外国人労働者の受け入れ拡大(H30.11.20)
―『世界日報』2018年11月20日号“Viewpoint”(小見出し加筆)
【外国人労働者に対する政策姿勢の転換】
日本政府の外国人労働者に対する政策姿勢が、大きく変わろうとしている。安倍政権は外国人労働者の新しい在留資格である「特定技能」を新たに設けるため、出入国管理法の改正案を今国会に提出して成立させ、来年4月から施行する方針で動き始めた。
現在日本には、「外国人研修制度」があるが、これはアジア諸国の「人づくり」を目的とした国際協力の制度であり、3年間日本の現場で技術・技能を身につけた後、母国に帰す制度である。しかし実際は、安い労働力を確保する人手不足対策として利用する企業が少なくない一方、3年経過後も日本で働き続けたい外国人の失踪が増えている。
【「研修」制度から「特定技能」制度へ】
今回の「特定技能」制度は、一定の日本語力や技能を持つ外国人労働者に、通算5年の在留期間を認める「1号」と、熟練した技能を持ち、一定の条件を満たせば在留期間の更新を認め、家族の帯同も許す「2号」から成っている。従ってこれは、日本に来る外国人労働者に「永住権」や「国籍」を与えずに特定の職業に就かせる「ゲスト・ワーカー型プログラム」の一種である。「特定技能2号」は限りなく「移民」に近いが、永住権や国籍を与えないので移民ではないと政府は説明している。
【世界中で悪名高い「移民」】
「移民」はいま世界中で悪名高い言葉になってしまった。米国ではトランプ政権が移民の制限や追い出しを図っているし、欧州諸国では移民受け入れ反対の政治勢力が強くなり、移民問題が難民問題となって、人道上許せないような悲劇が起こっている。
日本の政界でも「移民」政策を口にすることは長い間タブーであった。今回も政府は「外国人労働者の受け入れ拡大」であって、彼等は「移民」ではないと繰り返し強調し、法案を通そうとしている。
【移民に不安を感じる理由】
「移民」がその国に居る「国民」にとって評判が悪い理由は、第一に移民に職を奪われ、国民の就業機会が少なくなるという不安、第二に医療や年金などの社会保障制度にタダ乗りされる不安、第三に生活習慣が異なるため、社会秩序を乱されるという不安、などによるものである。政治家にとっても、選挙民がこのような不安を持っている上、移民はとりあえず投票権を持っていないので、まるっきり「票にならない」政策ということになる。
しかし、政治家は自分の選挙区ばかりではなく、日本国家全体の前途を真剣に考えなければならない。移民問題に取り組むことの重要性を理解してくれなければ困る。
【就業者1人当たりの実質GDP成長率は日本が最高】
日本の人口増加率を5年間ごとの平均で見ると、少子化の進行に伴い、1971~75年の年1%強をピークに年々低下し始め、2006~10年にはマイナスに転じた。これに伴い就業者数の変化率も、00年代には年平均マイナス0・3%となり、その後10年代は同マイナス0・7%、20年代は同マイナス0・8%、30年代は同マイナス1・2%となる見通しである。
他方、日本の01~10年の年平均実質GDP(国内総生産)成長率を主要先進国の同じ統計と比較すると、イギリス、アメリカ、ユーロ圏、フランス、ドイツ、日本の順となり、日本が一番低い。しかし、これを生産年齢人口1人当たりの実質GDP成長率に直してみると、日本、ドイツ、イギリス、ユーロ圏、フランス、アメリカの順となり、日本が一番高い。
【移民不在で日本の成長率は最低】
つまり、日本の実質GDP成長率が一番低いのは、日本の就業者数の増加率が一番低いためで(とくに00年代以降はマイナス)、生産年齢人口1人当たり実質GDP成長率、つまり実質GDPベースの労働生産性の向上率は、日本が一番高いのである。
日本のみではなく先進国は、多かれ少なかれ、戦後のベビーブームの反動で、現在少子化が進んでいるが、ここで引用した欧米の国(地域)は、この時期、移民を計画的に受け入れ、生産年齢人口の増加率を維持し、減少を防いでいる(詳しくは拙著『試練と挑戦の戦後金融経済史』岩波書店、Ⅲ―12“どうなる日本経済”参照)。
【国民の不安を取り除く周到な法律的制度的準備が必要】
外国人労働者や移民の受け入れ増加を図るには、もちろん先述した移民に対する日本人の不安を取り除くため、周到な法律的制度的な準備が要る。政府が今回の出入国管理法の改正に当たり、「移民」ではなく「外国人労働者」の就労拡大だと述べているのも、当面の政治的「策」としては理解できないこともないが、いずれはどこかの段階で、「移民政策」に切り替えざるを得なくなるであろう。それに備えて、不安のない就業制度の整備、日本社会への順応支援、社会保障制度への加盟円滑化などを着実に進めていく必要がある。
【いずれ移民受入れは不可避】
日本経済の将来にとって移民受け入れが不可避であることを知る国民が増えれば、日本人の移民に対する不安や拒否反応も、薄れてくるのではないだろうか。日本経済新聞社の世論調査(10月26~28日)によれば、現在でも外国人労働者の受け入れ拡大に賛成が54%(反対37%)、永住に賛成が54%(同34%)と賛成が過半数に達している。