異次元金融緩和の第2弾は楽観的見通しを修正した結果―将来のリスクは更に増加(H26.11.4)
―『世界日報』2014年11月4日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【量的、質的金融緩和の第2弾】
 10月31日、異次元金融緩和の第二弾が、人々の意表を突いて打ち出された。①マネタリーベースの年間増加額を、異次元金融緩和第一段(13年4月)の年間約60~70兆円から約80兆円に拡大する、②そのために、長期国債の買入れペースを、保有残高の年間約50兆円増加から約80兆円増加に拡大する。これに伴い、買入平均残存期間を7年程度から最大3年程度延長する、③ETF(指数連動型上場投資信託受益権)とJ-REIT(上場不動産投資信託)の保有残高が、それぞれ年間約3兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう、これ迄の3倍増のペースで買入れ、また新たにJPX日経400に連動するETFを買入れ対象に加える、の3点が内容である。

【想定外のポジティブ・サプライズ】
 本年8月12日の本欄「現・前日銀総裁の金融緩和」で指摘したように、昨年4月に打ち出された黒田日銀の「量的・質的金融緩和」は、大規模な兵力の一挙投入が特色であり、8回も小刻みに追加緩和した白川日銀の「資産買取等の基金」の資産買入とは異なり、追加緩和は少なくとも当面はないものと思われていた。それだけに、今回の措置は、市場にとって想定外のポジティブ・サプライズであった。

【タイミングは絶妙】
 しかも、そのタイミングが絶妙で、米国のFRBが量的金融緩和の第三弾(QE3)に伴う資産購入を10月いっぱいで終了することを決めた10月29日(日本時間30日)の直後であり、国内で年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、今後資産構成を見直し、国内株式の比率を上げ、日本国債の比率を下げると発表した当日である。

【取り敢えず大幅な円安と株高】
 このため、31日のマーケットでは、日本の量的緩和拡大と米国の量的緩和終了の見通しが重なって為替市場で円安、ドル高が1㌦=112円台まで進み、国内株式市場では日銀のETF購入やGPIFの株式購入の増加期待と大幅な円安が重なって、日経平均株価が前日比755円上げ、戦後最長景気が終わりかけた07年以来7年振りの高水準となり、長期国債市場では日銀の買い増しとGPIFの買い控えの期待が相殺し合い、僅かな価格上昇(金利低下)となった。

【黒田日銀の楽観的見通しの唐突な修正】
 1カ月前の10月7日の日銀のステイトメントでは、先行きの日本経済は「緩やかな回復基調を続け、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などの影響も次第に和らいでいく」とし、消費者物価の前年比は「1%台前半で推移するとみられる」としていた。しかし、その後の景気指標の発表を見て、この楽観的な見通しが揺らいできたため、7~9月期のGDP統計(1次速報、11月17日)や10月の全国消費者物価指数(11月28日)の公表で追い込まれないうちに、先手を打って追加緩和を打ち出したのではないだろうか。まさに「君子豹変す」で、政策委員9人の票が、賛成5票、反対4票と割れたことにも、その間の事情が窺われる。

【経済の基調が弱いのは駆け込み需要の反動という一過性の動きだけではない】
 確かに経済指標は弱い。7~9月期の鉱工業生産と出荷は、消費増税前の駆け込みの反動で減少した4~6月期を更に下回っている。しかも9月末の製品在庫の水準は高く、10月以降にも生産調整の圧力が残っている。財別には、耐久消費財と建設財で著しい。これは、駆け込み需要の反動という一過性の動きだけではなく、基調的に家計消費と住宅投資が弱いためであろう。

【消費増税で家計の実質可処分所得が減少】
 7月10日の本欄「楽観許さぬ本年度経済成長」で述べたように、消費税率が5%から8%へ引き上げられた4月以降、実質消費支出は前年水準を下回り続けている。4月以降、全国消費者物価指数の前年比は3%台、持ち家の帰属家賃を除くと4%前後となっているためで、家計(単身世帯を除く)の実質消費支出(季節調整済み)は、4月から9月まで、3月以前の水準を6%程下回って推移している。4月のベースアップ、夏期賞与、緩やかな雇用増加を全部合わせても、家計の名目可処分所得増加は消費者物価上昇の3%台に追い付かないからである。

【コアCPIの上昇率はジリジリと低下】
 4~6月期の実質成長率は、年率マイナス7・1%であったが、過剰在庫の積み上がりによる在庫投資の増加を除くと、実にマイナス12・6%である。7~9月期は家計消費と住宅投資が弱いうえ、在庫投資の反動減も加わるので、小幅な成長率にとどまるだろう。その中で、コアCPI(生鮮食品を除く全国消費者物価指数 )の前年比はジリジリと低下し、消費増税の影響を除くと9月は1・0%で、1%台前半という従来の日銀の予測を割り込もうとしている。

【異次元金融緩和の第2弾のコストは高い】
 異次元金融緩和にも拘らず、このところ金融面の指標もやや弱い。マネタリーベース供給増加の63%は日銀当座預金に留まり、現金流通高を含む肝心のマネーストック(M3)の前年比増加率は、本年1月の3・5%をピークに9月は2・4%まで下がっている。
 今回の異次元金融緩和の第二弾は、第一弾の綻びを繕う窮余の一策であったのかも知れない。しかし、そのコストとして日銀資産の劣化が一段と進み、出口政策の難しさを更に増やしたことは確かである。