不安を抱えた下期の内外経済(2019.7.18)
―『世界日報』2019年7月18日号“Viewpoint”(小見出し加筆)
【昨秋の株価下落と年初来の急反発】
今年の経済は、昨年10~12月に下落した米国、日本など世界の株価の急反発と共にスタートした。昨秋の株価下落の共通の背景は、米中貿易戦争の勃発と、それにもかかわらず続く米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ路線である。しかしその米国の利上げ路線が年末年始に転換し、利下げもあり得ると変わったことが、年初来の株価反発を招いた。
【日米の株価戻り足に差】
しかし、米中貿易戦争の帰趨(きすう)は、世界景気、ひいては世界の株価動向に重くのし掛かったままである。FRBの政策動向を最も強く受ける米国の株価は、昨年10月のピークを超えて高値を更新したが、米中貿易戦争の痛手の大きい中国の株価は、戻りが小さい。日本の株価の戻り足はその中間にあるが、米国と日本の経済の先行き感に差があり、日本には先行き景気後退の不安もあることが、株価の戻り足に影響を与えている。
【安易な妥協できぬ両国】
目下、米中貿易戦争では、米国が中国からの輸入に対して、昨年7月、8月、9月、本年5月、6月に関税をかけ、あるいは関税率を引き上げた結果、約2500億㌦に25%の関税がかかっている。これに対抗して、中国もほぼ同じ時期に米国からの輸入約1500億㌦に10~25%の報復関税をかけた。さらに、米国は新たに中国からの輸入3000億㌦に25%の関税をかけるか、また中国は米国からの輸入400億㌦に報復関税をかけるか、を互いに脅迫材料に使って、交渉が続いている。
【貿易交渉決裂なら株価急落】
もし交渉が決裂してこの関税が本当に実行されれば、米中貿易戦争の全面的展開となり、米国、中国を含む世界の株価は急落し、明年に向かって世界の景気も落ち込んでいくかも知れない。去る6月28、29日のG20(20カ国・地域)大阪サミットの機会を生かして、29日に米中首脳会談が行われ、米中貿易協議の再開が決まったので、その帰趨が注目されている。
【中国に戦略転換を迫る米】
この交渉は、単なる関税率の話ではない。中国政府が中国の輸出企業に支給する「産業補助金」、中国に進出する外資企業に対して行う強制的な技術移転、ハイテク産業育成策である「中国製造2025」など、国家主導の資本主義経済運営という中国の核心的経済戦略、国是の根本に対する廃止ないしは見直しの要求である。
【米国は引くも進むも困難な事情】
従って、交渉は簡単には妥結しないのではないか。しかし、明年に大統領選挙を控えるトランプ大統領には時間がない。交渉が長引いて世界経済を混乱に陥れれば、その責任を問われ選挙にはマイナスである。しかし安易な妥協も選挙で批判の種となろう。下期の世界経済は、その意味で大きな爆弾を抱えている。
【業況悪化の輸出関連製造業】
そのような世界情勢の中で、下期以降の日本経済はどうなるであろうか。7月1日に公表された6月調査「日銀短観」によると、強弱二つの流れが見てとれる。一つは、米中貿易戦争を中心とした世界経済の動向を反映し、日本の輸出が鈍化し、製造業の業況が悪化する動きである。大企業製造業の業況判断は、昨年12月調査迄は業況が良いと答える企業が圧倒的に多かったが、本年に入ると、2期連続して急速に悪化した。大企業製造業の輸出が、昨年度の前年比プラス4・3%の実績から、本年度は同プラス0・7%の計画に大きく鈍化していることが響いていると見られる。
【内需支える設備投資と個人消費は10月以降の消費増税を乗り切れるか】
もう一つは、人手不足と需給逼迫(ひっぱく)を背景とする個人消費と設備投資の根強さだ。実質消費活動指数(日銀推計)は一貫して上昇している。賃金はあまり上がっていないが、人手不足から雇用が根強く拡大し、個人所得が増大しているためである。また本年度の製造業・非製造業・金融機関の設備投資計画合計(短観)は、前年比プラス6・1%増と前年実績(同プラス4・3%)を上回る伸びである。大企業非製造業の業況判断は、情報サービス、対個人サービス、建設・不動産を中心に高水準を続けている。
ただし、これには消費税引き上げ前の駆け込みやオリンピック需要も含まれている可能性があり、本年度下期に出る反動減がどの程度になるか、警戒しなければならない。