新型コロナ感染と日本経済(2020.4.9)
―『世界日報』2020年4月9日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【経済活動の下振れが始まった】
 新型コロナウイルス感染症の拡大が続いているが、経済に対する影響を示す指標の公表が始まった。日本経済は、消費増税と大型台風の影響で、10~12月期に前期比マイナス1・8%(年率マイナス7・1%)と大きく落ち込んだが、1~3月期には底を打って徐々に回復し始めるはずであった。しかしその出端(ではな)を挫(くじ)くようにコロナウイルスの蔓延(まんえん)に襲われ、日本経済はもう一段下押しすることになろう。
 鉱工業生産指数は、汎用機械などに消費増税前の買い急ぎもあって、昨年9月まで大きく上昇した後、10~11月には反動減となったが、12~1月には底を打って回復し始めていた。製造工業生産予測調査では、2月に大きく上昇するはずであった。しかし、コロナ感染症の影響で実績は横這(ば)いにとどまり、3月の予測調査では生産が再び大きく減少する見込みである。

【経済縮小の3つの原因】
 目先の産業活動に対するコロナ感染症拡大の影響は、大きく2種類ある。一つは、国内の移動制限や観光の落ち込みなどによる国内消費(インバウンドを含む)の萎縮という「需要の減少」である。もう一つは、中国をはじめとする海外の生産活動停止により、原料・部品などの日本への輸入が滞り、日本の生産活動がストップする「供給の減少」である(グローバル・サプライチェーン寸断の影響)。このほかやや長い目で見ると、世界的なコロナウイルス蔓延と株価暴落の逆資産効果に伴い、世界経済が大きく減速しているため、日本の輸出が減少するという需要面の影響がもう一つある。

【「日銀短観」の業況判断悪化】
 3月調査「日銀短観」には、この短期二つ、中期一つの三つの影響が出ている。大・中堅・中小の三つの規模の製造業と非製造業の合計を見ると、「業況判断」DIは、昨年12月調査では「良い」と答えた企業が「悪い」と答えた企業を4%ポイント上回っていた。それが今回3月調査では「悪い」超4%に悪化し、さらに先行きは「悪い」超18%に落ち込む。

【悪化する業種】
 消費需要減退の影響を強く受けている業種は非製造業のうち卸売、小売、運輸・郵便、対個人サービス、宿泊・飲食サービスで、大企業より中堅・中小企業の方が、先へいくほど「業況判断」DIの「悪い」超幅拡大が大きい。
 サプライチェーン寸断と世界の需要減退の影響を受けている製造業では、大企業の船舶・重機等の「業況判断」悪化が特に目立ち、また各規模企業を通じて、汎用・生産用・業務用機械、電気機械、自動車、鉄鋼、非鉄の「悪い」超幅が先行きに向かって大きく拡大している。

【輸出と設備投資の先行き】
 輸出の先行きについては、大企業製造業は2019年度下期に前年比減少となった後、20年度上期には前年並みを回復し、下期にはわずかに前年を上回ると見ている。また国内の設備投資(ソフトウエア・研究開発を含み土地投資を除く)に19年度に前年比プラス4・4%と拡大した後、20年度もプラス1・3%の微増となる計画である。

【労働者に対する悪影響】
 コロナ感染症蔓延の影響は、以上のような産業に対する影響のほか、労働者には対しても、需要や供給の減退に伴う仕事の喪失や解雇などの形で、直接響く。一般職業紹介状況(含パート、季調済)を見ると、本年1月以降、有効求人の減少テンポが速まり、有効求職は減少から増加に転じた。このため有効求人倍率は12月の1・57から2カ月連続して低下し、2月は1・45となった。2月の完全失業者(季調済)も前月比1・2%増加した。

【対策は給付と融資】
 以上のような産業と労働者に対するコロナ感染症蔓延の影響に対して、政府と日本銀行はさまざまな対策を打ち出し、または打ち出そうとしている。需要減少や部品・原料の供給減少で停滞する企業と、仕事を失った労働者に対する救済策である。それも財政赤字の拡大を伴う「給付」と、時間を稼ぐ「融資」の2種類がある。当然受ける側は「給付」を望むが限度がある。しかし「融資」には利子負担と将来の返済義務を伴うという別の問題がある。

【時限的な消費税引き下げも検討課題】
 こうして最悪期を乗り切ることに成功すれば、次は経済の回復促進策である。そこでは時限的な消費税率引き下げも検討課題となろう。