欠損金繰越期間を国際標準並みの20年に延長せよ(H26.10.9)
―『世界日報』2014年10月9日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【安倍政権は国家戦略特区で岩盤規制を緩和する計画
 医療、農業、都市開発、外国人労働などに関する規制は、規制緩和に対する抵抗力がとくに強いので、「岩盤規制」と呼ばれている。安倍政権は成長戦略の目玉として、この岩盤規制を地域限定で緩和する「国家戦略特区」を設定し、「世界で一番ビジネスのしやすい環境を作る」ことを目指している。東京圏や関西圏など6地域がその「特区」に決まった。

【日本の問題は箱物インフラではなく国際標準から離れたビジネス規制】
 このうち東京圏では、外資系企業の誘致を目指し、高層オフィスビルや近接した住居施設、サービス施設(インターナショナル・スクール、外国人向け医療施設など)を備えたビジネス拠点を一体的に整える計画に、大手不動産会社が乗り出したと伝えられる。
 「世界で一番ビジネスのしやすい環境」には、確かにこのような「箱物」のインフラは必要であろう。しかし10数年前から外資系企業のアジア拠点が東京から香港、シンガポールなどに逃げ出し、その後も優れた外資系企業の日本進出が捗々しくない最大の理由は、東京の箱物インフラが他のアジア都市に比べて劣っているからであろうか。もっと大きな理由は、ビジネスに対する税制をはじめとする諸規制が、「国際標準」並みになっていないからではないだろうか。

【法人税改革では法人税率引き下げと法人税負担構造の改革が重要】
 安倍政権もそれを認識しているからこそ、年末に決める来年度の税制改正大綱で、法人実効税率を諸外国並みに引き下げる第一歩を踏み出そうとしており、目下政府と自民党の税制調査会で検討を重ねている。本年6月に政府税制調査会が発表した「法人税の改革について」では、グローバル経済の中で日本が強い競争力を持って成長していくためには、法人税もまた成長志向型の構造に変革していく必要があるとして、①法人税率の引き下げと、②法人税負担構造の改革の二点が重要であるとしている。
 日本の企業や日本に進出するかどうかを決めようとする外国企業にとっては、法人実効税率などが「国際標準」並みか、法人税負担構造が「シンプル」で「公平」かが大切であり、そうでなければ日本の企業は海外に拠点を移し、外国企業は日本以外の国へ進出する傾向は変わらないであろう。

【負担構造の改革で法人税引き下げの財源を捻出するには、租税特別措置の整理と資本金基準から所得ないし付加価値基準への変更が大切】
 二つの税制調査会では、日本の財政が逼迫しているため、①にともなう財源を②で捻出することを模索しているようだ。負担構造改革の結果、シンプルで公平な税制になるならそれも良い。
 例えば、租税特別措置の中には、過去の一定の局面で例外的に必要であった特定産業に対する租税軽減措置がそのまま長く温存され、既得権益化しているものがある。特定の納税者のみを対象とする租税特別措置は、現在の経済環境に照らし、極力廃止すべきであろう。また中小企業を優遇するため、資本金の額に基づき一律に優遇税制を適用したり、課税対象から除外する税制が多いが、資本金の額が企業の担税力を適切に反映しているとは思えない。資本金ではなく所得(ないしは付加価値)を基準とすることによって、より公平に税収を確保することが出来る筈である。

【欠損金繰越制度の縮小は国際標準に比して日本を益々不利にし、成長戦略に逆行】
 負担構造を改革して財源を捻出する議論の一環として、欠損金繰越控除制度を縮小する案も出ているようだ。現在日本では、9年間の間、欠損金を翌期以降の利益金の8割と相殺できる欠損金繰越制度がある。伝えられるところによると、この8割の上限を例えば6割程度に引き下げ、4割程度の利益金に法人税を課して税収を増やそうという案が検討されているという。
 欧米先進国やアジア諸国の例を見ると、欠損金繰越に控除制度を設けている国は、独(6割)仏(5割)の2カ国などで、米、英、加、台湾、韓国などには控除制限はない。しかも、控除制限のある独、仏では、控除期間は無制限なので、控除する時期が後にずれるだけで、企業の負担は増えない。因みに諸外国の控除期間は、独、仏のみならず、英、伊などの欧州諸国やアジアのシンガポール、香港は無制限である。期限がある場合も、米国は20年、台湾、韓国は10年である。

【控除制限を4割に拡大するのであれば、控除期間を米国並みの20年に延長せよ】
 日本の現行制度(控除制限2割、期間9年)は、国際比較で見て最も企業に不利である。その上更に控除制限を4割程度に拡大すれば一層国際標準から遠ざかり、日本企業の海外脱出を促し、外国企業の日本進出を阻止しよう。初期投資が大きく、黒字転換までの期間が長いバイオ、環境、都市開発、大型農業などの成長産業に大きく影響する控除制限拡大は、まさに成長戦略の逆噴射である。目先の税収を増やすためにどうしても控除制限を拡大したいのであれば、せめて欠損金繰越期間を欧米先進国中最短の米国並み、20年に延長すべきであろう。

【繰越期間の延長は帳簿保存上も問題なし】
 現在、法人税法上の帳簿保存義務期間は7年であるが、平成23年に繰越期間を7年から9年に延長して以来、7年超の繰越期間を希望する企業のみが帳簿保存期間をそれに合わせて延長しているので、20年に延長しても、帳簿保存上の問題は生じない。