楽観許さぬ本年度の経済成長(H26.7.10)
―『世界日報』2014年7月10日号“Viewpoint”(小見出し加筆)
【4、5月の消費、住宅投資の指標は予想通り落ち込み】
消費税率が3%引き上げられ、8%となってから1四半期が経過した。予想通り、消費増税前の駆け込み需要の反動で、4月と5月の経済指標は落ち込んでいる。
家計の関係では、「家計調査」の消費支出(2人以上の世帯、季調済み実質)が、1~3月期に前期比3・8%増加したあと、4~5月平均は1~3月平均に比して9・8%も減少した。乗用車新車登録台数(季調済み)は、1~3月期に前期比5・8%増加したあと、4~5月平均は1~3月平均比17・9%も落ちた。新設住宅着工戸数(同)は、完工引き渡しベースで消費税が懸るため、昨年10~12月がピークとなり、1~3月期は前期比10・3%減少したが、4~5月平均はその1~3月平均から更に4・8%落ちた。
【4、5月は設備投資も落ち込み】
企業の設備投資関連では、資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計、季調済み)が、1~3月期に前期比11・6%の大幅増加となったあと、4~5月平均は1~3月平均比10・7%の減少となった。鉱工業製品全体の国内向け総供給(同)も、1~3月期に前期比4・5%増加したあと、4~5月平均の1~3月平均比は7・2%減少している。
このような4~5月の出荷の反動減が企業の想定通りであるならば、企業は予め生産調整をして過剰在庫の発生を防いでいる筈であるが、5月の鉱工業製品の生産者在庫と在庫率は、3月比それぞれ2・9%、1・8%の増加となっている。多少想定を上回る落ち込みがあったのかも知れない。
【問題は今後の家計消費、設備投資、輸出の趨勢】
買い急ぎがあれば、その反動減が出るのは当たり前であるから、この4~5月の落ち込み自体は大した問題ではない。大切なことは、消費増税が実施された4月以降明年にかけて総需要の趨勢がどうなるかである。4月13日のこの欄でも述べたように、財政面からの支援はもはや期待できないので、問題は家計消費、設備投資、輸出の展望である。
【過去1年間は所得減少の下で消費性向が上がり消費が伸びた】
本年1~3月期のGDP統計を見ると、実質家計消費は前年を上回っているが、実質雇用者報酬は前年を下回っている。同様の傾向は、3月の家計調査(勤労者世帯)の実質消費支出と実質可処分所得の関係にも見られる。つまり、消費増税前の本年3月までの1年間は、実質所得が増えない下で、消費性向を上げて実質消費を伸ばしてきたのである。
【今後も実質所得は減少する】
この傾向は、消費増税後の本年度も続くのであろうか。取り敢えずはっきり言えることは、本年度も雇用者の実質所得は増えないであろうということである。5月の全国消費者物価の前年比は、消費税率が3%引き上げられたため、前年比3・7%の上昇となっている。これは、今年のベース・アップや夏期ボーナスの前年比増加率を遥かに上回っている。現に4月と5月の実質賃金指数(全産業)は、前年比それぞれマイナス3・4%とマイナス3・6%の減少である。
【厳しい家計消費の伸び】
雇用者の所得は、雇用者数の増加によっても増えるが、失業率が3・5%と既に完全雇用に近づき、労働需給のミス・マッチも大きいことを考えると、雇用者の伸びが年率1%弱にとどまっている現状が、大きく変わるとは思えないので、雇用面から所得が増える程度は限られるだろう。
今後の実質所得がこのように減少する下で、本年度の実質消費が再び消費性向の上昇を伴って伸びるであろうか。仮に伸びたとしても、それが成長の主導要因になる程大きく伸びるとは思えない。
【本年度の設備投資の伸びは低い】
次に設備投資はどうであろうか。本年1~3月の設備投資は、消費増税前の駆け込みもあって大きく伸びたが、4~5月の資本財の国内向け総供給は、前述の通り反動減となった。6月調査「日銀短観」によると、製造業・非製造業・金融機関の合計で、本年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み、土地投資を除く)は前年比4・9%増と前年度の伸び(6・2%増)をやや下回る。大企業と中堅企業の製造業が前年比2桁の伸びとなっている反面、非製造業の伸びは横這い圏内にとどまっている。今後、中小企業を中心に計画が上方修正されるかも知れないが、今のところ設備投資が本年度の成長の牽引役になる程伸びる可能性は低い。
【企業の計画では内外需共増収率は低く、経常利益は減益】
総需要拡大の牽引役を欠いているため、「短観」の売上計画では、本年度の増収率が、大企業でも製造業が1・4%(前年実績は7・1%)、非製造業が2・1%(同5・4%)と低い。大企業製造業の売上計画を国内と輸出に分けると、いずれも前年比1・4%の微増で、前年の国内5・1%増、輸出12・3%増とは様変わりである。本年度は輸出にも期待できない見通しとなっている。収益計画では経常利益の増益率が大企業製造業でマイナス3・0%、同非製造業でマイナス6・1%といずれも減益である。
消費増税後の本年度の経済成長は、あまり楽観しないほうがよいかも知れない。