異次元金融緩和の変遷と展望(2021.2.11)
―『世界日報』2021年2月11日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【当初は量的緩和の黒田バズーカ】
 黒田総裁が日本銀行に着任し、「異次元金融緩和」(総裁自身の命名)を実施して以来、8年を経過した。この8年間に、「異次元金融緩和」は少しずつ形を変えてきている。
 出発時点の2013年4月には、「2年間でマネタリーベース残高を2倍にし、消費者物価(除・生鮮食品、消費税率引き上げの影響を除く、以下同様)の前年比を2%にする」という2並びの宣言をして、「量的・質的金融緩和」をスタートさせた。いわゆる「黒田バズーカⅠ」である。

【短期決戦の失敗と量的緩和の強化】
 1年半後、2年間の短期決戦で消費者物価の前年比2%を達成できそうもないことを見て取ると、14年10月に、「量的・質的金融緩和」の「拡大」と称する「バズーカⅡ」を突然打ち出し、マネタリーベースの年間増加額を拡大するため、長期国債、上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J―REIT)の買い入れベースを拡大することとした。
 「バズーカⅠとⅡ」は、いずれも市場が予期しない時に、予期しない巨額の量的拡大を打ち出したので、株高、円安など市場への一時的インパクトは大きかった。しかし、総需要や消費者物価に対する拡張効果は、しばらくたってもはっきりとは認められなかった。

【量的緩和から金利重視へ】
 そこで日銀内部では、2年間の「量的・質的金融緩和」の効果を分析したところ、総需要への拡大効果は「量」から直接伝わる「ポートフォリオ・リバランス効果」よりも、「金利」から伝わる効果の方が大きいことが確認された。これが16年9月の政策転換となる。
 まず金融政策の「操作目標」をマネタリーベースの「量」ではなく、長短の「金利水準」に切り換え、短期金利をマイナスに、10年物長期金利をゼロ近くに誘導することとした。「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策」のスタートである。これに伴い、国債買い入れ額は政策決定会合で決められる目標ではなく、市場の長短金利水準を誘導する手段として、事務方が柔軟に操作するようになった。またコールレートをマイナスに誘導するため、金融機関の日銀預金の限界部分にマイナス金利を付利した(金利を微求)。

【2%の物価安定目標は変えず】
 他方、2%の物価安定目標は変えず、毎四半期公表される「経済・物価情勢の展望」(以下「展望」)の「物価の中心的見通し」では、物価上昇率が2%に達する時期を予測していた。しかしその時期は、毎回「逃げ水」のように先延ばしされ、日銀の経済予測能力に不信感を抱かせると心配された。
 18年4月、黒田総裁が再任された直後、「展望」から2%の物価目標が実現する時期の予測が消えた。しかし2%の物価目標そのものは残っており、この目標を持続的に上回る状態になるまで「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を続けるという「オーバーシュート型コメットメント」は消えていない。

【日銀自ら金融政策の点検を宣言】
 20年12月、日銀は「経済を支え、2%の物価安定目標を実現する観点から、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検を行う」と宣言し、その結果を本年3月の金融政策決定会合を目途《めど》に公表するとした。

【巷では2%の物価目標、金融仲介機関の収益圧迫、民間市場の機能低下を問題視】
 いま市場関係者やエコノミストの間で、さまざまな臆測が行われているが、その焦点となっているのは以下の3点である。
 第1は、実現時期も予測できないほど非現実的な2%の物価目標の始末である。欧米が2%だというだけで実証研究もせずに飛び付いたのが誤りの元だ。参考値などの形で棚上げしないと、恥さらしにならないか。
 第2は、金融仲介機関の収益を圧迫し、総需要刺激効果の不確かなマイナス金利と長短金利のフラット化の始末だ。プラス金利と長短金利のスティープ化で金融機関の貸出有価証券投資の採算を好転させ、積極化させた方が、総需要拡大の効果は大きいのではないか。
 第3は、長期国債やETFの大量買い上げで脅かされる国債市場や株式市場の自律性や効率性だ。日銀は、金利政策と整合的な範囲に資産買い上げをとどめ、民間金融市場の調整機能の自律性、効率性を回復させてはどうか。
 日銀は以上の3点をどうするであろうか。