経済史における2020年の位置づけ(2020.12.10)
―『世界日報』2020年12月10日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【コロナ禍に振り回された2020年】
 2020年の日本経済は、新型コロナウイルス感染症に振り回された、慌ただしい1年間であった。外出自粛や密集回避などに伴い、経済活動は5月まで低下したあと、感染者数の減少に伴う緊急事態宣言の解除で6月から回復し始めた。しかし、GoToキャンペーン実施など活動自粛の緩和につれて、11月から再び感染者数が急増しており、経済活動に再び抑制的効果が及ぶのは必至の情勢にある。

【回復には時間がかかる】
 実質国内総生産(GDP)で見ると、7~9月期には1~3月期と4~6月期の落ち込み合計の半分ほどを回復したが、これで反動回復の勢いは終わり、再びコロナ感染症が広がっていることもあって、10~12月期に残りの半分を取り戻すのは無理であろう。ましてや消費増税でマイナス成長が始まった昨年10~12月期以前の水準に戻るのは容易ではなく、恐らく明年下期までかかるのではないかと思われる。政府が認定したように、日本の景気はコロナ禍以前の昨年初めから後退局面に入っていたため、現在の自律的回復力は決して強くない。

【アベノミクスは1本の矢、超金融緩和だけ】
 20年の日本経済でもう一つ大きな出来事は、安倍内閣が退陣し、13年から7年強続いたアベノミクスという中期経済戦略が終わったことである。この戦略は、①大胆な金融緩和②財政出動③成長政策―の3本の矢から成っていたが、③は掛け声ばかりで何も実効を挙げていないし、②はどの内閣もやってきたうえ、14年4月と19年10月に消費税率引き上げという逆噴射をしたので、結局日本経済の成長を支えたのは①だけであった。

【異次元金融緩和とは】
 13年1月の政府・日本銀行の共同声明に基づき、日本銀行は4月から異次元金融緩和を開始した。これはⒶ国債を中心に、上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J―REIT)などの資産を日銀が民間から大量に買い上げ、巨額のマネタリーベースを供給する量的緩和と、Ⓑ短期金利のマイナスまでの引き下げと長期金利のゼロ近傍への誘導という極端な利下げから成っている。その上で、消費者物価(除く生鮮食品、以下同様)の前年比上昇率が安定的に2%を超えるまで、この異次元金融緩和を続けると宣言した。

【異次元金融緩和の結果】
 この結果、13~19年の7年間は、毎暦年プラス成長を続け、完全失業率を12年12月の4・3%から19年中頃には完全雇用水準の2・2%まで引き下げることに成功した。しかし消費者物価の年平均上昇率(消費税率引き上げの影響を除く)は、目標の2%どころか、毎年1%にも達しなかった。金融政策の最終的目標は経済の持続的発展であり、物価目標はそれを実現する手段(中間目標)であるから、完全雇用が実現した以上、2%の物価目標はもはや不要であるが、昼行灯《あんどん》のように意味なく残っている。

【日本経済の停滞を強めたアベノミクス】
 デフレではない状態と完全雇用を実現したのは、異次元金融緩和を実行したアベノミクスの功績であろう。しかしその間の暦年平均成長率が1%にとどまり、日本経済の停滞色が強まったのは、③成長政策を実行しなかったからである。完全雇用になったのも、日本経済の生産性が低下し、経済成長が雇用増加に頼らざるを得なかった結果である。

【アベノミクスの戦略的誤りを脱した年、2020年となるか】
 アベノミクスの根本的誤りは、①大胆な金融緩和と②財政出動で需要さえつければ、日本経済は停滞を脱し、発展すると考えたことにある。これは安倍前首相が内閣官房顧問や日銀役員に起用したリフレ派の学者の考え方だ。20年は、安倍内閣の退陣で、このような中期経済戦略が終わった年として、経済史上大きな意味を持つであろう。

【2020年は供給側の構造改革に舵をきった年となるか】
 菅内閣は始まったばかりだが、取り巻きにリフレ派は居らず、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による構造改革などの供給側の改革に力を入れる姿は、時宣を得た中期経済戦略のように見える。安全、有効なコロナウイルス・ワクチンが開発・普及し始めれば、経済政策の最重要課題は、低成長に落ち込んだ日本経済の潜在成長率を如何《いか》にして高めるかに移ってくる。あとから振り返った時、2020年はその曲がり角の年であった、ということになることを祈っている。