楽観的に過ぎる政府の来年度経済見通し(H31.2.18)
―『世界日報』2019年2月18日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【政府、日銀、民間の来年度経済見通しに大きな開き】
 1月28日に通常国会が召集され、来年度予算案とその背後にある政府の来年度(2019年度)経済見通しが明らかになった。
 本年度(18年度)の実質経済成長率の見通しは、政府、日銀(政策委員見通しの中央値)、民間平均のいずれも、0・9%となっており、見方に差はない。しかし来年度の実質経済成長率については大きな開きがある。政府は本年度の0・9%成長から来年度は1・3%に高まると見ているのに対し、日銀は0・9%で横這(ば)い、民間平均は0・7%へ減速すると見ている。政府は本年度より来年度の方が景気が良くなると見ているのに対し、日銀は横這い、民間平均は悪化すると見ているのである。

【家計消費と輸出の予測が大きく違う】
 どこでそのような見通しの違いが出てくるのか。国内総生産(GDP)の需要項目をチェックしてみると、家計消費と輸出の見方に大きな違いがあることが分かる。家計消費の前年比について、政府は本年度の0・7%から来年度は1・2%へ高まると見ているのに対して、民間平均は0・7%から0・6%へわずかに鈍化すると見ている。また実質輸出の伸びについては、政府が本年度の2・7%から来年度は3・0%へ高まると見ているのに対して、民間平均は2・7%から2・0%へむしろ大きく鈍化すると見ている。双方の見方はまさに正反対である。

【政府は消費税引上げ対策を過信】
 実質家計消費の見通しに、加速と減速という大きな違いが生じたのは、主として19年10月からの消費税率引き上げの影響について、双方の読みが違うからである。政府は、今回の消費税率引き上げによる経済への負の影響は2兆円程度であるのに対して、新たな対策として19年度予算などで支出面、税制面に合計2・3兆円の措置を講じるので、経済の回復基調に影響は出ないとしている。

【民間は買い急ぎと反動的買い控えが今回も起きると見る】
 これに対して民間は、2・3兆円の措置を講じる対象は一定の食料品の購入など一部であり、その他の広範な消費財・サービスでは従来の消費税率引き上げ時と同じように、買い急ぎと、その後の長期にわたる反動的買い控えが生じると見ている。また2・3兆円の措置は19年度だけの一時的措置であり、それがなくなった20年度以降は、従来の消費税率引き上げ時と同じような消費抑制効果が長期にわたって生じると見ている。

【米中貿易戦争とBrexitの影響を政府は軽く見ているが民間は重く見ている】
 次に輸出見通しについて、加速と減速の違いが生じた理由は主に二つある。一つは、米中貿易戦争、英国の欧州連合(EU)離脱(Brexit)などの世界経済への影響を、政府は軽く見ており、民間は重く見ていることである。
 世界経済がグローバル化し、原料調達地、製品製造基地、最終需要地が各国にまたがり、付加価値の発生場所が鎖となって各地に広がっている「グローバル・バリューチェーン」に覆われた今日の地球上では、米中2国間や英国とEUの間の関税引き上げや輸出入規制の影響は、グローバル・バリューチェーンを変更させることによって、当事国以外の広範な国々の原料調達、生産立地、輸出先を変化させ、世界規模の非効率を発生させる。これが世界経済の成長を鈍化させる効果は大きいが、民間はこの間接的影響を大きく見ているのに対して、政府は自国への直接的影響を試算した当事国の試算だけを見ているように見受けられる。

【民間は先進国の景気上昇長期化に伴う自律的反転の可能性を見る】
 もう一つの理由は、米国、EU、日本などの先進国は、07~09年の世界同時不況から立ち直り、最も早い米国、イギリスは11年頃から、日本は13年頃から、最も遅れていたEUでも14年頃には景気上昇局面に入ったので、今年で先進国は6~9年の長期景気上昇を続けていることになる。このため資本ストックや債務の累積が過大となり、資本ストックの調整による自律的な投資減速局面に入り、また累積債務の整理によって金融危機が起こってもおかしくない状態にある。今年は少なくとも先頭を走ってきた米国の成長率は資本ストック調整に伴って鈍化するという見方が多い。米準備制度理事会(FRB)が先月30日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、19年中に2回を見込んでいた追加利上げを棚上げする考えを示し、17年秋から続けている保有資産の圧縮も修正する用意があるとしたのは、これまで強気であった米国景気の先行きについて、やや慎重な見方に変わってきたためと思われる。

【IMFの見通しは民間に近い】
 先月発表された国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しでは、米中貿易戦争などの影響と、先進国の自律的景気転換の可能性を踏まえ、18年と19年の成長率は、米国が2・3%から2・0%へ、ユーロ圏が1・8%から1・6%へ、先進国全体では2・3%から2・0%へ鈍化するとしている。この結果、世界全体の成長率は3・7%から3・5%へ下がると見ているが、このような時に、日本の輸出の伸びが18年度の2・7%から19年度の3・0%に上がるという日本政府の見通しは、何を根拠にしているのであろうか。

【政府は参院選、統一地方選を控え意図的に楽観論を打ち出しているのではないか】
 来年度の政府経済見通しが過大となるのは、統一地方選と参院選を控え、好況持続とそれに伴う税収伸長・財政赤字縮小を誇示したいからであろうが、政府見通しが過大であることが明らかとなり、信用を失う時に払うコストを、政府はどう考えているのであろうか。