経済成長下振れは消費再増税への黄信号(H26.9.9)
―『世界日報』2014年9月9日号“Viewpoint”(小見出し加筆)
【消費増税前の駆け込み需要の反動減は大きい】
「経済最優先」の安倍改造内閣が発足したが、当面の経済成長は、9月5日の記者会見で黒田日銀総裁が認めたように、「若干下振れ」している。消費増税前の駆け込み需要の反動減は、大したことはないという大新聞の論調も、4月以降の経済指標の公表が増えるにつれ、変わってきた。
大きな切っ掛けとなったのは、4~6月期の実質成長率(1次速報)が年率でマイナス6・8%と、駆け込み需要で膨らんだ1~3月期のプラス6・1%を帳消しにするほど落ち込んだことだ。また、鉱工業生産は7月になっても、反動減で落ち込んだ4~6月期の平均水準にも戻っていない。
(注)9月8日に公表された2次速報では4~6月期が年率で7.1%のマイナス成長と更に下方修正された。
【実質GDPは7~9月期になっても1~3月の水準に戻らない予想】
政府がいま景気の下振れを心配している最大の理由は、明年10月1日から消費税率を更に2%引き上げて10%にするという最終的決断を、7~9月期のGDP統計の2次速報(12月8日公表)を見た上で下そうとしているからである。今のところ民間調査機関の予測では、7~9月期の実質成長率は、4~6月期の落ち込みを相殺する程大きくない。つまり、7~9月期になっても、実質GDPは1~3月期の水準まで回復しない予測なのだ。
【本年上期の基調は昨年下期より弱い】
駆け込み需要があれば反動減が起きるのは当たり前で、大切なのは、その乱高下を貫く趨勢、基調である。それによって本年下期以降、来年9月までの経済動向を予測し、消費税率の更なる引き上げの是非や追加景気対策の必要性を判断すべきだろう。
本年上期の経済成長の基調を判断するために、駆け込みとその反動が出た1~3月期と4~6月期の平均(上期平均)を見ると、昨年下期比では年率1・2%増、前年同期(昨年上期)比では1・3%増である。決して高い伸びではないが、現在の潜在成長率が1%以下であることを考えると、緩やかな回復基調を維持しているとは言えよう。ただ気になるのは、本年上期の年率成長率1・2%は、昨年下期の1・5%より低く、成長の趨勢が弱まっていることである。鉱工業生産を見ても、本年上期は前期比年率3・8%増で、昨年下期の同7・0%増を下回っている。
【本年上期の家計消費、住宅投資、公共投資は減少】
今後の経済成長を予測し、明年10月の消費増税の是非を考えるためには、この趨勢鈍化の原因を調べることが大切である。実質GDPの構成項目別に本年上期と昨年下期の前期比増減率を比較すると、家計消費、住宅投資、公共投資は、昨年下期は増加し、本年上期は逆に減少している。これに対して設備投資は2半期続けて増加しているが、増加率は本年上期に加速している。また純輸出は、昨年下期に悪化、本年上期に好転している。駆け込み需要とその反動減の両方を含む本年上期に、経済成長が下振れした原因は、家計消費、住宅投資、公共投資の基調が弱まっているからであり、設備投資と純輸出の基調はむしろ強くなっていることが分かる。
【消費増税に伴う消費者物価上昇で実質ベースの賃金と可処分所得は減少】
7月10日の本欄「楽観許さぬ本年度経済成長」でも指摘したように、4月以降、消費税率が3%ポイント引き上げられたことに伴い、全国消費者物価の前年比は3・5%前後に跳ね上がっている。他方、本年は大企業を中心に久し振りにベースアップが実施され、また夏のボーナスも増えたが、それでも中小企業を含む全産業の現金給与総額は、前年比で4~6月期プラス0・8%、7月プラス2・6%である。消費者物価の前年比上昇率には及ばず、実質賃金の下落率は、本年4~6月期にマイナス3・7%、ボーナス月の7月でもマイナス1・4%である。
他方で雇用はジリジリと増加しているが、7月現在、就業者の前年比はプラス0・7%である。実質賃金のマイナスを相殺するほどには伸びていないので、家計全体の実質可処分所得は減少を続けている。これが、駆け込み需要と反動減という一時的攪乱とは関係なく、家計消費と住宅投資の基調が弱くなっている根因である。
【公共投資は予算不足で減少】
公共投資の予算は、12年度末の補正予算と13年度当初予算の合計で前年比12・3兆円増えたが(アベノミクスの第2の矢、財政出動)、13年度末の補正予算と本年度予算の合計では5・3兆円減った。公共投資の趨勢が下振れし始めるのは当然である。
【設備投資と純輸出の回復が家計消費等の弱さをどこまで相殺できるか】
他方、設備投資は1~3月期に前期比プラス7・7%と著増したあと、4~6月期の反動減はマイナス2・5%にとどまった。足許の設備投資動向を示す資本財(除輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)の前期比は、1~3月期プラス11・6%増のあと、4~6月期マイナス9・3%の反動減となったが、月別には6月から回復しているため、7月は4~6月平均比プラス5・2%増の水準に戻った。本年度の設備投資は各種の計画調査通り伸びるだろう。純輸出も、最近の米国景気の回復傾向と円安の気配から見て、立ち直りの方向にある。
明年10月の消費再増税と追加景気対策の要否は、設備投資と純輸出の回復傾向が、家計消費、住宅投資、公共投資の弱さをどの程度帳消し出来るかどうかの判断に左右される。