明るくなってきた世界経済――非伝統的金融政策の収束過程へ(H29.5.15)
―『世界日報』2017年5月15日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【世界経済の拡大テンポは15~16年に鈍化
 世界経済の拡大に、少し勢いがついてきたようだ。4月に公表された国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し(WEO)によると、世界経済は2012~14年の3年間、年率3・4%で拡大した後、15年は3・2%(推計)、16年は3・1%(同)とやや鈍化していたが、17年には3・5%(予測)、18年にも3・6%(同)と勢いを取り戻してくると見込まれている。15~16年の減速は、①新興国・途上国の側で<イ>原油・非鉄など資源価格の下落に伴い資源輸出国の経済が悪化したこと、<ロ>中国がそれまでの7%台成長から6%台成長に減速したこと、他方②先進国の側でも日本や欧州の成長が緩やかであったこと―などによるものであった。

【IMFは17年以降に世界経済の拡大テンポが高まると予測】
 しかし、16年後半から世界経済は緩やかに加速し始めており、この勢いは17年以降も持続する|蓋然《がいぜん》性が高くなってきた。この変化は、①資源価格の底入れに伴い、資源輸出国(ロシア、ブラジル、中近東産油国など)の経済が立ち直ってきたこと、中国経済の減速も経済政策の下支えでこれ以上大きくは進まないと見られること②超金融緩和の日本と欧州先進国の経済にようやく循環的回復の動きが出てきたこと、米国の景気回復が底堅いこと―などによるものである。確かに日本経済は、このような世界経済の流れの中で、昨年後半以降、回復の足取りがしっかりしてきている(4月17日の本欄参照)。

【リーマン・ショック以降の世界同時不況に先進国は「非伝統的金融政策」で対処】
 振り返ると世界経済は、08年のリーマン・ショックによる金融危機を引き金に、08~09年には世界同時不況に陥ったが、米国、欧州、日本などの先進国が、量的金融緩和政策(QE)、ゼロ金利政策、マイナス金利政策などの「非伝統的金融政策」によってデフレやマイナス成長と戦い、10年以降は、低成長ながら何とか拡大基調を取り戻すことができた。そしてようやく金融政策の正常化に着手する段階が見えてきたというのが現状である。

【米欧は「非伝統的金融政策」の収束過程へ】
 先進国の回復の先頭を走っている米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、既に量的緩和のための資産買い入れを中止し、ゼロ金利政策を脱してフェデラルファンド(FF)レートの誘導目標を3回引き上げて、0・75~1・00%としている。今年中にさらに0・25%幅で2~3回利上げを行い、同時に量的緩和の過程で膨大な量に達している保有資産の圧縮を始める意向である。
 米国よりも回復の遅れていた欧州連合(EU)加盟国やその他の欧州先進国は、まだ量的緩和とゼロ金利政策、マイナス金利政策を続けているが、それでも欧州中央銀行(ECB)は、本年4月から、スウェーデン中央銀行は本年1月から、資産買入額の圧縮(テイパリング)を始めた。その先には、米国と同じように、資産買い入れの中止、金利引き上げを展望していると思われる。

【日本は14~15年の「政策不況」で回復に遅れ】
 日本はどうか。米欧諸国が、リーマン・ショック後の世界同時不況の後、今日まで一貫して景気回復を続けてきたのに対して、日本は14~15年に「政策不況」でもう一回景気が落ち込んだ。14年4月の消費税率引き上げ後、2四半期連続のマイナス成長となり、14年度全体では前年比0・4%のマイナス成長であった。
 普通ならば、これは「景気後退」と見なされる。しかし政府は、「政策不況」を認めたくないためか、今のところ景気は12年11月に底を打って、今日まで54カ月上昇しているとしている。しかし、いかに言い繕っても、経済の実体はごまかせない。途中で「政策不況」を経験した日本経済は、米欧先進国の経済よりも、リーマン・ショック以降の回復が遅れている。そのため、日本銀行は、資産買入額の圧縮にも、まだ手が着いていないのである。

【17年以降はようやく日本も完全雇用下の持続的成長を展望できる段階へ】
 しかし、幸いなことに日本経済にも、潮の流れの変化が出て来た。昨年1月、日本銀行が「量から金利」へ操作目標を転換して以来、市場のイールド・カーブが一段と低下し、貸出金利と社債発行金利も低下している。この結果、銀行・信金貸出残高や社債発行残高の前年比が高まり始め、鉱工業生産・出荷や実質国内総生産(GDP)の前年比の高まりを支えている。完全失業率は2・8%と完全雇用水準まで低下し、消費者物価の前年比はプラスの領域に定着してきた(以上、4月17日の本欄参照)。本年の日本経済は、世界経済回復の波に乗り、完全雇用下の持続的成長を実現する公算が高い。

【しかし日本の前途には内外に難しい下振れリスクと課題】
 しかし、中期的には幾つかの課題とリスクがある。金融政策では、日本も遅ればせながらテイパリングに入り、さらに膨張した日銀保有資産を圧縮して、将来の金利上昇時の損失リスクを小さくすることができるか。また2%超の物価目標を無理やり実現してスタグフレーションに陥り、完全雇用下の持続的成長を壊す恐れはないか。対外的には、米国の保護主義的な「アメリカ・ファースト」政策により、世界の貿易や資本移動が委縮し、世界経済の成長が落ちることのないよう、日本が対米2国間交渉や環太平洋連携協定(TPP)11を通じて、一定の役割を果たすことができるか。北朝鮮やシリアなどの地域学的リスクを世界が限定化できるのか。これら内外のリスクと課題次第では、世界と日本の経済予測は下振れすることになる。