戦後70年記念インタビュー(その4)
今年度中に異次元緩和の手仕舞いを(H27.8.14)
―『世界日報』2015年8月14日号―床井部長によるインタビュー
――今回の8%への消費税増税の時も、同じ言い訳をしていた。
鈴木 だから、また間違えた。政府が官僚の情報操作に踊らされて、不良債権の深刻さを知らなかった。もう一つ、財政赤字は待ったなしと言ったけど、冗談じゃない。97年の政府債務残高の対GDP比率は、他のOECD諸国とほとんど同じで、純債務に至っては日本が一番低い。
財政赤字を縮小する時は、増税よりも歳出カットが基本です。なぜか。増税をすれば、政治家や官僚は安易になり財政規律が緩む。歳出カットで行けば、財政規律は引き締まる。それから、税率を上げるのでなく、税収を上げる。それには持続的成長以外にない。それが財政再建の基本だと思う。
そういうわけで、大失敗を橋本内閣がやったために、今度ばかりは日本経済が本当にダメになってしまった。潰された97年度から2001年度までの5年間の平均成長率はゼロ成長です。企業はゼロ成長でも利益が上がるよう、3つの過剰つまり債務と設備と雇用の3つの過剰を整理し損益分岐点操業度を下げる努力を始める。設備投資は絞り、雇用は切り、賃金は下げる。それで、日本経済の体質が弱くなってしまったんです。
ダメになるに当たって、おまけがついた。緊縮政策を実施する前の3年間で立ち直ってきている状態を伸ばしていれば、21世紀の初め頃には、不良債権はなし崩し的に消えて、今ほど先行き感の悪い、弱気の日本の経営者にはならなかったと思う。だけど、現実はそうなり、委縮して投資は弱く、雇用はあまりしない、賃金は下げる。デフレが97年度の橋本政権の緊縮財政から始まったんです。
その後、2002年からリーマンショックの起きる2008年ぐらいまで、戦後最長のいざなみ景気の中、一度デフレから脱却しているが、リーマン・ショックが来て潰れてしまう。
――2008年ですね。
鈴木 これも、日本にとってはツイていない。その後、さらに東日本大震災が来たものだから、本当に辛い時期になる。
最後にアベノミクスが登場してから2年半以上経っていますが、実際に動いているのは金融の大緩和だけです。2番目の財政出動は安倍政権の最初の年こそ増えたけど、その後は少し減って、今は逆に足を引っ張っています。それに消費増税をやったから、財政はむしろ逆噴射で、逆方向に矢が飛んでいる。3番目の成長戦略は掛け声ばかりで、なかなか動き出さない。
さすがに、異次元金融緩和の効果が出てきて、ようやく需給ギャップがゼロ、物価がプラスになるところまで漕ぎ着けた。でも、これはアベノミクスでなく、景気循環のせいです。設備投資はしばらく控えていると、設備が旧式になり新しい最新鋭の設備に変えなきゃという動きが循環的に出て来る。ちょうど今がその時期で、そういう非常にラッキーな面がある。
この先どうなるかだが、リスクシナリオが3つあると思う。一つは、成長率は上がってこないのに、金融緩和でインフレだけが進むスタグフレーションの危険性。2番目は、2%インフレを定着させるまで金融緩和をやっていたらインフレが高進するのではないかというリスク。3番目は、そういう中でバブルが発生してくるリスク。この3つのリスクがある。
だから、今後の政策運営としては、この3つのリスクを何とか避けていかないといけない。そのためには、2%インフレの定着にこだわるな、ということ。需給ギャップは締まってきているから、もうデフレには戻らない。本年度中に異次元金融緩和の手仕舞い、出口政策に入れということです。
まずは年間80兆円も買っている長期国債の買い上げの量を絞っていく。その際、既に出口政策を始めている米国の慎重なやり方を参考にする。もう一つは、17年4月からの消費税率上げは延期した方がいい。折角、今の景気回復に乗って、財政赤字が縮小してきている。この流れを続けながら、財政再建は増税でなく歳出カットで行くことです。