人消費支出物価指数は、早くも前年比1・7%まで上昇した。しかしFRBは雇用が十分回復するまで現在の大型緩和を続ける姿勢で、ダウ平均株価は再び回復して史上最高値を更新している。

【日本にはインフレ懸念はほとんど無い】
 日本はどうか。実質国内総生産(GDP)は一昨年10~12月期から昨年4~6月期まで、3期連続のマイナス成長で10・5%も落ち込んだあと、7~9月期と10~12月期にはリバウンドして、落ち込みの7割ほどを取り戻した。しかし民間研究所などの予測では、コロナ禍第3波を受けた緊急事態宣言で、本年1~3月期は個人消費と住宅投資の下落を中心に、再びマイナス成長に戻ると見られている。GDPベースのマクロ需給バランス(日銀推計)は、昨年4~6月期から供給超過になっており、全国消費者物価(除、生鮮食品)は昨年8月以降、前年比で下落している。このような状況下、日本ではインフレを懸念する声はほとんど聞かれない。

【日本にあるのは株価バブルの懸念】
 しかし、株価の高騰にはバブルの気配があるのではないかという見方が、市場関係者やエコノミストの間にはある。気になるのは、株価高騰の背後にあるマネーストックの増加率である。13~19年の異次元金融緩和の下でも、M2で見て前年比4%前後にとどまっていたものが、コロナ対策で無利子無担保を含む救済融資と財政資金の大量散布が始まった昨年4~6月期から急上昇し、本年2月には9・6%と88~90年のバブル期(9~13%)に接近している。

【経済停滞下民間設備投資が早くも増加へ】
 民間の本年1~3月期の実質GDPの予測を見ると、マイナス成長にもかかわらず、民間設備投資が増加するという予測が多い。2019年初からの自律的景気後退がコロナ禍で加速され、既に2年を経過したので、過剰であった設備ストックの調整は既に終了している。そこにマネーストック急増に示される企業金融の超緩和と、デジタルトランスフォーメーション(DX)、脱炭素などのポストコロナをにらんだ中期戦略投資が重なっているのであろう。

【日本の株価上昇がバブルではなく企業業績好転の反映であってほしい】
 日銀は3月19日の金融政策点検後も、超金融緩和を続ける姿勢だ。日経平均株価は再び3万円前後に戻っているが、今後の株高がバブルではなく、企業業績好転の反映であってほしい。