計画的移民の検討に着手を(H28.1.14)
―『世界日報』2016年1月14日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

 年頭に当たり、日本のマクロ経済を回顧し、将来を展望してみよう。

【1980年代までは先進国中最高の成長率】
まず経済成長率を10年ごとに見ると、1960年代は高度成長の最盛期であったから、平均10・4%と当時の世界で最も高い成長率であった。
 70年代に入ると、71年のニクソン・ショックに伴う戦後初の円切り上げ、73年2月の変動為替相場制移行に伴う一層の円高、73年末から始まった第一次石油ショック、と次々に大きな外生的ショックに見舞われ、戦後初のマイナス成長となった年(74年)もあった。しかし、日本は石油ショックに伴うトリレンマ(輸入インフレ、経常収支悪化、景気後退)から最も早く立ち直り、「強い国」(ストロンガー・カントリーズ)と呼ばれて世界経済を牽引する「機関車」の役割を期待される程に回復した。高度成長は終わったものの、平均成長率は5・2%と先進国中最高の成長率を保った。
 80年代は、前半が「強い国」日本の後期であり、後半がバブル時代なので、やはり成長率の平均は4・4%と先進国中最高であった。

【バブル崩壊後の処理を誤り、先進国中最低の成長率へ】
 しかし、それからがいけなかった。バブル崩壊後の不良債権の処理を怠ったまま、97年度の超緊縮予算(財政赤字を一挙に13兆円縮小)を執行したため、景気急落で金融恐慌に突入した。その結果90年代の経済成長率は1・5%と、先進国中最低のグループに仲間入りした。
 企業の期待成長率は著しく低下し、ゼロ成長にも耐え得る経営を目指して「三つの過剰(設備・雇用・債務の過剰)」の処理を最優先したため、期待が自己実現的に現実となって、実際の潜在成長率と平均成長率が1%以下に落ちた。これが2千年代の姿であり、「失われた15年」である。

【非伝統的金融政策、アベノミクスでも立ち直らず】
 「非伝統的金融政策(量的金融緩和)」によって2005年中頃から08年中頃までの3年間は、需給ギャップが需要超過に変わり、デフレを脱却しかけたが、これも08年のリーマン・ショックとそれに続く米欧の金融危機、世界同時不況によって水の泡と消えた。東日本大震災が、これに追い打ちをかけた。結局、2千年代に入ってから今日までの平均成長率は、0・7%と先進国中最低である。アベノミクスが登場した13~15年を見ても、平均成長率は0・7%程度である。

【成長率低下の第一の原因は設備投資沈滞による生産性向上テンポの下落】
 以上のような最近25年間程の推移によって、世界の中で日本経済の地盤沈下が続いているのは残念なことであるが、将来を展望するために、もう少し深く成長率低下の原因を考えてみよう。実質GDP成長率を、①就業者1人当たりの実質GDP増加率(生産性の上昇率)と、②就業者数の変化率に要因分解してみると、次の二つのことが確認できる。
 第一に、先進国中最高の成長率を保っていた70年代と80年代は、②の就業者数も毎年1%程度増加していたが、高成長の主因は、①の生産性上昇率が毎年3~4%に達していたからである。逆に言えば、90年代と00年代の成長率急低下の主因は、「失われた15年」の中で設備投資の水準が落ち、生産性向上のテンポが0・9%と3分の1以下となったからである。

【第二の原因は少子高齢化による生産年齢人口の減少】
 第二に、90年代と00年代を比較すると、平均成長率は1・5%から0・7%へほぼ半分に低下しているが、生産性の上昇率は1%と0・9%で大差なく、もっぱら就業者数が0・5%の増加から0・3%の減少に転じ、差し引き0・8%の差が生じたことによる成長率の低下であった。
 以上の二つのことから、将来の経済成長率の低下を防ぎ、更に高めていくためには、生産性の向上と並んで、就業者数の増加対策が極めて大切であることが分かる。将来の人口の推計値と労働力率の見通しから試算した就業者数の年平均変化率を見ると、10年代は0・7%減、20年代は0・8%減、30年代は1・2%減となっている。従って、生産性上昇率が最近のように0・9%にとどまっていると、成長率は0%に近づき、30年代にはマイナス成長に陥ることになる。

【他の先進国は生産年齢人口の減少を移民で補っている】
 生産年齢人口の減少は、日本に限ったことではない。戦後のベビーブームや幼児死亡率の低下、平均寿命の劇的上昇などによって、生産年齢人口の増加率が人口全体の増加率以上に高まって世界の経済成長率を高めた。しかしこの現象は2010年頃にピークを迎え、以後は少子高齢化で生産年齢人口の増加率が低下し、人口全体の増加率を下回り始めた。米国、ドイツを中心とするユーロ圏、ブラジル、タイ、中国などの新興国でも始まっている。しかし米国やユーロ圏では、計画的に移民を受け入れることによって就業者数の増加を保ち、経済成長率の低下を防いでいる。

【今年は日本で計画的移民の是非を真剣に検討し始める年】
 移民は社会的摩擦を起こし、票にも結び付かないので、日本の政治家には不評である。日本国民も必ずしも移民を歓迎しているようには見えない。しかし移民を受け入れなければ、日本経済の地盤沈下は続き、政治や安全保障の面でも国際的発言力を失っていくほかはない。今年は計画的移民の是非を、真剣に検討し始める年になるのではないか。