財政出動に懸かる下期の日本経済(2019.10.20)
―『世界日報』2019年10月20日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

 2019年度の下期に入り、米中貿易戦争が持久戦の様相を呈し、世界経済の成長が一段と減速する中、今後の日本経済はどのように推移するであろうか。

【鉱工業生産弱含みを認めた政府】
 8月までの鉱工業生産の実績の推移と、9月と10月の製造工業生産予測調査を見ると、四半期ベースの生産は昨年の10~12月期がピークで、その後一高一低を繰り返しながら緩やかに低下し、本年7~9月期(9月は製造工業の予測)にはピーク比マイナス2・4%、下期最初の10月(同)はピーク月の昨年10月比マイナス2・6%の水準にある。半年以上も、「生産は一進一退」と繰り返し述べていた政府も、本年9月に至り、さすがに「生産はこのところ弱含み」と変更し、下落の趨勢(すうせい)を認めた。

【米中貿易戦争で輸出減少】
 このような鉱工業生産の下落傾向は、米中貿易戦争に伴う世界経済の成長減速から、対中貿易を中心に、日本の輸出が減少し始めたためである。通関ベースの日本の輸出(季調済み)は、昨年10月をピークに減少傾向を辿(たど)っており、最新の本年8月はピーク比マイナス9・3%の水準にある。

【製造業の業況判断DIは悪い超に転落】
 9月調査「日銀短観」の大企業製造業「輸出計画」によると、本年度の輸出は、3カ月前の6月調査よりもマイナス1・0%下方修正され、前年比プラス0・7%からマイナス0・3%となった。米中貿易戦争に伴う日本の輸出への影響を、企業はかなり長引くと見ていることが分かる。このため、「短観」の製造業(全規模)の「業況判断DI」は、今回景気回復が始まった2013年以来初めて「悪い」超に転落した。

【非製造業がどの程度支えられるか】
 問題は、このような製造業の悪化を非製造業がどの程度下支え、日本経済全体が失速を免れることができるか、ということである。
 9月調査「日銀短観」によると、全規模を合計した非製造業の「業況判断DI」は、今回景気回復が始まった2013年に「悪い」超から「良い」超に転じてそのまま推移し、9月調査でも6月調査の「良い」超14%ポイントで横這(よこば)いであった。その中で特に「良い」超を拡大した業種は、情報サービス、対事業所サービス、建設、不動産であった。

【雇用増に支えられる個人消費】
 このような非製造業の順調な業況を支えている需要は、国内総生産(GDP)ベースで言えば、内需のうち、個人消費、設備投資、公共投資である。
 最近の個人消費は、主として雇用の拡大によって支えられている。1人当たりの所得はあまり増えていないが、女性や高齢者を中心に就業人口が増大し、雇用者報酬全体が増加して、個人消費の伸長をもたらしている。

【設備投資に勢いなし】
 設備投資を支えているのは、明るい経済展望というよりも、急速な技術革新や企業再編に遅れまいとする生き残り作戦であり、それを2013年以来の景気上昇で蓄積された膨大な内部留保が可能にしている。しかし9月調査「短観」の製造業・非製造業・金融機関の設備投資計画合計(ソフトウエア・研究開発を含み、土地投資を除く)を見ると、前年比5・8%増と高めではあるが、6月調査に比べ早くも0・3%下方修正されており、17年度や18年度に比べて勢いがない。

【財政出動はどこまで本気か】
 公共投資などの財政支出は、本年10月の消費税増税に伴う経済の落ち込みを防ぐ意図もあり、明年1月の通常国会冒頭に提出する19年度補正予算と、それに続く20年度当初予算の2段構えで考えられている。もともと財政の機動的出動はアベノミクスの3本の矢の1本であったが、これまでは「空念仏」であった。今度こそ本気で景気を支えることが出来るのか、注目される。

【消費税増税の負の効果はどの程度か】
 本年度下期以降の日本経済は、米中貿易戦争に起因する輸出減少の負の波及効果を、個人消費、設備投資、財政支出を中心とする国内需要がどれだけ相殺できるかに懸かっているが、個人消費と設備投資には、多かれ少なかれ輸出減少の負の波及効果が直接及ぶことは避けられない。加えて10月からの消費税率引き上げという負の政策効果もある。安倍政権がどれだけ有効な財政支出政策を展開できるのかが注目されるところである。