自律的景気後退とコロナ禍(2020.7.14)
―『世界日報』2020年7月14日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【コロナ禍による落ち込みの底打ち】
 日本経済は、昨年10~12月期から本年4~6月期まで、3四半期連続のマイナス成長という厳しい落ち込みを経験した。しかし、5月25日に全国の緊急事態宣言が解除され、コロナ禍に伴う外出自粛や移動制限が徐々に緩和され、経済活動の再開が少しずつ進んでいる。経済の落ち込みは6月に底を打ち、緩やかに回復し始めている。

【鉱工業生産は6月から増加】
 例えば、鉱工業生産は、2月から5月まで毎月下落し、4カ月で20・7%も低下したが、製造工業生産予測調査によると、6月は前月比プラス5・7%、7月は同9・2と上昇に転じる。また「日銀短観」(6月調査)の全産業(全規模企業合計)の売上高を見ると、19年度下期に前年比マイナス3・4%、2020年度上期に同マイナス6・4%と大きく落ち込んだあと、20年度下期には同マイナス1・4%と落ち込み幅は大きく縮小すると見込まれている。これは一見V字型回復に見える。このまま行けば、来年(21年)には落ち込み前の昨年(19年)の水準に戻るのも夢ではないようにも見える。

【V字型回復ではなく緩やかな底這いが続くL字型回復か】
 しかし、今回の景気後退は、コロナ禍に伴う外出自粛、都市封鎖などの強力な公衆衛生政策のせいだけではない。日本経済は、コロナ禍に襲われる前に、自律的な景気後退局面に入っていた。そこにコロナ禍が重なって景気後退が深くなったのである。それだけに経済の立ち直りは容易ではなく、V字型回復よりも、L字型回復に近くなる可能性もある。緩やかな底這(ば)いを経て、金融機関、企業、家計の調整が進まなければ立ち直れないのではないだろうか。

【IMFの経済見通しも落ち込み前の水準に戻るには再来年(22年)】
 国際通貨基金(IMF)が6月に改訂した世界経済見通しを見ても、日本の成長率は本年(20年)にマイナス5・8%となったあと、来年(21年)にはプラス2・4%と本年のマイナスを取り戻せず、再来年(22年)になって初めて落ち込み前(19年)の水準に辿(たど)り着くと見ているのは、コロナ禍以外に自律的景気後退の影響を織り込んでいるからである。

【日本経済は19年中に自律的景気後退に入っていた】
 最近の日本の景気循環を振り返ってみると、02年2月から08年2月まで(73カ月)、戦後最長の「いざなみ」景気となったあと、リーマンショックを伴う世界同時不況で経済は落ち込み、再び07年の水準を上回ったのは6年後の13年であった。
 新しい景気上昇は12年12月から始まったと暫定的に定義されているが、これを前提にすると、今回の景気上昇は19年に入って73カ月を超え、「いざなみ」を超えて戦後最長記録を更新したことになる。しかし多くのエコノミストは、私を含めて、19年中に景気後退に入ったと見ており、政府の判定会議が開かれるまで、結論はお預けである。
 景気関連の経済指標を見ていくと、実質国内総生産(GDP)ベースの需給ギャップ(潜在GDP〈日銀推計〉と実際のGDPの比)は、18年10~12月期の需要超過がピークで、その後は需給が緩和に向かっている。鉱工業生産と出荷の水準は、18年10月をピークに下落傾向に入った。

【景気後退を加速した消費増税とコロナ禍】
 これらのマクロ経済指標を反映して、企業の経常利益(法人企業統計)のピークは19年1~3月期、遅行指標の労働の需給を現す有効求人倍率のピークは19年4月である。これらの指標から判断して、日本経済は19年の初め頃から自律的景気後退に入ったことは明らかだ。政府は10月に消費税率を引き上げて景気後退を拍車し、とどめは本年1~3月から始まったコロナ禍である。

【今後は金融面のリスクに警戒】
 今後、景気回復がいつ頃からどのような形で起こってくるであろうか。明るい材料と暗い材料がある。明るい材料は企業の設備投資である。「日銀短観」によると、本年度の全産業(金融機関を含む)・全企業規模の設備投資計画合計(ソフトウエア・研究開発を含み土地投資を除く)は、ソフトウエア・研究開発の増加を中心にプラス1・5%と景気後退の大底でもなお増勢を維持している。暗い面は、マイナス金利下で収益を圧迫されている銀行・信金に不良債権が増えていることだ。株価のバブル崩壊の可能性も恐い。金融面のリスクには、今後も十分な注意が怠れない。