本年の回顧と明年の展望(H30.12.18)
―『世界日報』2018年12月18日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【自然災害に攪乱されながら回復基調を維持した本年】
 年末に当たり、本年の日本経済を振り返り、明年を展望してみよう。
 2018年中の日本経済は、年初から年末まで自然災害に攪乱(かくらん)されながらも、何とか国内民間需要を中心とする景気の回復基調を維持した年であったと言ってよいであろう。

【生鮮食品の高騰で家計消費が落ち9四半期振りのマイナス成長となった1~3月】
 まず年初には、異常気象による野菜などの生鮮食品の高騰によって実質家計消費が落ち込み、1~3月期は9四半期ぶりのマイナス成長となった。しかし、今年で6年目に及ぶ長期景気回復の中で、企業収益は好調を持続し、これを背景に賃金・雇用環境が底固い個人所得と家計消費を支え、さらに夏期ボーナスの比較的高い伸びもあって、4~6月期の家計消費は大きく立ち直った。

【個人消費の反動増と設備投資の高まりで4~6月期はプラス成長】
 他方、本年度の設備投資計画は、マクロの需給基調が一段と引き締まり、人手不足も深刻化しているため、能力増強投資が高まり、またAI(人工知能)革命の進展やIoT(モノのインターネット)の普及など、技術革新投資も加わって、06年以降の最高の伸びとなっている。このため設備投資は7四半期連続の増加となって、4~6月期の経済立ち直り(前期比年率3・6%)を助けた。

【大型台風による水害と北海道大地震で再びマイナス成長となった7~9月】

 しかし7~9月期には複数の大型台風による水害、9月の北海道大地震などによって国内のサプライ・チェーンが寸断され、生産活動に支障が生じ、設備投資の増加は足踏み状態となり、家計消費は再び落ち込み、海外からの旅行者も一時的に減った。
 また、世界景気の回復に伴う輸出伸長から経済成長を支えてきた「純輸出」も、この頃から変調を来し始めた。国内のサプライ・チェーンの混乱に伴う輸出の船積みの遅れなどから輸出の伸びが落ち、半面、輸入の伸びは原油価格の世界的高騰などからエネルギー関係を中心に高まり、貿易サービス収支は7~9月期から赤字に転じた。GDP(国内総生産)ベースでも、4~6月期と7~9月期には「純輸出」の成長に対する寄与度がマイナスとなった。
 このため7~9月期には、成長を支えてきた国内民間需要と外需の双方が躓(つまづ)き、経済成長率は年率で2・5%のマイナスに落ち込んだ。

【10~12月期は反動もあって高目のプラス成長か】
 自然災害からの復旧は10月以降、着実に進んでおり、10月の鉱工業生産と出荷は前月比それぞれプラス2・9%、プラス5・4%と大幅増加となった。これには7~9月期の落ち込みの反動もあるが、製造工業生産予測調査によれば、11月は前月比プラス0・6%、12月は同プラス2・2%の続伸となり、10~12月期は前期比プラス3・9%の大幅増加になると見込まれている。実績はこれほどの急回復ではないかもしれないが、再び自然災害に襲われない限り、好調な企業収益に支えられた家計消費と設備投資を中心に底固い回復が、目先は続くのではないかと思われる。

【明年の最大の不安材料は米中貿易戦争】
 問題は、明年以降の展望である。大きな問題が三つある。
 第1は米中貿易戦争の帰趨(きすう)だ。米国は対中追加関税(輸入2000億㌦分の関税率を25%に引き上げ)を明年2月末まで90日間猶予したが、これまで既に実施した米国の輸入関税引き上げと中国の報復関税引き上げの影響だけでも、中国経済は減速し始めている。例えば中国の新車販売台数は4カ月連続の前年比マイナスだ。マイナスは28年ぶりである。米国の制裁強化による輸出への影響だけではなく、株価、雇用、消費者心理など多方面に影響が出始めているためと見られる。
 90日間の休戦とは言っても、米国の知財保護、米国企業への技術移転強要の中止、米国に対するサイバー攻撃中止など5分野の休戦中協議で合意ができなければ、休戦明けに対中追加関税を実施すると米国は言っている。とにかく米国は、「中国との競争を経済だけにとどめず、軍事、文化、価値観などを含む各分野に広げて対決する」(ペンス副大統領)と言っているのだから、簡単には収まらないと見られる。

【米国の利上げ打ち止めに伴う国際金融市場の動揺】
 第2は米国景気だ。今のところ絶好調で、つい先日までは、予想される12月のFOMC(連邦公開市場委員会)での利上げに続き、19年中にさらに3回利上げをして3%あたりにすれば、ちょうど景気過熱を防ぐ水準になると言われていた。もしそうであれば、来年は新興国からの資金流出で国際金融市場の動揺が起こり兼ねない。しかし最近になって、米中貿易戦争への配慮もあってか、利上げテンポはもう少し遅いかもしれないという説が出ている。果たしてどうなるか。

【日本経済の行く手に多くの不安材料】
 第3は日本経済。来年1月で戦後最長の景気上昇期間に達する日本経済は、人手不足の壁、設備投資循環の峠、オリンピック需要のピーク・アウトなどからただでさえ景気減速の懸念があるところへ、政府は2%の消費税率引き上げを来年10月に断行すると言っている。
 米中貿易戦争の影響で中国をはじめとする世界経済が減速すれば、日本の輸出への影響は避けられない。米国の金利動向も円相場や株価を通じて日本に響く。明年の経済展望は、一時も目を離せないほど不安材料に満ちている。