2016年度の日本経済を占う(H28.7.14)
―『世界日報』2016年7月14日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【英国のEU離脱の影響はまだ分からない】
 最近のニュースで一番驚いたことは、英国の国民投票で、欧州連合(EU)離脱派が残留派に勝ったことだ。これで世界経済や日本経済が今直ぐどうなる訳ではないが、中長期的に見ると、少なからぬ影響が出てくるだろう。
 しかし、その方向性と大きさは不透明で、離脱に伴う諸条件の変化を、2~3年見ていなければはっきりは分からない。早い話が、商品・サービスと人の交流が英国経済とEU経済の間で弱まり、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど旧大英帝国経済との間で強まるとしても、その程度や形がどのようなものか、現時点では不確実性が高く、予測リスクが大き過ぎる。

【大きく進んだ円高・株安はかなり戻った】
 取り敢えず、負の経済効果を蒙る英国とEUの通貨であるポンドとユーロに対して、円とドルが強くなり、円とドルの間では英国との関係が深い米国のドルが弱くなった。また、世界経済の先行きについて不透明感が強まったため、世界の株価は一斉に下がり、日本の株価も、英国を拠点としてEU市場で活動している企業や金融機関を中心に、急落した。しかし、株価も為替相場も、国によって差はあるものの、現在までにかなりの程度元に戻っている。本当の影響の度合いは、まだ分からないからだ。

【16年度の日本経済を大きく左右するのは秋の第2次補正予算】
 日本の本年度経済の見通しにとっては、英国のEU離脱よりも、参議院選挙の大勝を踏まえて、安倍政権がどの程度の規模と内容を持った秋の補正予算を出してくるかの方が、はるかに大きな影響を持つであろう。アベノミクスの当初の3本の矢は、第1の「大胆な金融緩和」の効果が峠を越え、円安・株高が昨年中頃から逆転し始めているし、第2の「財政出動」は14年4月の消費増税と14~15年度の公共投資減少で逆噴射しているし、第3の「成長戦略」は言葉ばかりで、これと言った成果は見当たらない。「一億総活躍」も、会議は始まったものの、具体的な政策内容は不確かだ。そのような中で、政府は16年度当初予算の公共事業を前倒し執行し、秋以降は大型補正予算で公共投資を増やすと言っている。
 6月9日の本欄で述べたように、アベノミクスの下で14年度と15年度の日本経済は「ゼロ成長」であった。16年度こそ、足踏みから脱してプラス成長に戻らなければならないということで、政府は17年4月の消費税率引き上げを19年10月まで2年半延期し、更に前述の公共投資「再出動」を図ろうとしている。

【6月調査「日銀短観」に現れた企業の16年度予測は慎重】
 7月1日に公表された6月調査の「日銀短観」によると、16年度についても企業の経済予測は慎重である。大・中堅・中小企業(以下「全規模」)の製造業と非製造業(以下「全産業」)の合計を見ると、企業の業況判断指数(DI)の「良い」超幅は、3月の調査が7ポイント、6月調査が4ポイント、先行きは2ポイントと期を追って縮小している。とくに中小企業は、製造業も非製造業も、「悪い」超(「悪い」と答えた企業の方が「良い」と答えた企業より多い)に転落して行く。
 売上や収益の見通しを見ると、中小企業の製造業と非製造業は、16年度中を通じ、上期も下期も前年同期比減収、減益と見ていて、見通しが最も暗い。これに対して、大企業の製造業と非製造業、および中堅企業の製造業は、16年度上期には前年同期比減収、減益となるが、下期には増収、増益に回復する。また、中堅企業非製造業は、16年度上期、下期を通じて前年同期比増収、増益の見通しとなっている(理由は後述)。
 以上の結果、全規模・全産業の合計では、売上高が15年度の前年比マイナス1・3%から16年度は、同マイナス0・1%とほぼ横這いに戻り、当期純利益は15年度の前年比0・1%の減益から、16年度は同4・0%の増益に戻る。

【16年度は下期に内需中心の立ち直りを期待】
 16年度の回復は下期が中心であるが、これは輸出よりも国内需要の立ち直りに期待しているようだ。大企業製造業は売上高が国内と輸出に分けて集計されているが、これを見ると、輸出は上期の前年比マイナス4・0%を主因に、16年度全体は同マイナス1・6%となっているが、国内は上期の落ち込みが同マイナス1・4%にとどまり、下期は同プラス1・4%に回復するため、年度合計は前年比横這いと見込まれている。

【16年度の日本経済は公共投資と設備投資次第】
 国内需要が立ち直ると企業が見ている理由の一つは、公共投資が14、15年度の減少から16年度は増加に転じると見込まれているためで、公共事業関連の多い中堅企業非製造業は前述のように上期から増収増益に転じる計画を持っている。もう一つは、16年度の設備投資が底固く推移すると見ているためと思われる。全規模・全産業に金融機関を加えた16年度設備投資計画(ソフトウェア投資を含み土地投資を除く。GDP統計と同じ)の総合計を見ると、前年比プラス4・8%と15年度の実績(プラス4・3%)をやや上回る伸びとなっている。
 本年度の日本経済を占う上では、今後の公共投資と設備投資の推移がとくに注目される。