「アベノミクス」の中間評価(H28.3.13)
―『世界日報』2016年3月13日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【「2年以内に2%のインフレ目標達成」は反故に】
 2015年の年度末に当たり、アベノミクス3年間のパフォーマンスを検証してみよう。
 当初、アベノミクスは3本の矢を打ち出した。第1の矢の「大胆な金融緩和」は、黒田日銀総裁の「量的・質的金融緩和」の第1弾(13年4月)、第2弾(14年10月)として実行され、円安、株高が進み、企業収益は好転した。しかし総需要を拡大して「2%のインフレ目標を2年程度の期間を念頭において、できるだけ早期に実現する」(13年4月の政策ステイトメント)ことはできなかった。16年1月現在、全国消費者物価の前年比は0%である。これには、14~15年の国際原油市況の暴落が大きく響いているが、エネルギーと生鮮食品を除いたベースでも、プラス1・1%である。

【実質イールド・カーブの低下に設備投資や賃上げは反応せず】
 「量的・質的金融緩和」の下で市場のイールド・カーブ(利回り曲線)は下がり、期待インフレ率は上がったので、実質イールド・カーブはマイナスの領域(短期マイナス2・2%弱、長期マイナス1%弱)まで下がっており、先月導入された「マイナス金利」政策で更に下がると見られる。しかし、企業はこの超低金利の下でも、設備投資を大きく拡張せず、ベアに慎重である。
 これは国内の生産年齢人口の減少、海外の諸問題(中国の成長減速、産油国の経済悪化、EUの銀行経営不安、米国の回復の遅れ)などから、企業の期待成長率が低下し、リスクが拡大して支出の金利弾力性(金利変動への感応度)が下がっているからである。この結果、13~15年の実質成長率は平均0・6%にしか達せず、潜在成長率が低いため需給ギャップは多少引き締まってデフレは無くなったものの、2%インフレには到底届かない。

【黒田総裁の三段論法に不安】
 黒田総裁は「2%インフレが持続するまで際限なく金融緩和(量、質、金利)を続けるという政策姿勢を維持すれば、人々は2%インフレの持続を信じる」「人々が信じれば期待が現実となって2%インフレになる」「2%インフレになれば高成長が持続する」という三段論法に立っているように見える。
 しかし、「市場との対話」を重視せず、人々の意表を突いて2度も追加緩和のサプライズを演出した黒田総裁に対し、市場は冷めた見方をしており、2%インフレの実現を信じる人は少ない。仮に百歩譲って2%のマイルド・インフレになったとしても、それで企業の好収益と経済の高成長が実現することはないであろう。インフレは販売価格を挙げるだけではなく、原材料価格、設備費用、金利、賃金などの購入価格も上げるので、企業がインフレ利得を享受し続けることはないからだ。

【第2の矢の財政出動は消費増税で逆噴射】
 次に第2の矢である「財政出動」は、実質公共投資が当初の13年には8・0%伸びたが、14年には0・4%と頭を打ち、15年にはマイナス2・2%と減少傾向を辿っている。その上、14年4月から消費税率を3%引き上げたので、14年と15年の実質家計消費は1%前後前年を下回っている。13~15年の実質成長率が平均0・6%に過ぎないのは、このような公共投資と家計消費の沈滞による面が大きい。第2の矢の「財政出動」は、第1の矢の「大胆な金融緩和」を助けるどころか、逆噴射して反対方向に飛んでいる。

【第3の矢の成長戦略に未だ成果なし】
 第3の矢の「成長戦略」はいま最も必要なことであるが、これ迄歴代政権が口にしながらなかなか実行できなかったことを、本当に安倍政権が実行できるかどうかである。規制改革にせよ、構造改革にせよ、抵抗勢力があって、もともと時間のかかる改革である。将来を展望すると、大筋合意に達したTPPが本当に発効すれば、農業関係の岩盤規制が突き崩されることなどによって、これ迄は動かなかった構造改革の一部が動き始めるかも知れない。しかし今のところ、まだ経済成長率を押し上げるような成果は、これと言って挙がっていない。

【新3本の矢は口先ばかり】
 以上は当初の3本の矢の検証であるが、安倍政権は15年10月に「新3本の矢」を揚げ、「一億総活躍」大臣を任命し、「同」国民会議を発足させた。新3本の矢は、「2020年頃に名目GDPを600兆円」「20年代半ばに希望出生率1・8%」「20年代初期に介護離職ゼロ」の三つである。
 これは三つとも望ましい政策の「目標」であって、当初の3本の矢のような政策の「手段」ではない。16年の参議院選挙のスローガンには使えるかも知れないが、「一億」の国民が「総活躍」して実現すると言われても、その道筋は分からない。この「新3本の矢」は、当初の第3の矢「成長戦略」によって実現すべき筋合いにある。出生率の引き上げも、介護離職者の抑制も、労働力率の引き上げに結び付けば就業者数を増やし、成長率を引き上げることに貢献するであろう。問題は、どうやってこれを実現するかである。

【アベノミクスが成功する確率は甘く見て5分5分】
 以上を総括すると、今のところアベノミクスが日本経済の立て直しに成功するか失敗するかは、甘く見ても五分五分である。あと1~2年で勝負がつくであろう。