コロナ禍で進む世界の景気後退(2020.5.14)
―『世界日報』2020年5月14日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【米欧の景気悪化】
 新型コロナウイルスの感染症拡大に伴い、世界的に景気後退が進んでいる。
 米国では1~3月期の実質成長率が前期比年率でマイナス4・8%に落ち込んだが、4~6月期にはさらに年率でマイナス40%にまで沈むとの予想がある。ユーロ圏での1~3月期の実質成長率も前期比年率でマイナス14・4%に下がり、4~6月期の下げ幅はさらに拡大すると見られている。

【日本もマイナス成長】
 日本では1~3月期の国内総生産(GDP)公表が5月18日の予定であるが、鉱工業生産は2月に前月比マイナス0・3%、3月に同マイナス3・7%と急激に下げ幅を拡大している。1~3月期の実質GDPはマイナス成長を免れないだろう。4~6月期も米欧経済と同様に一段と落ち込むと見られるので、日本経済は1~3月期を挟んで3期連続のマイナス成長となり、大きく沈むことになろう。

【緊急事態宣言に伴う消費需要減少】
 経済を落ち込ませる原因は、需要・供給の両面にある。需要面では、第一に政府の緊急事態宣言に伴う外出自粛や店舗休業の影響で対個人サービス業、宿泊・飲食サービス業、運輸業(タクシー、バス、鉄道、航空)等の売り上げが軒並み半分以下に落ち込んでいる。
 第二に消費者は、非常時に備え、日用品の購入意欲は旺盛でスーパーやコンビニの売り上げは落ちていないが、織物・衣服・身の回り品、家電・家具などの高級品の買い物は、株価暴落の逆資産効果も手伝って控えられている。このため、百貨店や家電量販店の売り上げは前年を1~3割下回っており、さらにインバウンドの落ち込みがこれに拍車をかけている。

【設備投資も様子見から減退】
 第三に企業は先行きの見方を慎重化し、設備投資の様子見が始まっている。3月調査「日銀短観」による全規模企業の製造業、非製造業、金融機関の設備投資計画合計(ソフトウエア・研究開発を含み、土地投資を除く)は、19年度に前年比プラス4・4%のあと、20年度も同プラス1・3%の計画であるが、足許の設備投資動向を示す資本財(除輸送機械)の生産は、1月から3カ月連続して減少し、3月は12月比マイナス10・2%の水準に落ちた。また先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、7~9月期、10~12月期と2期連続弱含みのあとにもかかわらず、1~3月期の見通しはさらに前期比マイナス5・2%の減少となっている。

【世界の景気後退の日本への影響】
 第四にコロナ禍に伴う米国、欧州、中国等の景気後退を反映して、日本の輸出が大きく落ちてきた。3月の通関統計によると、対米国は前年比マイナス16・5%、対欧州連合(EU)は同マイナス11・1%、対中国は同マイナス8・7%の大幅減少である。品目は自動車・同部品、半導体等製造装置、建設用・鉱山用機械等である。
 コロナ感染拡大に伴う海外の減産や生産停止は、日本のグローバル・サプライチェーンを寸断し、供給面からも日本の生産、販売活動を落としている。3月は衣類・同付属品、電算機類・同周辺機器などの輸入が大きく落ちたのが目立つ。

【本年の世界経済はマイナス成長】
 国際通貨基金(IMF)は2020年の世界経済の成長率見通しを6・3%ポイント下方修正し、マイナス3・0%と発表した。これは年央までに新型コロナの封じ込めに成功し、7~9月期からV字型回復するケースである。確かに米欧、中国、日本において、現在は新規感染者の発生が減っている。しかし、このウイルスにはまだワクチンが開発されていないので、蔓延(まんえん)が早く収まれば収まるほど免疫を持たない人が多く残り、再流行の確率は高くなる。

【金融リスクに充分警戒せよ】
 もう一つ油断がならないのは、金融リスクである。日米欧など先進国の中央銀行は国債、社債、コマーシャルペーパー(CP)の大量購入で金融の量的緩和を深め、また民間金融機関は無利子、無担保で企業の流動性補填(ほてん)融資を行っている。非常時の救済策とはいえ、中央銀行の資産内容悪化、民間金融機関の不良債権増加・経常悪化、金融市場取引でのバブル拡大が進んでいることに変わりはない。コロナとの闘いが長丁場になる可能性が高い中、将来、金融危機を招かないよう、これらの動向に十分な注意を払う必要がある。