プラス成長に転じた日本経済の持続性確保が今後の最大の課題(H27.2.12)
―『世界日報』2015年2月12日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【昨年10~12月期はかなりのプラス成長の見込み】
 昨年4月の消費増税以降、2四半期連続してマイナス成長となっていた日本経済は、昨年10~12月期にようやくプラス成長に戻ったようだ。10~12月期のGDP統計の1次速報値は、今月16日に公表されるが、これまでに判明した主要経済指標から判断して、かなりのプラス成長になったことは間違いなさそうだ。

【輸出と設備投資にリードされ10~12月期の鉱工業生産と出荷は3四半期振りのプラス】
 例えば、鉱工業生産と出荷は、4~6月期と7~9月期に揃って減少したが、10~12月期にはいずれも増加に転じた。とくに出荷のうち輸出は、前期比プラス6・9%と大幅に増加した。また国産品の国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給も、10~12月期に増加に転じたが、その中で最も高い伸びをしたのが、足許の設備投資動向を示す資本財(除輸送機械)の前期比プラス4・3%である。

【実質家計消費も10~12月期に3四半期振りの増加】
 ところでGDPに占める鉱工業の比重は2割にすぎない。そこで残りのサービス業と農業に対する最大の需要項目である家計消費の動きを見よう。「家計調査」の2人以上の世帯の実質消費支出(季節調整済み)は、消費増税前の買い急ぎの反動で、4~6月期に前期比マイナス9・3%の大幅減少となり、7~9月期もその水準で横這いとなっていたが、10~12月期に至って前期比プラス2・3%とようやく増加に転じた。やや小幅な増加ではあるが、GDPの6割を占める家計消費の増加は、成長寄与度としては大きい。

【10~12月期のプラス成長転換を主導した輸出、設備投資、家計消費の今後が問題】
 このほかの需要項目では、住宅投資が駆け込み需要の反動で2四半期連続して減少した後、10~12月期にはぼつぼつ下げ止まるかという段階である。13年度末補正予算の執行で、2四半期連続して増加していた公共投資は、公共建設工事受注額が減り始めた現状から見て、ぼつぼつ頭を打ちそうである。
 結局、10~12月期のプラス成長転換を主導したのは、輸出、設備投資、家計消費であり、この3つの需要項目が回復を続けて、持続的成長が実現できるかが今後の問題である。

【円安の輸出数量促進効果がようやく出てきたか】
 アベノミクスが打ち出された13年初めから大幅な円安が進んだにも拘らず、日本の輸出数量(日銀推計、季節調整済み)は13年度中に前年比プラス0・6%、14年度上期に前期比マイナス0・9%と1年半の間ほぼ横這いにとどまった。09~12年の大幅円高の時期に日本の輸出工場の海外シフトが進んだこと、欧州の停滞、アジアの成長鈍化などリーマン・ショック後の世界同時不況から国際経済が立ち直っていないこと、などが原因と見られる。
 しかし、14年10~12月期に、先の鉱工業製品輸出にも現れていたように、輸出数量が立ち直り、前期比プラス4・8%(年率プラス20・6%)の大幅な増加となった。景気が回復している米国向けの輸出が伸びていることと、日本の輸出工場の国内回帰が始まったことが響いていると見られるが、ようやく円安の輸出数量促進効果が出てきたのだとすれば、今後15年度にかけて、輸出回復の持続性に期待が持てる。

【設備投資の先行きにはまだ危うさが残る】
 設備投資については、先行指標である14年下期(10~12月期は見通し)の機械受注(民需、除船舶・電力)が上期比横這いであることから見て、回復の持続性に不安が残る。円安に伴う14年度企業業績の好転や異次元金融緩和など投資促進要因はあるものの、実際の投資決定を最も大きく左右するのは企業の先行き観である。企業は日本経済の持続的成長にまだ十分な自信を持てないのであろうか。

【実質家計消費は本年4月から本格的に立ち直る可能性】
 実質家計消費は、賃金や可処分所得の前年比増加率が消費増税分を含む消費者物価の前年比上昇率にとどかない状態が続いているので、消費増税の影響が残る本年3月までは、前年水準を上回ることはないであろう。しかし、前月比で見れば実質賃金は回復し、雇用改善も加わって実質可処分所得は増えている。これに支えられて、今後も実質家計消費は徐々に増えて行くであろうが、本格的な回復は本年4月以降、消費増税の影響が消えて消費者物価の前年比が下がってからであろう。

【今後の持続的成長は業績好転企業の輸出・投資・雇用態度に懸る】
 今後の輸出、設備投資、家計消費を左右するのは、これからの企業の業績と行動である。円安を追い風に、本年3月期の東証1部上場企業の経常利益は、自動車、電機などを中心に、これまでのピークである08年3月期を上回りそうだと伝えられる。この収益を、企業が国内輸出工場への設備投資、雇用増加とベースアップなどに積極的に投入するかが、持続的成長実現の鍵となろう。

【原油大幅値下がりに伴う交易条件好転=国内インフレ率低下の景気刺激効果を活かせ、2%インフレ目標を気にするな】
 世界的な原油価格の大幅下落で日本の交易条件が好転し、企業業績の好転とインフレ率の低下が進んでいることは僥倖(ぎょうこう)要因である。本年4月以降、消費者物価の前年比上昇率が0・5%前後に下がり、実質賃金や家計の実質所得、実質消費の前年比伸び率が高まるであろう。デフレを脱却した今日、政府と日銀は、2%のインフレ目標にいたずらに拘泥(こうでい)せず、交易条件好転=国内インフレ率低下の景気刺激効果を存分に享受すべきである。この局面でインフレ率を高めることは、持続的成長にとってむしろマイナスとなることを見逃してはならない。