日本経済の前途は問題山積(2020.6.9)
―『世界日報』2020年6月9日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【昨年10~12月期から始まったマイナス成長】
 日本経済の激しい景気後退が進んでいる。昨年10~12月期には、景気後退の気配が広がる中で、消費税率引き上げを強行し、大型台風のショックも加わって、前期比年率マイナス7・3%の成長率を記録したあと、本年1~3月にはコロナウイルス感染症の蔓延(まんえん)が始まり、さらに同マイナス3・4%と落ち込んだ。

【4~6月期は戦後最悪の2桁のマイナス成長か】
 しかし、4~6月期の経済の落ち込みは10~12月期、1~3月期の比ではないだろう。4月7日の緊急事態宣言に伴い、人々の外出自粛、対個人サービス業の営業短縮・休業、工場や建設現場の操業縮小・停止などがピークを迎えた。コロナ禍に伴う中国や欧米のマイナス成長で、日本の輸出は前年を2割程下回った。4月の鉱工業生産の実績と、5月、6月の製造工業生産予測調査によって推計すると、4~6月期の生産は、前期比マイナス12・8%と予測される。恐らく4~6月期の実質国内総生産(GDP)は、戦後最悪の2桁のマイナス成長となるのではないか。

【第1次、第2次補正予算で空前絶後の国債大増発へ】
 政府はこの対策として4月と5月に第1次、第2次の補正予算を組んだ。事業規模は、いずれも117・1兆円で、リーマンショックの際の2009年4月(56・8兆円)の約4倍となる。「真水」と呼ばれる国債発行額は27・5兆円と33・2兆円で、当初予算の新規国債発行額と合計すると、20年度の国債発行額は、90兆1000億円に膨らむ。近年の新規国債発行額は毎年30兆~40兆円であったから、「空前絶後の国債大増発」である。この結果、900兆円台後半で推移していた国債発行残高は、20年度末に一気に1097兆円となる。名目GDPの約2倍である。
 第1次と第2次の事業規模には、財政投融資がそれぞれ10・1兆円、39・3兆円計上されており、20年度の財投計画は62・8兆円と15兆~20兆円規模で推移していた近年では突出している。この財源は財投債の発行で賄われるが、その本質は国債発行に近い。

【日本銀行も「新型コロナ対策資金繰支援特別プログラム」】
 このような政府の対策に日本銀行は協力姿勢を鮮明にするため、5月22日に副総理兼財務大臣と日本銀行総裁の共同談話を発表し、総枠約75兆円の「新型コロナ対策資金繰り支援特別プログラム、期限21年3月末」(CP・社債等の買い入れ、感染症対応金融支援特別オペ、無利子・無担保融資を中心とする資金供給)と、国債買い入れやドルオペによる金融市場への上限を設けない円貨・外貨の供給、上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J―REIT)の積極的な買い入れ持続を表明した。

【7~9月期は回復か底這いか】
 以上の政府・日本銀行による前例を見ない大規模な措置によって、医療体制の整備・感染症の抑制・経済生活の下支えが進み、経済活動が徐々に正常化していくならば、日本経済は4~6月期の落ち込みを底に、7~9月期から回復に向かうであろう。しかし、ワクチンの開発、普及に目途(めど)が立っていないだけに、感染症の第2波、第3波に見舞われ、その都度経済活動が抑制され、7~9月以降も経済が底を這(は)っていく可能性もある。

【回復なら金利上昇で政府の財務負担増加と民間の資産内容悪化、底這いなら金融危機のリスク】
 いずれの場合も、今回の大規模な措置の副作用が大きいことに、十分注意を払わなければならない。GDPの2倍に達する国債残高の大幅増加は、経済が現状のように落ち込んでいる間はゼロ金利なので金利負担が気にならないが、経済が回復し始めて金利が上昇し始めると、重い財政負担となってのし掛かってくる。その時は日銀の国債買いオペも減り、事実上の財政ファイナンスも縮小する。日銀と民間金融機関のバランスシートでは国債値下がりに伴う損失が大きくなる。
 逆に経済が長く底を這うことになると、収益悪化から今回の大型援助融資の返済不能や企業の倒産が増え、不良債権の増加・回収不能から金融危機に発展する恐れがある。

【日本経済の弱点である非製造業の低生産性引上げに繋げよう】
 今後は、このような大型措置のデメリットに十分な注意を払いながら、情報通信技術(ICT)を活(い)かしたサービス業、事務ワーク、医療、教育などのテレワーク化による生産性向上を一時的措置に終わらせず、日本経済の弱点である非製造業の低生産性の引き上げに繋(つな)げていきたいものである。